フードリンクレポート


「どんぶり道場」が化けそう!
回転寿司の次はフードコート。
丸山 晃 氏
株式会社アールディーシー 執行役員 専門店事業部長

2009.10.2
埼玉、栃木、群馬3県でドミナントとして回転寿司「がってん寿司」を展開するアールディーシー。本年5月にイオン土浦のフードコートに出店した390円かつ丼の「どんぶり道場」が商業施設から熱いオファーを受けている。現在、グループで約180店を展開中。目標は2011年に500店だ。回転寿司業態以外の専門店事業部を統括する丸山晃氏に聞いた。


イオン土浦のフードコートに出店した390円かつ丼の「どんぶり道場」。

歯科医が経営する回転寿司

 アールディーシー代表、大島敏氏は岩手県医科大学を卒業し、1980年に生まれ故郷の埼玉県寄居町で大島歯科医院を開業した。

「開業当時は、医者が偉いとあがめられた時代。しかし、社長は、その日診察した患者に『痛くないですか、薬は効いていますか』と必ず電話をかけたそうです。『おばあちゃん、僕が終わったら送って行ってあげるからちょっと待ってて』と家まで送ってあげたり。正にホスピタリティ。それを普通にやっていたら、2時間待ちの行列のできる歯医者になったそうです。そして、患者さんから大島先生じゃないと厭だと言われ、お客様から忠誠心をもらった瞬間を感じ、その時に起業を決意したそうです。もっと大きな舞台でやれば、もっと多くの人を喜ばせることができると起業した」と、丸山氏は大島社長を語る。


アールディーシー、丸山晃氏。

 大島氏は当時チェーンとしては未だ発展していなかった回転寿司とラーメンに目を付け、ますは学ぶため「元禄寿司」のFCに加盟し、その後、独自ブランド「がってん寿司」を立ち上げ、回転寿司ブームに乗って、75店舗にまで拡大した(分社した北関東アールディーシーの店舗を含む)。

「当初は出生地の埼玉県に絞って出店。普通なら漁港が近い方が流通も良さそうなのに、敢えて海なし県の埼玉県、栃木県、群馬県に出店し続け、ドミナントを作った。完全に独り勝ちの土壌を作ったんです。」

「さらに、駅前や商業施設には出店しないで、郊外の家賃が安いところに作った。車でないと来られない郊外に作った。家賃が安く、投資しても回収が早い。社長の目の付けどころが良かった。」


他業態をやって分かった回転寿司の効率良さ

 丸山氏は回転寿司業態で働いた後に、回転寿司以外の業態の営業責任者となった。

「回転寿司出身で他の9業態を担当しています。改めて、回転寿司の究極の効率の良さが分かりました。究極のファーストフードで、店に入った瞬間に食べられる。お待たせしません。凄い効率です。牛丼1杯390円で売っている店がありますが、ウチは315円の皿をレーンに流しておけばどんどん売れる。ほとんどはツーオーダー。何々下さい、と言われて調理をして出すだけ。」

「たまたまブリが安くて一杯仕入れたとします。普通に売ると余してしまう。ハンバーグ店なら安い肉がいっぱいあっても出なきゃダメ。回転寿司は『今日はいいブリ入ってますよ、ブリ美味しいですよ、これが脂のったブリですよ』とやるとその場で営業販売できる。在庫コントロールもその場で出来る訳です。」

「板場に立つ人間が、作り手であり、サービス者であり、在庫管理者であり、発注者である。凄い効率がいい。しかも、スタッフは色んなことをやんなきゃいけないので、能力も高まる。そこに目を付けた社長のセンスは凄い。」


「がってん寿司」 外観。


「がってん寿司」 カウンター。


「がってん寿司」 テーブル席。


一業態は15年、次の柱を求めて他業態に

 現在、同社の寿司業態は「がってん寿司」、立ち寿司「江戸前がってん寿司」、タッチパネルの「承知の助」、買収した子会社が展開する北海道のグルメ回転寿司「函太郎」など合わせて85店(内FC1店)を展開。


市場場外食堂「大島屋」 外観。


「大島屋」海鮮丼 1000円。

 他業態は、天ぷらと刺身がウリの市場場外食堂「大島屋」(14店 内FC1店)、とんかつ「かつ敏」(10店)、ラーメン「唐麺や十兵衛」(5店)、自然食ビュッフェひな野(2店)、武蔵野腹いっぺぇうどん大島屋(1店)、ハンバーグ工房(1店)、韓国美食鉄板台所けなりぃ(1店)を展開。さらに子会社として自然食ビュッフェ「ひな野」(直営3店・FC40店)を運営する株式会社ひな野、廉価とんかつ「かつはな亭」(14店)を運営する株式会社パルメ、韓国美食鉄板台所「けなりぃ」(1店)などを展開している株式会社チキンスープカンパニーを保有している。そして、2009年5月にかつ丼「どんぶり道場」を直営で開店させた。

 1999年、「かつ敏」を熊谷にオープンさせたのが他業態の始まり。

「社長はチェーンストア理論を研究しリスクマネジメントを考え、1つの業態は15年 で飽きられる。それまでに次の柱を用意しなきゃいけないと、他業態を始めました。去年、一昨年に物凄い勢いで出店。新しいブランドを作っては潰しての繰り返しでした。」


