フードリンクレポート


事故発生! 現実を受け止めたくない心理と戦うべし。
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2009.12.12
食中毒、一酸化炭素中毒。お客様や従業員を巻き込んだ事故が発生した場合、本部はどう対応すべきなのか? O157食中毒が本年9月に発生した「ステーキのどん」、一酸化炭素中毒が本年7月に発生した「モスバーガー」の事例発表会が社団法人日本フードサービス協会で11/27に開催された。


最後まで女性客は戻ってこない。

営業停止処分13店、被害者27名

「ステーキのどん」で発生したO157食中毒は、営業停止処分13店(群馬3店、埼玉8店、東京1店、長野1店)、都県により停止日数が異なり、延べ休業日数97日間(自主休業6店を含む)。被害に合われたお客様27人。

 売上に与えた影響を来客数の推移でみると、9/1は99.0%、2店が営業停止になった9/9は77.2%、8店が停止となった9/12〜14は37.1%、営業を再開した9/23にようやく50%まで回復、11/26(発表会開催前日)は81.3%まで復活したという。

 平日のランチタイムが最も早く回復。あまりこだわらない男性客が戻ってきた。そして、最後まで回復しなかったのが土日のディナータイム。ファミリー、特に女性客の不信感がぬぐえない。

千葉市保健所から店舗へ電話

 8/23、千葉市保健所から幕張店へ、「8/15に角切りステーキを食べたお客様の中にO157を発症された方がいる。聞きとり調査をした中におたくの店名があったので、念のためにお知らせします」という内容。

 店長は事故報告書を本部に上げた。営業部長、総務にまで回覧されたが、そこで止まった。発症の疑いがあるというだけで被害者の名前もわからず、そういう現実を受け止めたくないという心理が働いたという。そのまま何の対策もとられず、放置された。

 そして、8/31に3保健所から5店舗に対し同様の連絡があった。被害者が食事した様々な店の中に「どん」が入っており、共通していたのは角切りステーキ。ここから動き出した。O157ウィルスは表面に付いており、芯温75度に加熱すると1分間で死ぬ。同店は1枚肉を使っており、グリドルで焼くことで殺菌はクリアしている。内部に菌が浸透するはずはなく、表面をしっかり焼けばいい。たまに調理ミスで焼き足らずで死滅しなかったにしろ、ここまで広がるはずはないと甘く考えていたという。とは言え、6店で言われるからには何らかの欠陥があるのだろうと、念には念を入れて、350度で3分半加熱するようマニュアルを変更。


他社でも0157食中毒発生

 9/5、他社でもO157食中毒が発生。認めたくないという心理が働き、他社で食べたものじゃないかとも思い、角切りステーキの販売停止にまでは至っていない。

 9/7、群馬県庁から角切りステーキの販売自粛を要請され、群馬県のみ販売停止。同日、2保健所から「黒に近いグレー。処分もありえる」と示唆されるが、夕刻には検査の結果シロと連絡が入るが、念には念を入れて国立感染所センターに送られた。二転三転した末に、9/9にDNAが一致し、営業停止処分が確定。

 ここから、緊急対策チームが社内に発足。マスコミ・お客様担当、保健所対応、被害者対応の3チームを作った。その上に情報管理センターを作って全ての情報を集約させた。全ての情報はここから発信。パニックの時にいろんな情報が飛び交ってどれが正しいのか判断できなくなる。そこの整理を行った。特に被害とは関係ない店舗の対応に気にかけたという。


マスコミが殺到、記者会見開かず

 処分決定後、保健所から「マスコミが追いかけますから準備して下さいよ」とアドバイスされ、直ちに親会社と日本フードサービス協会に相談。記者会見は開かない方針を決定。

 O157を起こした他社は記者会見を開いたので、マスコミからなぜ開かないのかと集中砲火を浴びた。しかし、頑なに開かない方針を貫いた。被害拡大の恐れがあるなら開くが、原因が判明し販売も停止しているので拡大する懸念はないので開かないと説明。代わりに、メディア1社1社に時間をかけて丁寧に受け答え。聞かれたことは包み隠さず、間違った情報は直ちに修正した。その内、マスコミからも同情的な言葉が出て来たという。

 この記者会見を開かないという判断が効を奏し、最初の3日間は殺到したが、1週間で沈静化した。開くと、会見で言質をとられて違うニュアンスで報道される懸念があった。

 埼玉県保健医療部に社長自らお詫びに訪問し、今後の取り組みを教えてもらったという。行政から指導を仰ぐ姿勢も大切。

 9/12、他の保健所から連絡のあった9店もシロクロ未確定の段階で、自主休業を決めた。実際には6店舗がシロ。クロの店も既に自主休業中で、営業停止命令を受けてもインパクトは弱かったという。


受け止めたくない心理が対応を遅らせる

 振り返ると、8/23の千葉保健所から1週間、対策を取らなかった。第一報の段階で危機感をもっていれば、防げることも多かったという。食中毒は8/13・14と、8/29・30に食べたお客様に集中していた。8/23の段階で対策をとっていれば、後半の被害は防げたかもしれない。今まで体験したことがないことが目の前に起きると、受け止められない、受け止めたくないという心理が働いて、対応を遅らせる。

 マスコミ対応は1社1社丁寧に対応。ワイドショーには注意し、報道局に報告を集中させ、ワイドショーからの取材には、同テレビの報道局に聞いて下さいと応対した。HPは延べ12回書き換えた。前回の発表と比べられぬよう、前の文章を全て消去し、新しいものに塗り替えた。

 社内の食中毒とは関係ない店舗の店長のサポートも重要。店長にとっては、お客さんから色々言われるが本部から情報は入ってこないというケースが多い。社内の情報発信を強化し対象店舗以外をサポートした。

 被害者27名。保健所は最後の最後まで氏名は明かしてくれなかったという。お詫びに訪問した時には既に回復し、感情的なもつれもなく示談は粛々と進んだという。


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年12月12日執筆