・タパスをつまんで本場のスペインバルを実感
渋谷マークシティ内にあるスペインレストラン&バル「Catalan Spanish “Bikini
TAPA”(カタランスパニッシュ “ビキニ タパ”)」(2008.8.5 OPEN)は店名にも「タパ」という言葉を使いタパスを主軸としカジュアル化させたスペイン料理店。運営は宅配ピザチェーンとして業界一位の「PIZZA-LA」を中心事業とする株式会社フォーシーズ(本社・港区南青山/代表取締役
淺野秀則)。出店や新業態開発の際は「なんとなく出来上がった」というアプローチは皆無、細かなマーケティングリサーチと裏づけをマニュアルに基づいて必ず行うという同社。JR・東急線・京王線・東京メトロと7路線の交差点ともなっている好立地の渋谷マークシティ内。通行量の極端に多いこの場所で通路に面したファザードはとても目を引く作りとなっている。間口も広く、入口すぐのカウンターは外からも見渡せてちょっと入ってみたくなる雰囲気を漂わせる。
「Catalan Spanish “Bikini TAPA”」店内。
店前の告知ボード。
このハードを活かし「タパス」の魅力・手軽さをより多くの人に知ってもらおうと企画されたのが「ピカピカタパス&ピンチョイス
フィエスタ(11/9-12の4日間開催)」。この日は「ワンコイン」という感覚を分かり易く伝えるため「タイル1枚とタパスを交換」という新しいオペレーションが導入された。「タパスのおいしさ(商品)」「手軽さ(サービス)」「スペインらしさ(雰囲気)」というキーワードの仲立ちとなったのがこのタイルなのかもしれない。
・タイル一枚とタパス一皿
タパスと交換できるカラフルなタイル。
スペインではタイル文化が古くからあり、建物の外装やベンチなどあらゆる所にカラフルなタイルが使われている。街を歩くと随所に目に映るのは、スペインを旅した経験のある人であれば記憶に残っていることだろう。この企画で用意したタイルには一枚ずつプロデューサーであるジョセップ・バラオナ・ビニェス氏のシールが貼られた。当初はなかなか店の雰囲気やコンセプトにあった媒体が見つからずスタッフ一人一人が知恵を出し合ったという。
カウンターにはディナータイムオープンと同時にビュッフェスタイルとも言おうかタパスがずらっと並べられた。タイルを片手に料理をチョイスしようとカウンターへお客が集まる。その様子は通行する人々にそのままキャッチされる。生ハムのカッティングはビニェス氏自らが行いなんとなく嬉しい。
企画タイトルに使われたピカピカいう言葉はスペイン語で「色々なものを少し小さく数多く」という意味。そのままのぴかぴかのタパス達はカウンターを彩り本場のスペインバル実感できる内容となった。鶏レバーのパテはトッピングに甘納豆とジョセップ氏ならではの遊び心もあってグランドメニューでも280円で提供される(Fiesta開催中は250円)。もっちりと濃厚で本格的な味のパテは看板メニューで人気の逸品のひとつ。
カウンターから選ぶスタイル。
ドリンク含む4点で1,000円。
タパス全て250円。甘納豆の乗った鶏レバーパテはもっちり濃くて満足度が高く看板のひとつ。
・新規出店のスパニッシュイタリアン業態
「生ハム」ファサード。
店内。
店内。
店内はまずはカウンター席で奥がテーブル席。スペインバル業態の基本ともいえる「黒板メニュー」の案内でカジュアル感を漏れずに演出。ワインの木箱を上手く使ったインテリアとその縁には小さなタイルをあしらっていてかわいらしく、そしてこぢんまりと落ち着く店内に仕上がっている。
