・地元が一丸、かまくらの横手の観光地としての底力示す
2006年に青森県八戸市で第1回が開催されて以来、第2回静岡県富士宮市、第3回福岡県久留米市と毎年1度開かれている、B級ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」。
今年は9月19日(土)、20日(日)とシルバーウィークに組んだ日程、秋晴れの日中暑いと感じるほどの好天、高速道路のETC車が最高1000円までで高速道路乗り放題の効果が相まって、不景気を吹き飛ばす爆発的な来場者数となった。
主催者側の入場予測は15万人であったが、実際に来場したのは主催者の発表によれば26万7000人。過去最高を更新し、大会会長でもあった五十嵐忠悦・横手市長は閉会式の挨拶で「東北の片田舎にこんなにも多くの人が来てくれるとは」と、感無量の表情であった。
ご当地B級グルメの数々。
大会会長の五十嵐忠悦横手市長。
「B-1グランプリ」は地域を代表するB級グルメに、街の有志が結束して取り組むことによって地方を元気にする、まちおこしを狙って開催している。
主催は、B級ご当地グルメ・ネットワークス(通称:愛Bリーグ、青森県八戸市)と地元のB-1グランプリ in 横手実行委員会。
愛Bリーグは「B-1グランプリ」の母体であり、出場団体の審査、開催地の決定を行い、開催地の代表者とともに大会を盛り上げる。B-1グランプリ in 横手実行委員会は、秋田県、横手市、横手市観光協会、横手商工会議所、横手やきそば暖簾会などが参加。第4回開催が決まった07年秋より企画、準備を進め、運営を行った。
五十嵐市長は謙遜して「東北の片田舎」と言っている横手市であるが、人口は10万2000人を数え、秋田県内では秋田市に次ぐ第2の規模の都市であり、県南の中心地、かつ冬は「かまくら祭」が開催される、秋田かまくら観光の拠点でもある。そもそもの潜在的な観光地としての魅力が十分な街であるということを、横手市民が再認識する切っ掛けになったように思う。
横手駅、かまくらとやきそばのまちの玄関口。
横手駅より会場に向かう。普段は乗降客の少ない駅もこの日は特別。
秋田自動車道の横手インターチェンジ付近は、かつてないほどの渋滞が発生。特に2日目20日は、中心市街地と秋田ふるさと村の2ヶ所に設けられた特設会場は人があふれかえり、両会場を約30分で結ぶシャトルバスにも長蛇の列ができた。
B-1グランプリ中心市街地特設会場。
B-1グランプリ秋田ふるさと村特設会場。
秋田ふるさと村特設会場。バックには秋田県立近代美術館。
秋田A-1フェスティバル。B-1に併設され、秋田の旨いものを紹介。
C-1カーニバルin横手。中心市街地特設会場に併設され、横手の物産をアピールした。
2つの会場を結ぶ無料シャトルバスは長蛇の列。
参加した26団体も過去最多。2会場で、13団体ずつが出展した。どのブースも行列ができ、前回優勝の神奈川県厚木市の「厚木シロコロ・ホルモン」は最大で4時間待ちとなる超人気ぶり。提供数と投票行動は必ずしもイコールではなく、順位は低くても提供時間終了前に完売したブースも少なくなかった。
主催者は提供時間を早めるために、1000円のチケット購入が必要なチケット制を導入。100円券が十枚綴りになっていて、平均の1皿の金額が300〜400円なので、1回のチケット購入で3皿くらい食べられるようになっていた。
また、チケットは9月30日まで有効にして、横手駅売店、市内の道の駅、秋田ふるさと村内店舗、横手やきそば暖簾会加盟店など、横手市内の店舗で使えるようにした工夫も光った。
駅前でもチケット引換、購入ができた。
人があふれる会場。
のぼりがずらりと並んで賑やか。
・優勝は横手やきそば、秋田・青森勢が上位を占める結果に
グランプリは、実際に来場した人がそれにふさわしいと思った料理に、割り箸を入れる投票で決められるルール。両会場には26個の料理名が書かれた、投票箱が並べてある投票所が設けられた。
20日夕刻、横手市内「かまくら館ホール」で発表された結果による順位は次のとおり。
1)横手やきそば 秋田県横手市
2)八戸せんべい汁 青森県八戸市
3)津山ホルモンうどん 岡山県津山市
4)あいがけ神代カレー 秋田県仙北市
5)厚木シロコロ・ホルモン 神奈川県厚木市
6)すその水ぎょうざ 静岡県裾野市
7)黒石つゆやきそば 青森県黒石市
8)みしまコロッケ 静岡県三島市
9)各務原キムチ鍋 岐阜県各務原市
10)富士宮やきそば 静岡県富士宮市
10位以下は発表されなかった。
秋田県や青森県といった北東北のB級ご当地グルメが上位を占める一方で、やきそばでは横手より全国的知名度がはるかに高い、第1回と第2回を連覇した「富士宮やきそば」が、今回は10位にとどまった。また、群馬県太田市の「上州太田やきそば」は10位以内に入れなかった。
第1回と第2回のB-1連覇からブレイクした、富士宮やきそばブース。
富士宮やきそばブース。旨さの秘訣は火加減と水加減だという。
上州太田焼そば。横手やきそばのライバル?
