フードリンクレポート


アウトレットのダイニング、“B級よりちょっと上グルメ”の殿堂に進化中。(4−1)

2009.12.17
デフレで流行る典型的な業態、アウトレット。来場者の楽しみはブランド品を安く買うのに加えて、お出かけ気分を満喫できる食事である。ブランド品を1円でも安く買いたい人が好む食事は、高級感あるB級グルメ。“B級よりちょっと上グルメ”だ。2大アウトレットモール・チェーンの三井アウトレットパーク、チェルシー・プレミアム・アウトレット、さらに独自の路線を貫く大洗リゾートアウトレットのレストラン戦略を探った。


三井アウトレットパーク入間 外観。

周囲の諸施設の需要をも取り込む、入間のフードコート

 埼玉県西部の入間市内、国道16号線に面する「三井アウトレットパーク入間」は、三井不動産が2008年4月にオープンした、総敷地面積約8.6ヘクタール、延床面積約9.8ヘクタール、テナント数204店、駐車場台数約3200台という日本最大級のアウトレットモール。


三井アウトレットパーク入間 入口。


日本最大級の204店を集積。

 日本初出店44店、関東初出店26店と話題性も高く、初年度目標260〜280億円、来館者目標600万人を達成。休日には周辺部の道路に、アウトレット渋滞を引き起こすほどの反響となっている。

 想定商圏人口は首都圏の約1400万人。圏央道・入間インターチェンジからも約500メートルと近く、東京都西部の多摩地区や練馬区、板橋区、豊島区、山梨県、埼玉県北部、南部、東部、群馬県からも集客が見込める強みがある。

 路線バスは主に西武池袋線・入間市駅と、休日のみJR青梅線羽村駅から出ている。

 飲食は1階、2階とあるうちの2階に集中しており、11店約650席あるフードコート「フォレスト・キッチン」が中心。そのほか2階に6店、1階に2店の専門店がある。


三井アウトレットパーク入間の650席あるフードコート。


三井アウトレットパーク入間、フードコートのラインナップ。


子供用の低いテーブル席もある。

「三井アウトレットパーク入間」のすぐ横には、会員制ディスカウントスーパー「コストコ」、国道16号線を渡った反対側には家具アウトレットの「ラッキー」、カー用品・バイク用品の「ドライバースタンド」、スーパー銭湯「極楽湯」、介護施設を併設した「入間ハート病院」があり、武蔵工業団地もほど近く、それらを合わせると飲食の需要は相当あると考えていい。


すぐ隣にコストコ、ワンセットで買物する人は多い。手前の道路は国道16号線。


こちらは倉庫型店舗のコストコ、三井アウトレットパーク入間の隣にある。

 実際、平日の昼間でも「三井アウトレットパーク入間」のフードコートはほぼ満席になる賑わいだ。周辺のさまざまな施設の顧客や職員も、利用しているものと思われる。

 さて、フードコートの11店のラインナップは次のとおり。韓国家庭料理「吾照里」、担々麺と焼売「福龍」、カフェ「チョコクロ」、パスタとクレープ「トゥ・ザ・ハーブス」、ハヤシライス「東京ハヤシライス倶楽部」、鶏料理「鶏三和」、コラーゲン料理「美肌調整所」、ぼっかけ焼そば「ひげ屋」、オムライスとハンバーグ「ポムズ・グリル」、讃岐うどん「宮武讃岐製麺所」、ミニドーナツとソフトクリーム「リルドーナツ」、となっている。

 概ね1000円以内で食事が取れ、食後のコーヒーやデザートを合わせても1500円以内の価格にしては、そつなく和洋中の専門的な店を揃えており、「この味がフードコートで」という驚きを感じる、質の高いフードコートと言えよう。A級グルメではないのだが、普通のB級グルメよりはお値打ち感のある、“B級よりちょっと上グルメ”といった感じだ。

 カレーライスと日本そばの店がないのは気になるが、カレーライスの代わりにハヤシライス専門店が入っていたり、日本そばの代わりにセルフ式の讃岐うどん専門店が入っていたりする。讃岐うどん専門店には、カレーうどんは置いている。そのあたりあえて定石を外しているのも面白い。

「東京ハヤシライス倶楽部」は、新宿三丁目の「日本再生酒場」のヒットでもつ焼と立ち飲みのブームを起こした、ビーヨンシイの洋食業態で、東京ミッドタウンが1号店の懐かしい味わいのある黒ハヤシライスが売りの店だ。