カウンター席の目線には料理ではなく色とりどりの野菜をならべることでバリエーションを伝える。タパス料理は280円からで、280円と380円のタパスだけでもあわせて12品。注文して味わってみると良い意味で100円の差がはっきりと表現されている。小さな価格差の中にもそれぞれの満足感がすぐに得られこれには驚き。380円の「自家製クリームチーズのムース」はバルサミコ酢にアレンジを加えたものを白いムースに掛けていただく。見た目は豆腐に醤油をかけているよう。チーズケーキにも似た甘くとろりとした舌触り、女性はきっと好きな味に違いない。パスタやリゾットなどのイタリアンメニューも織り込まれ、イタリア帰りのシェフ山本氏の料理に対する細かな時間配分など技が光る。
カウンター。
メニュー。
砂肝のフリット 280円。
自家製クリームチーズのムース 380円。
・定着した「リゴレット」の使いよさとタパス達
同じくスパニッシュイタリアン業態をうたい300円タパスをメニューの冒頭に表する「リゴレット」。イメージを伝えるイラストメニューのデザインも既にリゴレットの定番となっているがそのメニューブックの縁取りには「TAPAS」「Wine」の太文字が並ぶ。
新丸ビルの「リゴレット」メニュー。
「リゴレット」業態は今年も2つの新規出店があった。2月にリゴレット基本スタイルにモロッコテイストを加えた「リゴレット ショートヒルズ」(中目黒)、9月にスペインバスク地方の港町をイメージさせ魚介料理を軸とした「ザ リゴレット オーシャンクラブ」(横浜)をオープンさせ現在合計7店舗。タパス&ワインを軸とした上でそれぞれオリジナリティあふれるコンセプトをプラスオンするのが実にうまい。「リゴレット」は株式会社HUGE(本社・中目黒/代表取締役 新川 義弘氏)の運営。大箱をこれだけの威勢の良さと気配りで格好よく切り盛りできるのは今や同社だけではないかとも思えるほど。
「リゴレットショートヒルズ」外観。
1階店内。
「リゴレット ショートヒルズ」でコース料理の最初にだされるタパス達。それぞれピカピカ(色々なものを少し小さく)の状態で提供される。6種のスパイスが効いた「ガルバンゾ・ディップ」はどこかエキゾチックな味わい。その他にも「チキン・シガーズ」とよばれるシナモンが香るほんのり甘い春巻きのようなタパスは「リゴレット」の中でもモロッコをコンセプトにした中目黒店だけのオリジナル。
タパス。器から溢れるボリューム感が上手い。
チキン・シガーズ。
同じ「リゴレット ワイン&バー」(新丸ビル店)はオープンして2年半。深夜には丸の内で働くサラリーマンやOL達の「大人の社食」と化す。オープンカウンターのスタンディングスペースはチャージ無しでキャッシュオンデリバリーのスタイル。300円と500円のタパス達はここの使い勝手をよりよくさせている象徴でもある。提供速度は実に速く500円の煮込みやグラタンが熱々の器でシズル感たっぷり、ぐつぐつとした状態で出されてくる。いつ来店してもどんなに混んでいても変わらない。日本語の上手な外国人スタッフがカウンター内からフランクに話しかけてくれるのも自然とこの空間に馴染み「タパスでちょい飲み」を盛り上げてくれる。
新丸ビル店のキャッシュオンのスタンディングバー。
ディップ 300円。奥はカジョス(スペイン風煮込み) 500円。
茄子とモッツアレラチーズのグラタン 500円。
・タパスの意味とこれからのスペインバル
タパス業態をうたう店舗の中には500円のタパスが大皿一枚にいっぺんに盛られ提供されるケースも見受けられた。タパスの意味は広く「食事の最初に食欲を喚起するもの(食前酒も含む)」「スペインの小皿料理」など解釈は様々。それでもやはりタパスと言うならばちょっとずつ色とりどりの小皿が集まって、見た目にも賑やかしいと嬉しく思う。並ぶタパスから好きなものを選びワインを飲みつつ語らうバルの光景は「太陽の国」とも言われるスペインの食のシーンにぴったりとマッチするのだ。
料理は時代と共に変化していく部分も大いにありその面白さもあるが、一方で文化も伝承されていって欲しいもの。時代に合った手軽さ訴求の一役を担いながらも、「タパス」が楽しさを演出しその言葉の意味を失わないまま親しまれ続けて欲しいと思う。