・「味噌汁家」日比谷30種、銀座45種
「味噌汁家」は現在、1号店の日比谷シティ店、銀座店、AKIBA ICHI店(秋葉原UDX)、心斎橋店(大阪)の4店。7年前に誕生した当時は、味噌汁という斬新なテーマでメディアに騒がれた。
特に、ランチ時の売上が良く、日比谷シティ店では14坪でランチ月商240万円を叩きだす。24席で800〜950円の定食が120食も出る。夜は居酒屋に転換するが、ランチ売上の方が勝るという。看板の味噌汁は味噌と具のバリエーションを付けて、ランチ時に3〜5種。居酒屋時には30種も用意。2007年に開店させた銀座店では45種も。
日比谷シティ店 カウンター。
日比谷シティ店 テーブル席。
「味噌は全国から120種、出汁は鰹節や鯖節と研究を重ねて、ベースの30種を作りました。味噌汁の固定概念は捨てました。私は元々味噌汁が好き。体に良いし、温野菜も取れて健康に良い。インスタントが横行している中で、本物の出汁を使った味噌汁を提供したいと思いました。定食屋に行くとおかずは選べますが、味噌汁は何となく出される。おかずも味噌汁も選べる店を作りました」と鏡氏。
鏡茂雄氏。かつて新橋で話題の1戸建てのバー「マスターピース」を運営していた。現在のバー運営会社の社名として引き継がれている。
「今の若者も来てくれます。ウチの店のことを若い子に話すと、行ってみたいとよく言われます。若者も日本の伝統食文化に興味があるんです。牛丼店では注文しない味噌汁を、ウチでは注文してくれます。」
銀座店 店内。
・弁当宅配で起業
鏡氏は大学3年で個人事業主として弁当宅配を始めた。
「17年前、東麻布で始めました。宅配のピザが出始めた頃です。アルバイト先の店長が独立して東麻布で定食屋を始めました。店の一角を借りて電話を置かせてもらい、店で作ってもらった弁当を仕入れて売るというスタイル。チラシを作って近くの家に撒き、自転車で配達する。でも、1個売れて200円程度。個人客相手で100個売っても粗利はわずか2万円。生活できず、朝・昼は宅配、夜はバーで働きました。」
「ある時、レストラン経営者から宅配事業を手伝ってくれと誘われました。そこは法人客を相手にしていた。そこが宅配事業から撤退することになり、顧客を引き継いでやらせてもらいました。法人相手だと、売上もまとまる。企業の総務部にチラシを持って営業にいく。元々の東麻布の定食屋を転貸で借り受け、配達も自転車1台が3台になり、バイクになって車へと出世していきました。」
現在も弁当宅配は、「宅配幕の内弁当 倭(やまと)」として、1号店の東麻布、新宿、本郷と3店を構える。月商は、東麻布800万円、新宿500万円。最も新しい本郷は350万円。周辺企業に浸透するのに時間がかかる。受注製造なのでロスも少なく、安価な立地と、厨房を作るだけなので、営業力さえあれば利益は出やすい。ロケベン、会議、セミナー、研修等に利用され、企業の年度末など節目となる、3月、4月、9月の需要が大きい。
・1997年、大衆バー1号店「オリジン」開業
鏡氏は起業家で、弁当宅配の傍ら、ブランド物の並行輸入や、在日外国人向けの英字競馬新聞の発行など成功したり失敗したりしながら様々な事業を手掛けてきた。その中で出会ったのがバー。
「銀座でバー、レストランなどを経営していた方から、バーを譲ってもらいました。バーでアルバイトの経験があり、利益が出るのは分かっていました。当時、バーといえば高いホテルバーや一部の有名バーだけ。客単価3千円の大衆バーにすると物凄くお客が来ました。出資者を募って2店目を半年後に出店。3年後に一気に8店を出店。好調で出資者からの再投資も受けました。バーはロスが無く、料理人がいらず人件費もかからない。設備も軽い。」
現在は、ダイニングバーも入れると銀座地区で13店展開。「Bar ORIGIN」「Shot