フードコート用にコンパクト化

「どんぶり道場が化けそうです。商業施設から引き合いが凄い。年商300億円以上の商業施設にはどんどん出店します。どんぶり道場だけで200店を目指します。」

「どんぶり道場」の成功でフードコートに注目している。

「今まで郊外でやってきましたが、他業態も商業施設のフードコートに出店していこうと考えています。回転寿司の出店費用は1億円。ところが、フードコートなら2千万円。5店も出せる。戦略を変えました。低投資で回収が早い。施設側の集客してくれるので、店のブランドにこだわらずお客様が注文してくれる業態を出せばよい。」


「どんぶり道場」 金のどんぶり 秘伝のたれかつ 390円。


「どんぶり道場」 会津名物 ソースかつどんぶり 490円。


「どんぶり道場」 銀のどんぶり 卵とじかつ 440円。

「今後は寿司も含めて現在の12ブランドをコンパクト化して、フードコートや駅前立地にできる形態にトランスフォームしていこうと考えています。正直、どこに答えがあるか分かりません。社風はトライ&エラー。やってダメならやめればいい。10店出して1店当たればいい。」

「商業施設の契約期間は5〜7年なので、途中で仮にどんぶり道場の賞味期限が切れたら、次コレ次コレといける準備をしている。次に面白いのは海鮮丼などの大島屋です。フードコートを見まわすと、誰も参入してないのが刺身。寿司をフードコートでやったら面白いのかな。」


調理技術力には絶対的な自信

「ウチは技術力に絶対的な自信があります。技術を向上させる仕組みが出来上がっています。入社から主任になる際、3分間で15皿をきれいにお客様に提供しても違和感のないように握れないと主任に上がれません。次に料理長になる際には、真鯛を一匹、制限時間内に下せないとダメです。」

 3分間に何皿握れるかという社内コンテストを定期的に行っており、チャンピオンは27皿も握れるという。

「上から下へ教える仕組みができています。技術力はセントラルキッチンや100円寿司とは違う。大前提は店内調理。朝、店に来たら魚が積み上げられていて、店のスタッフが鱗も内蔵もとって全部仕込みをする。店には予想もしない魚が届いたりします。送られてきたものは全て受け入れて調理する。魚の骨格が分かっていれば捌ける。お客様にとっても毎回、目新しい魚に出会えて喜んでいただけます。」

「メインの鮪は、オーストラリアの漁師と契約し、蓄養マグロを送ってもらう。フィリピンには海老の棚を持ち、自社で養殖。中国にはアナゴの工場を持っています。ウチで使いきれない分は他所に売ります。コストも下がるし、安心して使えます。あくまでも自分たちのスペックで作れます。」

「仕入れと店内調理で他社に負けません。技術力が強く、原価も安い。原価率は、他社は50%前後ですが、ウチは同じクオリティで他社より低く抑えられます。」

「ライバルは、千葉の銚子丸さん。銚子丸さんは板場には調理師しかいれず、サービスより商品力。無骨な職人らしいイメージで売っています。ウチは商品力以上にサービス力、、若さ、元気、活気をアピールしてきました。高校生や女性を職人に仕立て上げてきました。」


回転寿司の不況は遅れてやってきた

「回転寿司業態は、昨年秋のリーマン・ショック当時は何ともなかったですが、半年後からじわじわ、1年たって不況のボディーブローが効いてきた。底が今年7月で、8月は少し戻った感じです。客数・客単価ともに落ちたので、今は必死に客単価を下げています。ユニクロの柳井会長が『以前は多少高くても価値があれば買ってくれる人がいたが、今はバリューがあっても安くないと買ってくれない』と言っていました。まさにその通り。」

「美味しいですよ、サービス満点、笑顔満点ですと言ってお客様は来て下さいました。でも景気が悪くなって、価値があっても、お客様が『すいませんが給料前は100円寿司に行きます』と使い分けを始めた。給与が出た時や誕生日など、ハレの日だけ来てくれる。ハレの日の売上は上がっています。お客様は、普段は100円寿司でいい、という使い方に変わりました。ウチは獲れる時に獲るのと、客単価を下げるのという2つの戦略を進めています。」

 鮪の仕入れ価格が下がっていることを反映させるなど、実際に客単価を100円下げたところ、客数が戻ったという。

 大島代表が掲げる目標は、2011年に500店舗。今後の厳しさが予想される回転寿司から離れ、既存の他業態をフードコート用にコンパクト化し店舗数を増やす。さらには企業買収案件が増えている昨今、M&A手法により目標を達成しようとしている。



■丸山 晃(まるやま あきら)
株式会社アールディーシー 執行役員 専門店事業部長。1972年生まれ。富山県出身。株式会社ロッテの研究所に勤めた後、東南アジアでバックパッカー生活を4年間。海外で労働ビザを取得するため寿司職人を目指し、アールディーシー入社。仕事が面白くなり、海外生活の夢を捨てて現在に至る。

「がってん寿司」


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年9月14日取材