フードリンクレポート


「ワヰン酒場」大繁盛!
訳ありで繁盛店を作るデザイナー。
横井 貴広氏
株式会社スタジオナガレ 代表取締役

2009.11.27
訳ありワインを低価格で提供する「ワヰン酒場」は本年7月に渋谷に誕生し、10月に恵比寿、11月神楽坂に出店。そして、12月には早くも4店目を人形町に予定している。展開するのは、デザイン会社のスタジオナガレ。来年にはさらに、訳あり食材をテーマに新たな業態を立ち上げると言う。


紀尾井町のオフィスにて、横井貴広氏。

住宅から商業デザインにシフト

 横井氏は学生時代から弟、横井晃氏(現、同社建築デザイナー)とともに中古住宅のリノベーションを手掛け、年間100件以上もこなした。

「リノベーションのブームが来る前です。中堅ディベロッパーと一緒に、中古で仕入れた住宅に付加価値を付けて販売しました。設計だけじゃ儲からないので、施工も始め、年商も当時の目標を優に超えました。しかし作業量から非常に苦労をしました。それで商業デザインにシフトしました。1店目でタレント・ブランドのブティックを作ったら口コミで評判になり勢いがつきました。」と横井氏。

 そして、26歳の時、初めて作ったバーが『商業建築』に取り上げられた。

「流通業に入り込みたかった。衣食住のどこに的を絞ろうか検討しました。食はリサーチもしやすいし、意見のぶれも少ない。経験の全てから導き出した結果、飲食業から特化ししていこうと決めました」。そして、西麻布のシャンパンバー「Brumedor」などデザイン業界で数々の受賞。テレビや雑誌にも取り上げられるようになり、デザイン業界で話題の人となっていった。


ワヰン酒場 恵比寿店。スタジオナガレ自信の入りたくなるファサード。


開業支援の「コマーシャル・デザイン・ラボ」


 飲食店開業支援者のための情報資料館「コマーシャル・デザイン・ラボ」(通称コマラボ)を2005年、JR代々木駅前に開設。開業希望者を集め、同社の営業拠点となっている。運営は、各種メーカーからの協賛金で賄っている。

「年間約50件の店をデザインしています。コマラボにやってくる個人や2〜3店のオーナーさんが中心でした。不況でも、個人の夢の部分は景気に左右されません。現在、コマラボの会員は約700名で、新規に毎月30名ほど増えています。そこから実際の開業者は毎月20名程度です。」

 このコマラボをビジネスモデルとして、ベンチャーキャピタルからの資本を受け入れ、株式公開を目指している。


リサーチの場として直営

 消費者動向を把握するために飲食店5店を限度に直営を行っている。現在は、「芝浦三丁目ニュー田もつ」(田町)、「+81レストラン」(神楽坂)、「渋谷ワヰン酒場」(渋谷)、「恵比寿ワヰン酒場」(恵比寿)を直営。1号店の「晴レノ空ノ下」(品川港南口)は、現在他社に譲渡している。2号店の「味噌汁バー 1CHIDO」(南麻布)は元社員に譲渡している。

「基本的に5店舗以上持たない。あくまでも実験場です。地に足をつけて飲食店を経営し、新たな経営者にバトンタッチする。それくらい飲食店経営に自信がありなすよ、という証です。開業希望者にも説得力があります。結果として繁盛店を作るノウハウを自社としても構築しているところです。」


「ワヰン酒場」が大ヒット

「安く提供する店が流行っているので、ワイン居酒屋はどうかと考えました。多店舗展開モデルを自社で実験的にやろうと。アウトレット・ワインはないの?と思っていたら、たまたまインポーター1社が乗ってくれました。」

「裏ラベルをはがして分からないようにするならいいよと、他のインポーターさんも乗ってくれました。現在は10数社から仕入れていますが、どこから仕入れているかはお互いい言わない契約を結んでいます。」

 インポーターは、自社の商品価値を落とさず不良在庫を処分できる場として重宝している。都内に30店舗は出店できる供給数量も確保しているという。

「アウトレットの訳あり、絶対にどこもできない強力な参入障壁です。アウトレット・ワインだけの販売、『ワヰン酒場』のライセンス販売、同じくFCと3パターンで広げます。来年からはワインだけじゃなくて、食品の訳あり等、訳ありコンテンツを押さえにかかっています。」