フードコートの東京ハヤシライス倶楽部。

 ビーヨンシイは女性受けしそうなコラーゲン料理「美肌調整所」も出店しており、こちらは神戸の鉄板でつくる広東料理「千代」と共同開発した店舗で、全国で今、入間にしかない。美肌になれるチャイニーズファーストフードがコンセプト。ラーメンにコラーゲンボールを入れて食べる「コラーメン」(680円)、コラーゲン角煮・コラーゲンシウマイ・コラーゲンスープ・ごはん・プアール茶ゼリーからなる「ウルトラ美肌セット」(1250円)など、興味を引くメニューが並んでいる。


フードコート、コラーゲン料理 美肌調整所。


コラーゲン料理 美肌調整所のコラーメン、コラーゲンボール付。

 宮武讃岐製麺所は、昭和23年に香川県丸亀市で創業した、本物の讃岐うどんの製麺所でうどん店である。福田豊社長はあの新宿「東京麺通団」の企画者の一人でもある。おそらくフードコート11店のうちでも一番の人気店だ。


フードコートの宮武讃岐製麺所。


東京のヒット業態の粒よりメニューを手軽に食せる魅力

 鶏料理「鶏三和」は名古屋に本店がある鶏料理の専門店。百貨店を中心に精肉、惣菜、ギフトといった物販を展開しているが、ここでは自社農場飼育の純鶏名古屋コーチン、ハーブで育てた木曾美水鶏を中心に、キッチンで調理したとろふわの卵の乗った「親子丼」(純鶏名古屋コーチン880円、木曾美水鶏680円)、やわらかくてさっぱり塩味の「唐揚定食」などを提供している。


鶏三和の純鶏名古屋コーチン親子丼。

 ぼっかけ焼そば「ひげ屋」は、牛スジをとろとろになるまで甘辛く煮込んだ「ぼっかけ」入り濃厚ソースの屋台風焼きそば専門店。際コーポレーションの新業態で、フードコート向けに開発した1号店といったところか。ちょっとソースが辛すぎる気もするが、その分インパクトがあり、全般に良くできていると思う。「ぼっかけ焼きそば」(並680円)〜。


フードコートのぼっかけ焼そば ひげ屋。


ひげ屋のスペシャルぼっかけ焼きそば(並800円、盛880円、特盛980円)。温玉とチーズ入り。

 ミニドーナツとソフトクリーム「リルドーナツ」は、スープ専門店「チャウダーズ」を展開するチャウダーズのもう一つの事業で、ともにショッピングセンターで拡大を始めつつある店である。


フードコートのリルドーナツ。

 韓国家庭料理「吾照里」はフードコート向けでは3店目で石焼ビビンパが中心。担々麺と焼売「福龍」は三井不動産の子会社キャニーの展開する中華のフードコート業態。カフェ「チョコクロ」は、「サンマルクカフェ」のフードコートバージョン。パスタとクレープ「トゥ・ザ・ハーブス」はフォーシーズのヒット業態だが、いつものピザ&パスタでなく、フードコート向けにパスタ&クレープの専門店で出店。オムライスとハンバーグ「ポムズ・グリル」はオムライス専門店「ポムの樹」がフードコート向けに開発した新業態。というように、元々人気の飲食店をフードコート向けにメニューを絞ってつくり直した店が多いのも、こちらのフードコートの特徴である。


フードコートの福龍。


フードコートの吾照里とチョコクロ。


フードコートのトゥ・ザ・ハーブス。


フードコートのポムズ・グリル。

 フードコート以外の専門店は、「石焼きハンバーグ&ステーキ ストーン・バーグ」(WDI)、「ピッツェリア 1830」(スティルフーズ)、「ブッフェ・フォー・ルームス」(ニラックス)、「紅虎餃子房」(際コーポレーション)、「がってん寿司 承知の助」(アールディーシー)と、2階ではいずれも実績ある外食企業が安定感ある業態で、食事を提供している。

 カフェの「タリーズ」(タリーズコーヒージャパン)、アイスクリームの「コールド・ストーン・クリーマリー」(コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパン)も、商業施設ではよく目にする店だ。

 目新しい店は1階にある。まず「ベスト&バーガーズ」は、日本初出店のハンバーガーショップ。「ハンバーガー」(480円)からのグルメバーガーの店で、12種類のハンバーガーが提供されている。セットも4種類あり、ポテト、サラダ、オニオンリング、スープ(コーンクリームスープかミネストローネ)と組み合わせることができる。ソフトドリンクも各種あるので、やや高めだがレストランが混んでいる時に、手軽に食事を済ませたい人にはいいだろう。

 イギリスの名門百貨店「ハロッズ」は、紅茶、ジャム、バッグなどをアウトレット価格で購入できるだけでなく、初のカフェスタンド併設店を出店している。スタンドの周囲はオープンスペースとなっていて、テーブル、椅子が設置してあり、こだわりの紅茶(320円〜)やコーヒー(380円〜)を飲めるのがうれしい。


ハロッズのアイスティー。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2009年12月8日執筆