・酎ハイは「村さ来」が広めた
「村さ来」の創業者は、清宮勝一氏。1973年に東京都世田谷区経堂に1号店を出店。当時、酎ハイは焼酎を炭酸で割っただけのものだったが、それにシロップを加えて、多様な酎ハイのバリエーションを作ったのが「村さ来」。80年代にはシロップの酎ハイが若者の間でブームとなり、800店を超える全国居酒屋チェーンに成長した。
出店はフランチャイズ方式を採用。日本料飲コンサルタンツという会社を設立。FC1号店を76年に東京・代沢にオープンさせた。県毎に地区本部を任命し、積極的に出店。82年、83年と連続で100店を超える加盟店を作った。
しかし、あまりに早い出店スピードに中身が追いつかず、バブル崩壊も相まって破綻。消費者金融のレイクを経て、94年に加ト吉に買収された。
「手羽藩」のテラス。
・「村さ来」は今も240店
社長の加藤清司氏は、加ト吉の元会長、加藤義和氏の息子。銀行に勤務後、96年の加ト吉に入社。約60社の子会社を管理していた。その子会社の中に「村さ来」「贔屓屋」「栄太郎」などの外食企業があった。そして、06年に村さ来本社(現フード インクルーヴ)の社長に就任。JTによる買収後も、加藤氏は社長を続投している。
「加ト吉で子会社を管理していた時には、数字だけ見て、原価率、人件費が高いよねという判断しかしていなかった。現場から見ると酷いことをしていたのかも知れない。今は現場を見ることにより、自分が勉強になっています。とは言え、私が店で働いたのは実は2時間だけ。焼き鳥を焼きました。楽しかったですよ」と加藤氏。
「村さ来は各県に地区本部があり、その下に加盟店さんがある。但し、首都圏と関西だけは、村さ来本社が加盟店と直接契約。ただ、関西だけは4年前にシンワオックスさんに任せてみようという話になり、関西村さ来が地区本部として設立され、今もシンワオックスさんの子会社です」と加藤氏。
「今、地区本部になっているのは、秋田、東北、新潟、静岡、山梨、関西、愛媛の7社です。毎月のロイヤリティは坪面積から計算された定額。加盟契約を結んだ際に、7年契約なので、7年の毎月、84枚の手形を最初に預かり、それを毎月決済していく方式です。手形は本部が全て預かり、地区本部に基準相当額を割り戻しています。今も創業時と変わらず同じやり方で、加盟金もわずか60万円です。」
「今年7月は売上が100%超えました。8、9月は95%くらい。不況の中でも、村さ来は頑張っています。」
現在、村さ来は全国で約240店、内120店が首都圏にある。直営はわずか5店だ。他に、海鮮居酒屋「海宴丸」2店、肉料理専門店「ZESSAN」、天ぷら「稲ぎく」、鳥料理「手羽藩」を直営している。
「村さ来」。
・マルチ業態FCに転換
「我々の年代以上には認知度は高いが、20代は知らない方が多い。そんな若い層に浸透する戦略を考えた。」
そして、新たな業態でFC展開を行う。それが、ヘンリーブロス株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:江嶋力)が直営する漁師炉辺居酒屋「ぼうずこんにゃく」と、自社開発業態での直営店、鳥料理「手羽藩」。
「他の新しいFCも村さ来と同じく、ロイヤリティは固定にする。世の中は売歩が多いが、仮に加盟店の業績が悪くなっても本部の数字が読める。また、加盟店さんは頑張った分だけ儲かる。」
また、村さ来の地区本部は使わず、本部が全国で直接契約する形を採用。
そして、本年8月に社名を「フード インクルーヴ」に変更した。INCLUVE(インクルーヴ)は、同社の3つのミッションであるINCLUDE(包括する)、VALUE(価値)、LOVE(愛情)を掛け合わせた造語。
・「ぼうずこんにゃく」は漁師直送で高利益
「ぼうずこんにゃく」は漁師や漁港から直接魚を仕入れる。地元でしか食べられないような珍しい鮮魚も提供する“漁師直送”という仕組み。それにより、原価率を28%に抑えることができる。ちなみに「ぼうずこんにゃく」とは実在する非常に珍しい魚の名前。
直営するのは、“漁師直送”で鮮魚を卸すヘンリーブロス。中目黒に同社直営店がある。飲食ビル5階の30坪で8千7百万円(08年度実績)を売上げ、減価償却費込の営業利益で約2千万円。FCモデルでは20ヶ月での投資回収を見込む。加盟金は300万円、看板・商標使用料は月20万円。但し、鮮魚を調理するため、2週間以上の研修が必要。研修費は別途。加盟店開発は、パワフルブレーンズに業務委託されている。
「鮮魚を店で扱うプロジェクトで、ヘンリーブロスさんと出会った。一から作るより 既に収益も取れているモデルがあるなら、使わせてもらった方がリスクは少ない。自社開発にこだわる訳じゃありません。」
「ただ、直ぐにオープンできる店ではない。入ってきた魚をどうやっておいしく調理できるか、どうやってお客さんにアピールできるか、しっかり研修を受けていただかないといけない。手ごたえは良い。何件か既に動き始めています。」
「手羽藩」は現在直営で東京・東日本橋に1店だが、テラスがある特殊な物件で、FCモデル店となりにくい面もあり、新規の直営出店も検討している。こちらの加盟店開発はインターブレインズが手掛ける。
・当面は月1店ずつ着実に
「新しいFCは専門店なので、店舗数も100、200店とは考えていない。1店ずつきっちり出して、その後もフォローしていきたい。2〜3年前は店舗数を555店までもっていきたいと話していたが、今は着実に1店ずつ、完成度の高い店舗を増やす方向でいる。」
「当面は少しずつ業態を増やす。FCの新店を月に1店ずつオープンさせていければいい。どれくらいできるのか検討がつかない。高い目標ではなく、行ける数字です。」
現在はJTの100%孫会社だが、事業整理の中で、外食企業を切り離す可能性もある。その際には、経営者による企業買収MBOを加藤氏が仕掛けるのではないかと推察する。それを見越しての着実なマルチFC企業化と見るのは穿った見方だろうか。
■加藤 清司(かとう きよし)
フード インクルーヴ株式会社 代表取締役社長。1969年生まれ。香川県出身。三和銀行を経て、96年に加ト吉入社。2006年1月、村さ来本社社長に就任。09年8月に社名を現社名に変更。
→フード インクルーヴ株式会社