上州太田焼そばブース。
地元にとってやきそばは、上に目玉焼きが乗って福神漬が添えられ、甘めのソースで味付けされた「横手やきそば」が絶対らしい。なお、「富士宮やきそば」は今回はトライアルとして韓国風の辛い味付けのも併せて提供したが、この辛いほうの完成度が今一歩に感じられたのも影響したかもしれない。
7位の「黒石つゆやきそば」は、黒石では昭和30年代よりつゆ入りやきそばがあったそうで、インスタントの「ペヤングやきそば」につゆが入ったような感じだ。うまくアレンジすれば面白い存在だ。
今まで食べたことない味、黒石つゆやきそば。
黒石つゆやきそばブース。
4位に入った「あいがけ神代カレー」は、田沢湖の近くの仙北市神代地区が観光の目玉にと力を入れているものだ。昔風昭和のカレーと、現代風デミグラスソースのカレー、2つの味を1皿で楽しむという趣向で、ふるさとの味というより創作料理に近い。温泉卵と秋田名物である大根の燻製の漬物「いぶりがっこ」が、つけ合わせられている。
4位に入った地元秋田のあいがけ神代カレー。
あいがけ神代カレーブース。
前回優勝の「厚木シロコロ・ホルモン」は、最長4時間待ちといった行列記録をつくったが、5位にとどまった。来年の開催が厚木に決まっているが、「お客さんを待たせ過ぎて、票にあまり結びつかなかった」という反省をどう生かすか注目される。味付けも今回は秋田の味を意識して甘くしたそうで、賛否両論あったようだ。
厚木シロコロ・ホルモン。
厚木シロコロ・ホルモンブース。前回の覇者で次回開催地でもある。
最大4時間待ちとなった、厚木シロコロ・ホルモン。ブースのテント脇でどんどん焼くが間に合わない。
投票結果は過去3回に比べても、地元びいきが強く出た感は否めない。
投票所風景。グランプリにふさわしい料理に、割り箸を入れる。
・全国区の味を示した八戸、大ブレイク予感させる新鋭の津山
2位の「八戸せんべい汁」は、第2回、第3回に続いて3回連続の2位で、実は東北開催だったから票が入ったわけではない。出展団体の八戸せんべい汁研究所は、「B-1グランプリ」の提唱者で、八戸のある南部地方のせんべい食文化の1つ「せんべい汁」を全国に発信することで、郷土のPR、まちおこしに結びつけるべく、同じ志を持つ他の地方の団体と連携を進めてきた。
3回連続2位の八戸せんべい汁。今年はせんべいの味が香ばしくよりパワーアップ。
八戸せんべい汁ブース。優勝候補の常連だ。
2位に入り銀の箸を持って喜ぶ、八戸せんべい汁研究所。
「B-1グランプリ」のパフォーマンスでも、汁をつくる大鍋「ま汁``ガーZ」が楽しく、スタッフの呼び込みの声が大きくて目立っている。我々は焼いた餅が入った雑煮の旨さを知っているが、せんべいを入れた雑煮も、たとえば濡れせんべいとか、せんべい次第では旨いに違いない。そんな感じの料理だ。
八戸は全国的に有名な漁港で、「イカそうめん」など海産物で知られるが、「せんべい汁」の知名度もかなりアップしてきている。「東京でも、せんべい汁を出す飲食店が少しずつ増えてきた」と、スタッフも手応えを感じているようだ。
シルバーコレクターが定位置になったが、どこに行っても受け入れられる全国区の郷土料理へと確実にステップアップしている印象がある。
3位の「津山ホルモンうどん」は、食文化の違いのためか、近畿以西の西日本勢の票が伸び悩む中で、初出場ながら大健闘した。
津山ホルモンうどん。3位入賞でブレイクのきっかけになるか。
初出場で3位に健闘した、津山ホルモンうどんブース。
津山ホルモンうどん調理風景。
銅の箸を持ちインタビューにこたえる津山ホルモンうどん研究会。
津山市内約50店舗の鉄板焼店などで提供されている、牛ホルモン入りの焼うどんで、和牛の産地であるところから発祥したメニューだそうだ。ビールに合いそうな大人の焼うどんで、全国的な人気になっても不思議ない魅力があると感じた。内臓肉の臭みは全く感じず、肉や野菜の旨みがうどんに染みてなかなか旨い。
