・1人でも入れる新しい串業態を求めて
「アントレスト」には、レストラン業界のアントレプレナーを排出する日本一の企業になるという意味が込められている。新業態を次々に開発し、人材を育て、独立させるというスキーム。
1店目「さくらさく」を2004年11月に虎ノ門に出店。釜炊きのお米と囲炉裏焼きの干物の店。そして、2店目にカフェ和食「つみき」を神楽坂で05年11月に開店。ワインと一夜干しのマリアージュが楽しめる店。
そして、06年2月に新宿でモダン寿司と溶岩焼き「いちりん」を開店。しかし、残念ながら閉店。これにめげず、開発したのが魚串だ。
「1人でも入れる串打ち業態が強いんじゃないかなと考えました。安くすまそうと思えば安くすませられる。今の不況の時代には、飲みたいけど安くすませたいという需要があります。居酒屋に1人で行くと高くなる。料理の量も2〜3人前と多い。客単価2〜3千円ですませたい方には串がピッタリです」と有村氏。
「やきとんをベンチマークしました。でも余りに店数が多い。今からでは埋もれるだけで太刀打ちできない。僕らはずっと魚でやってきました。それを串にさして手軽に食べられるようにしたら面白いんじゃないかなと思ったんです。既に魚串を扱っている店はありましたが、高級和食店の魚メニューの一つ。値段も高く上品に食べるものでした。焼鳥感覚で食べる魚串があれば、日本人は魚が好きなんで流行るんじゃないかなと考えました。」
そして、1号店の屋号を使って「魚串さくらさく」を09年5月には神楽坂、10月には人形町と立続けにオープンさせた。
有村 壮央氏。
・ウリは「まぐろほほ肉ねぎま 99円」
客単価は2800円。1人平均7本の魚串を食べる。魚串の種類は約35種。新作をどんどん生み出し、人気メニューを定番に残すようにしている。価格は、150円、210円、280円の3種。1番人気は「まぐろほほ肉ねぎま」210円だが、敢えて集客のためのおとり商品として99円で提供している。お客の満足度は抜群だ。他に、アナゴ揚げ280円、ししゃも150円、クリームチーズの味噌漬け150円などが人気。
「売上の内、魚串が8割です。思った以上の反応です。魚串って何?と聞かれたら、焼鳥の魚版ですと説明すると、食べてみようと飛びついてくれます。日本人は魚が好きですから。最初は原価が高いのでポーション小さめでやりましたが、物足りないなという声をいただき、改良を重ねた人形町店は評判がすこぶる良いです。」
<魚串人気トップ5>
1)まぐろほほ肉ねぎま串 210円(現在はキャンペーンで全店99円で提供)
2)穴子串 280円
3)炙り〆こはだ 210円
4)いかの味噌漬け 280円
5)クリームチーズ味噌漬け(揚げ串) 150円
・仕込みに5時間
「1尾で魚を仕入れて店で串打ちします。仕込み手間は半端ない。焼鳥ややきとんよりも手間がかかります。卸して、骨も抜いて串に刺す訳です。営業時間は17時からですが、12時には出勤し仕込みします。営業中も手が空いたら仕込みです。」
原価率は32%。当初は28%だったが、お客の満足度を上げようと「まぐろほほ肉ねぎま」を原価割れの99円で提供したことに因る。神楽坂店は15坪でちょっと勢いが落ちたが、月商600万円と変わらず繁盛店だ。
・味が淡白で差別化しにくい
焼鳥と違い、魚の種類による味の違いは少ない。特に白身魚はただ焼いただけでは区別がつかない。
「魚は大きめに切っても焼くと水分が蒸発して縮んでしまい、どうしても割高になります。焼鳥のようにはお腹に貯まらない。ちょい飲みで軽くつまむ感じです。魚串だけでお腹を膨らませるのは難しい。」