Bar PHILOSOPHY」「Dining Bar THE 3rd KEY」など各々店名は異なる。銀座地区でおそらく最大店舗数を持つバーチェーンであろう。
「Bar ORIGIN」。
「Bar Inspimage」。
・今、バーに求められるのは酒+α
バーは今曲り角に立つ。酒だけを出していれば良い時代は終わった。VIPルームにカラオケを設置するバーも増えた。
「バーを出せば入るはない。今やビリヤード、ゴルフ、カラオケなど様々な遊びがあります。プラスアルファがないとお酒だけでは楽しんでくれなくなりました。合コンの後もバーに流れず、カラオケになる。付加価値をつけないとバーは厳しくなります。バーは参入障壁が飲食店より低いので、新規出店する方が増えています。ウチはまだ小手先の事しかできていません。社内でカクテルコンテストをやって、優秀作をオリジナルとして全店で打っていく程度です。」
「各店長には自分の店としてやらせています。予算を設定してそれ以外は口出しをしません。各店とも店長によりカラーが違います。同じグループの店とは分からないのでは。ただ、店長が辞めたらお客もいなくなると思っていましたが、何だかんだいいながら店にもお客がついていると実感しています。独立してもお互い共存共栄しようと、お客を送りあったり、スタッフが飲みに行き来きしたりしています。」
バーの営業利益は店舗ベースで約3割もある。小規模の店でも十分に利益が残せる業態だ。
・秋葉原の「味噌汁家」は終日定食屋
そして、2002年に飲食店に進出。始めたのが味噌汁の種類が楽しめる「味噌汁家」。
1号店の日比谷シティ店から、06年には商業施設、秋葉原UDXに出店。同店は11時から23時まで終日定食を提供している。酒類も扱うが出ない。それでも月坪30万円強は売ると言う。
「オフィスに隣接している場所は入ります。土日需要だけの商業施設には出店したくありません。『味噌汁家』は今年は出店せず足元を固めたので来年、再来年で5〜10店は出店する計画です。投資の早期回収のため、居抜き物件を探しています。」
AKIBA ICHI店 外観。
AKIBA ICHI店 店内。
本日の味噌汁は日替わりで常に5種。
メニューは定食のみ。880〜980円。ご飯のお替り自由。味噌汁のお替り100円。
現在、バー業態は株式会社マスターピースが運営し、居酒屋業態は1and1株式会社が運営と、業態により会社を分けている。
「採用に当たり、バーは給料が高くなくても来てくれますが、居酒屋はマーケットが大きいのである程度給料を出さないと来てくれません。バーで5年目の方が居酒屋に入ってきた新人より低いことがあります。給与や雇用形態が違うので、なるだけやっかみが出ないように別会社にしました。」
大きい店を出すと狂牛病や9.11テロに遭遇し失敗した経験から、自社の適正な規模をバーで15坪、飲食店で30坪と決めている。店長の独立も何度も経験し、店側にお客を付けることに注力している。
「店長クラスは自分の店を持ちたい。ウチはのれん分けで独立してもらう方が向いています。特にバーはどんどんのれん分けして、ウチは本部機能だけに特化するのもありですね。」
地産地消ブームなど日本の伝統料理が見直される中、日本人のソウルフードとして味噌汁が、「味噌汁家」の1号店が出来た7年前と同じく、再度注目される時は近いだろう。その際の業態は、居酒屋ではなく定食屋のような気がする。
■鏡 茂雄(かがみ しげお)
1and1株式会社、株式会社マスターピース 代表取締役・CEO。1970年生まれ。東京都出身。5〜13歳に父親の仕事の関係でニューヨークにて育つ。慶應義塾大学在学中から宅配弁当「倭」を起業。その後、バー、「味噌汁家」を出店し、現在、21店を展開中。
→株式会社マスターピース