「第1回目から参加を申し込んでいたのですが、まちおこしの視点が不十分と言われ、ようやく4回目で出場できました。横手には前日に入り、街の飲食店を食べ歩いて、自分らの味とあまりに違うようなら調整しようと思いました。しかし、津山とは県は違っても同じ内陸部の十万都市ですし、味覚もそんなに違わないと判断したので、普段出しているもので勝負しましたよ」と語ってくれたのは、津山ホルモンうどん研究会の鈴木康正氏。
「B-1グランプリ」のために和牛ホルモンを確保し、どんなに顧客が並んでいても1回焼き終えるごとに鉄板をきちんと掃除して、焦げかすで苦くなった焼きうどんを出さないと、丁寧な仕事を徹底したのも高い評価につながった模様だ。
中国自動車道沿線にある津山までは、大阪から車で2時間、岡山からは1時間、広島から2時間半。大都市からそこそこの離れ方で、蒜山高原も近い。東京から車で2時間、静岡から1時間、名古屋から2時間半という富士山の裾野にある富士宮の富士宮やきそばが、やきそばを食べ歩く人で年間50万人以上を集客し、2001年から6年間で217億円の効果をもたらした前例もある。
第2の富士宮は、ホルモンうどんの津山が抜けてくる可能性は十分だ。
奥美濃ツインカレーブース。あいがけのカレーは次のトレンドか。
高砂にくてんブース。じゃがいも入りのお好み焼。
袋井宿たまごふわふわブース。
大月おつけだんごブース。
鳥取とうふちくわ。
各務原キムチ鍋ブース。
・横手やきそばの勝因は、四天王の店長が競演したパフォーマンス
優勝した「横手やきそば」は、地元開催の有利さはあったが、「B-1グランプリ」を成功させてやきそばをかまくらと並ぶ観光の柱に育てたいといった、意気込みも随所に感じた。
「横手やきそば」は第1回で2位に入る好成績を上げたが、この時に優勝したのが「富士宮やきそば」。ライバルの街に惜敗した1位と2位の差は大きく、「B-1グランプリ」を切っ掛けに富士宮がやきそばの街としてブランドを確立したのに対して、横手は水をあけられてしまった。
第2回、第3回の投票数も伸び悩み、巻き返しに懸命であった。
横手をやきそばの街としてアピールするために、2001年に任意団体として発足した提供店の団体「横手やきそば暖簾会」を、昨年11月に協同組合に改組。共通ののぼりを店の前に掲げるなど、普段は顧客を取り合うライバル店同士の結束をはかった。
横手やきそばブース。昭和を思わせるイメージ戦略を打ち出した。
横手やきそばブース。できるだけ並ばせない迅速な提供を心掛けた。
また、一昨年より暖簾会人気店が参加する、「B-1グランプリ」と同じく来場者の投票で順位を決める「横手やきそば四天王決定戦」を開催。市民に対して、「横手やきそば」の浸透を進めてきた。
今年は9月5日、6日に秋田ふるさと村特設会場で10店が参加して行われた。投票の結果、四天王に決まったのは、「食い道楽 横手駅前支店」、「藤春食堂」、「皆喜多亭」、「出端屋」の4店。約8700食が食された中で、「食い道楽 横手駅前支店」は3年連続1位獲得のカリスマ店となった。
横手やきそば四天王の筆頭、食い道楽横手駅前支店。
そして、「B-1グランプリ」では、四台の鉄板を四天王がそれぞれ担当。店主、店長が横手を代表して焼き姿のパフォーマンスを共演するという、地元のやきそばファンにとってはこたえられない演出を行った。これが大きな勝因である。四天王の“神の手”で焼いたというだけで美味しい気がしてくる。この演出方法は新しく、今後の1つの流れをつくる切っ掛けになるかもしれない。
横手やきそばブース。四天王の神の手で焼く、究極のやきそばを提供。
「行列は当たり前で、待ち時間をいかに減らすかが、投票を増やすポイントだと考えました。四天王ですから何度も修羅場は潜ってきていますので、安心して任せられます」と、横手やきそば暖簾会・伊藤一男会長は作戦勝ちを強調した。
「B-1グランプリ」用に味の統一はあえて考えず、四天王が話し合い、自分の店の味を提供したという。