「バリエーションを作るために、串カツ屋みたいにソースを作ったり、燻製を作ったりしています。魚の味はそんなに違いません。目の前で鯛を卸して串に刺して焼かれると、鯛の味がしますが、串だけでは分かりません。特に、白身魚は変わらないのが多い。ソースを付けるなり工夫をしないと絶対に飽きられます。」
・高齢者にウケる、逆張り作戦
そんなお腹に貯まらず、淡白なところが高齢者にフィットしている。
「高齢者にウケがいいんです。当初は20〜30代の女性をターゲットにしていましたが、年配の方に凄くウケがいい。男女比は4:6です。おじさんもおばさんも多いんです。年配の方はお金を持っており広がりがあります。僕らのようにガツガツした企業は狙わない市場なので、競合もありません。人と違う逆張りが出来るんです。ただ、働いてる人はおもしろくないかもしれない(笑)。この業態にカッコ良さは求めません。」
巣鴨に出店してみたいという。また、神楽坂店では魚串のテイクアウトも始めており、将来は、デパ地下や屋台へも打って出ることが出来そうだ。
・自社ではチェーン展開をしない
「ウチはスタッフを独立させていくのが目的です。魚串は確実に勝てます。しんどい仕込みを続けても報われます。最初の独立店にはいいのでは。」
「魚串という業態が広がって欲しい。焼鳥ややきとんみたいになれるんじゃないでしょうか。仕込みは大変だけど大変なことをしていれば、お客様は気付いてくれる。妥協せずにしっかりやっていけば認知されます。」
直営はあと1〜2店のみでチェーン展開はしたくないと言う。研修を施して看板を貸すライセンス販売や、FC展開企業への業態売却も考えている。
「魚串さくらさく」神楽坂店。
店内のカウンター席。
テーブル席。
・商標を持つが、魚串を真似て欲しい
お客は全国から来ている。同業者の視察も多く、実際に兵庫県に全く同じメニューの店が出来たようだ。
「パクられています。僕自身もパクッて参考にしていますから、お互い様。でも、完全にパクっている店は嬉しい半面、それだと絶対に続かないと思うんですが。表面上真似ただけなので次の一手が打てない。例えば、ウチは3プライスですが、最初は150円と280円の2プライスだけでした。後に間に210円を作りました。そういうのを自分の頭で考えてないからお客さんの意見を聞いたりもできないんじゃないでしょうか。残念な気持ちです。別に特色があって、そこに魚串を加えるなら良いですが、表面だけパクッでもね。」
「面白い魚串が出てきたらいいですね。僕達で考えつかなかったようなメニューや提供方法。七輪で焼いてもいい。高級なカウンターだけの店もいい。大阪の串カツ屋みたいなのもいい。焼鳥だって安いのから高いのまであります。こっちも刺激を受け、パクらせてもらいます。」
同社は「魚串」の商標も取得している。但し、独占しようとは考えていないという。
・10年後には焼鳥になれるか
直営店は、本当に売れるんだということを証明する場として考え、あと1〜2店のみで増やす気はないという。
魚串は満腹感を求めない女性や高齢者に向いた串料理。高齢化社会に合った料理と言える。但し、寿司のようには見た目も含めて魚毎の味の違いがお客に伝わりにくいという一面もある。焼き魚であれば魚一匹、もしくは大きな身を使うので、特定の魚だという実感がわくが、小さな身を使う魚串では伝わりにくい。選ぶ楽しさという点で弱いのが現状。これを補う調理や提供方法の開発がカギになってくるだろう。
同社は様々な業態を開発するのがミッション。今までに無かったものを作るのを楽しんでいる企業。業態だけでなく、魚串をブラッシュアップさせるアイデアも生み出すことが出来そうだ。
「魚串が定着したらすごく嬉しいです。10年後くらいに当たり前にあれば、ちょっとは外食業界に寄与できるかな」と有村氏は締めくくった。
→株式会社アントレスト