 11月に神楽坂、12月に人形町に開店する店舗はライセンス販売だ。ワインを直接販売できるよう酒類小売免許も申請している。


クラシックなデザインのロゴ。



ワイン酒場名物 壺漬け料理。タパスを壺に入れた。


店内で“ギャザリング”イベント

 インターネット通販サイト「ネットプライス」が提唱する共同購入「ギャザリング○R」購入者が増えれば増えるほど、売価が安くなる仕組みを許可を得て「ワヰン酒場」にも流用している。

「『ギャザリング』は、『株式会社ネットプライスドットコム』の登録商標であり、当社はその許諾を受け使用しています。」

「訳ありだけでは面白くないので、店舗での共同購入“ギャザリング”を渋谷店のみですが行っています。380円のビールが50杯出ると、今まで飲んだ分も含めて50円引きになる。100杯でるとさらに50円引き、200杯出るとさらに50円引きと割引率をどんどん上げていく。ワイン以外で行い、安くない酒にも“訳”を作る。」

「空気感をお客同士でシェアしてもらうと、消費意欲が増します。100杯に近づくと拡声器を使って、あと何杯ですと煽る。誰か飲まないのと、隣のお客とも仲良くなる。立ち飲みと違って無理やりお客同士のコミュニケーションを誘発させます。自然に友達が出来て、またあの店行こう、となります。」


アウトレットは今後も長続きする

「アウトレットモールの歴史は長いです。ブランドが安く買えるのは景気が良くなっても続くと思います。低価格路線に乗っかっていくという発想ではありません。景気が良くなった方がいい結果が生まれると思います。10万円のスーツが欲しいけど定価では買えない、そんな人が型遅れや傷モノだけどアウトレットで買う。今は富裕層もアウトレットに行きます。」

「ウチのお客様は2極化。低価格路線で来る方とワインを良く分かっている方です。価格だけで来る方はワインの味を分かってない人が多い。高級店で1800円で出しているワインをウチだと500円とかで飲める。1300円が330円で飲める。これってどこの店でも飲めるよね、と言う方は味が分かってない。ワインを分かっている方は、今日何入ってるの、と毎日来る人もいます。ネットで悪口を書く人もいますが、ウチの事を知っている人は書いてくれるほど嬉しいそうです。本当に安いのに、分かってない人はもったいないとおもいます。逆にその価値をわかって来店頂けることは非常に嬉しいことです。」

「外国人客からは小売価格より安いんでボトルで売ってくれと言われたりします。1日半で120本を売り切り、1ヶ月で3000本売ります。インポーターからすると今まで不良在庫になっていたものが売れる。元々ロスも考慮して販売価格が構成されているので、捨てしまっても問題ない在庫です。それをウチが売ることにより双方にメリットが生まれるのです。」


ワインのアウトレットは長続きする。


繁盛店は、入ってみたくなる顔を持つ

「ワヰン酒場」は、思わず入りたくなるようなファサード(顔)にデザインした。特に恵比寿店に自信があるという。

「繁盛店を作る一貫で顔作りに興味があります。歩いている消費者が思わずあの店に入って見たくなる顔作り、販促的な位置づけの顔作りは楽しい。店内のいいデザインで売上が良くなることはないですが、顔に関してはあります。」

「顔作りのポイントは、外にシズル感を如何に演出するか。外にシズル感が出るように、カウンターをわざと外にはみ出して作る。そうすると外まで匂いがする感じです。そして、空気感を演出する。あそこはワイワイガヤガヤしていてお客さん同志が空気感をシェアしているなと思わせる。その要素が外に伝わるように考えます。」

「僕は設計者なんでカッコ悪い店は作りたくない。カッコ悪いというのは、儲かってない、お客さんが楽しそうにしてない店。いくらスタッフがカッコ良くてもそれは演出の1つに過ぎなくて、イキイキして楽しそうに接客している人間が気持ちいい。店舗のデザインも同じ。どっかで輝いていて、イキイキしているのが求められています。」

 いままで同社がデザインした店で採算のあわない店舗は現在のところない。「1店も赤字の店はありません。今までのウチの経験が生きています」と、繁盛店作りに自信を燃やす。

 同社は直営事業とデザイン事業の両輪を持ち、現場の生の情報をデザインに活かすという事業モデル。「コマラボ」、「訳あり」と横井氏は仕組みをデザインし続けている。


■横井 貴広(よこい たかひろ)
株式会社スタジオナガレ 代表取締役。1978年生まれ。愛知県出身。2004年、同社設立。04年、「9坪ハウスコンペ20004」優秀賞受賞。06年「BEST STORE OF THE YEAR」で特別賞受賞。07年、08年と2年連続で優秀賞受賞。

株式会社スタジオナガレ


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年11月16日取材