昭和の古き良き時代を思わせる看板イラストによるイメージづくり、やきそばソングをステージで披露と、あらゆる手段を用いて、「横手やきそば」をアピールした。
「横手やきそば」のブースは、中心市街地特設会場に設けられたが、もう一方の秋田ふるさと村特設会場では、市内の通販業者「林泉堂」が試食サービスで無料にて「横手やきそば」を振舞っていた。このへんも票につながった可能性がある。
秋田ふるさと村特設会場、横手やきそばの林泉堂が提供した無料の試食。
優勝の金の箸のトロフィーを持ち、気勢をあげる横手やきそば暖簾会。
横手市長から表彰を受ける、横手やきそば暖簾会の伊藤一男会長。
汗を拭くきつつインタビューにこたえる、横手やきそば暖簾会の伊藤一男会長。
優勝インタビューで伊藤氏は「明日からはお客さんをどうもてなすかが問われます」と、気を引き締めた。
今回の「B-1グランプリ」の成功の背景には、高速道路ETC割引効果が確実にあり、県外ナンバーの車は、東北一円にとどまらず、関東、北海道も数多く見かけた。
もはや「横手やきそば」の顧客は、横手市民、秋田県民のみならず、仙台をはじめ東北一円、さらに広大な首都圏、250万人の札幌圏、全国にまで広がっている。これを一回のイベントで終わらせることなく、いかに継続するかが、重要である。今後、高速道路無料化へと進むと、いっそう有利な環境が整うはずで、地元の結束力で富士宮に続いてほしい。
・地域の食文化を発信する祭典。秋田は県をあげてアピール行う
今回取材してみて感じたのは、昭和やそれ以前からある伝統料理ばかりではなく、平成になって開発された、新郷土料理がかなり混じってきたことだ。
6位の裾野市特産モロヘイヤを皮に練り込んだ「すその水ぎょうざ」、8位の三島市で採れる高級馬鈴薯「メークイン」を使った「みしまコロッケ」、9位の韓国・春川市と姉妹都市であることから開発された各務原市「各務原キムチ鍋」などが該当する。4位の「あいがけ神代カレー」や北海道富良野市「富良野オムカレー」も、このグループに入るだろう。
すその水ぎょうざ。モロヘイヤを皮に練り込み、あっさり味。
すその水ぎょうざブース。
みしまコロッケ。
富良野オムカレーブース。早々と完売した。
一方で上位には入らなかったものの、既にブレイクした静岡県静岡市「静岡おでん」、静岡県浜松市「浜松餃子」、かなり知名度のある埼玉県行田市「行田ゼリーフライ」、福岡県北九州市「小倉発祥焼きうどん」なども出展していて、全国の郷土の味を食べ比べられるのも「B-1グランプリ」の醍醐味だ。
静岡おでんブース。
浜松餃子ブース。
行田ゼリーフライブース。
小倉発祥焼うどんブース。
前回開催地であった福岡県久留米市の「久留米やきとり」は、鶏肉のほか、豚、牛、馬、魚介、野菜などバラエティに富んだ炭火焼をやきとりと呼んでおり、独特のスタイルが楽しい。特に小腸「ダルム」、大動脈「センポコ」、馬ホルモン串などは、久留米ならではの食材だ。
久留米やきとりブース。
また、生姜醤油で食べる兵庫県姫路市「姫路おでん」、生姜味噌で食べる青森県青森市「青森生姜味噌おでん」が、「静岡おでん」に続けとばかりに出展されていて、生姜風味のおでんが次に流行って来るかもしれない。要チェックである。
姫路おでんブース。
青森生姜味噌おでんブース。
初出場の宮城県登米市「登米・油麩丼」は、カツ丼のカツの代わりに宮城県登米地方に伝わってきた小麦粉グルテンを揚げた「油麩」を使ったヘルシー丼で、蔵や武家屋敷の残る登米の観光の一環として、仙台あたりでは知名度が高まっているものだ。
登米・油麩丼ブース。油麩は宮城県登米地方に昔から伝わる食材。
登米特産の油麩。
「30年前に売り出して、売れなくて一度失敗した丼ですが、この春復活させて、人気になっています。11店で食べられますが、全国に売り込めて満足しています」と、登米・油麩丼の会の海老名康和会長は喜んでいた。
今回の第4回は、秋田の郷土料理を集めた「秋田A-1フェスティバル」、横手商工会議所主催の横手の食と物産を集めた「C-1カーニバル」も同時開催して、今や郷土料理と物産のメッカとなった高速道路のSA・PAの露天バージョンのようなことを考案したのも、集客につながったと思われる。チケットは「B-1グランプリ」と共通になっていた。
「きりたんぽ鍋」、「稲庭うどん」、「比内地鶏串焼」はともかく、しょっつるを使う海鮮風の「男鹿のやきそば」、「白神NEGI味噌ピザ」、「森岳じゅんさい鍋」、横手市南部十文字地区の「十文字ラーメン」、横手市の上質な地ワインなど、今まで秋田県民でもごく狭い地域の人にしか知られてなかった、郷土の食を広くアピールする良い機会になっていた。
当日は2日とも日中暑かったので、よく売れていたのが「ババヘラアイス」。幹線道路沿いでカラフルなパラソルを広げ、おばあちゃんが売っていた秋田ならではのシャーベット状アイスだ。秋田の夏の風物詩で、おばあちゃんが金属のヘラを使って、ソフトクリームのコーンの上に薔薇の花びらのように盛り付ける。それで“ババヘラ”と呼ばれるようになったそうだ。
A-1フェスティバルでよく売れていたババヘラアイス。
会場にはステージも設けられ、男鹿半島の民俗行事「なまはげ」を始め、民謡、盆踊りなど伝統芸能、ロック調の横手やきそばソングなども披露されて、賑やかに祭典を盛り上げた。
秋田名物なまはげも登場。
ステージではロック調の横手やきそばイメージソングが披露された。
・横手市内に53店ある、やきそば提供店。食べ歩きの楽しさが伝わるか
さて、このようにかつてないほど盛大に開催された「B-1グランプリ」だが、横手市は普段は人口が10万人もいるとは思えない、中心市街地や駅前が寂れた静かな地方都市だ。ショッピングは皆、郊外の大規模ショッピングセンターに行ってしまう。どこの地方都市とも同じ市街地空洞化問題を抱えている。
中心市街地特設会場のステージで披露された横手ばやし。
秋田新幹線のルートから外れているので、不便なイメージがあり、奥羽本線沿線にあっても、1時間に1本くらいしか電車も来ない。コンビニ風の駅売店は、夜8時で閉店してしまう。
終戦直後、屋台でお好み焼を売っていた業者が、鉄板を使った新メニューとして考案したという「横手やきそば」。復興時に横手市民を勇気づけたやきそばは、時を経て大規模ショッピングセンターに敗れた中心市街地の、経済敗戦からの復興に寄与するだろうか。
これからは食べ歩きの楽しみを、いかに提案できるかがポイントとなる。「横手やきそば」も、従来のスタイルに加えて、カレー味、ホルモン入り、キムチ入りなど創作性の強い新メニューが開発されてきている。
取材後訪れた、横手駅近くの居酒屋「やや」で焼くやきそばは、濃い目の味付けに千切りのキャベツが添えられていた。そばも目玉焼きも福神漬も刻みキャベツも、全部よく混ぜ合わせて食べる。すると広島風お好み焼に近い、独特の味になっていて、正統派ではないがこれはこれで料理として面白いと感じた。
横手駅近くの居酒屋やや。やきそばで一杯が横手流。
ややの横手やきそば。刻みキャベツがポイント。
「お客さんに野菜をよく取ってもらうようにと考えた」と、気さくなママは語った。
横手やきそばは決してワンパターンの料理ではなく、さまざまな派生形、創作料理もある。暖簾会の会員だけでも53店あるのだ。
そうしたやきそばの各店による多彩な魅力に加え、年中−10℃に保たれて本物の雪のかまくら体験ができる「かまくら館」、近代美術館がありさまざまなイベントも開かれる「秋田ふるさと村」、横手城、「釣りキチ三平」作者の矢口高雄氏にちなんだ「まんが美術館」、といった市内の名所、あるいは大曲の花火大会、秋田の竿燈祭、武家屋敷の角館、田沢湖などの県内近隣の観光スポットと連携を組んでいけば、やきそばによるまちおこしは成功するのではないだろうか。
あるいは秋田新幹線の停車駅、仙台の「冷し中華」、盛岡の「冷麺」や「わんこ蕎麦」などとともに、東北の麺文化を共同でPRする手もある。
「B-1グランプリ」によるまちおこしは、始まったばかりなのである。