・観光を振興して中国人を呼び込めば人口減も関係ない
外食全体に波及するもっと明るい話題はないのか。
鮫島氏は6、7月頃に支給される1万3000円の子ども手当のうち、一部は外食にまわる。2500億円くらいの外食需要が生まれると見ている。
ただしその恩恵を受けるのは、回転寿司、焼肉、ハンバーグのような専門店、もしくは3世代が使えるワタミ「饗の屋」のような業態であって、1000円以上の単価の一般的なファミレスには行かないと考えている。
さらに、鮫島氏が期待するのは羽田と成田の空港発着枠が広がることだ。特に羽田は24時間化していく中で、アジア、特に中国からの観光客を受け入れる窓口になっていく。そうなると中国人を多く集客できる店が有利だ。中国人の来日数は、一時期全世界的な不況の影響で落ち込んだが、09年夏以降プラスに転じている。
「中国人は去年100万人くらい日本に来ていますが、近い将来200万人になるでしょう。中国人は観光でヨーロッパ人の倍くらい、一人あたり16万円を使うと言われていますから、今でも1600億円の市場があり、3000億円くらいまで急成長する可能性がある。外食はそこに切り込んでいってほしい」。
日本は観光に力を入れて、1兆円の新規市場を創出できれば、人口減など当面問題ないというのが、鮫島氏の見解だ。
中国人が日本で食べたいものは、もちろん和食である。この場合和食とは、広義にラーメン、焼肉なども含む。日本流にアレンジされた洋食も含まれるかもしれない。いずれにしても、中途半端なチェーンはやはり難しく、専門店にとってメリットが大きいだろう。
日本には、和食のバリエーションの豊富さもさることながら、主要な各国料理が全部そろっていて、しかも全般においしく、食材のこだわりも、食に対する安全性の意識も高い。ミシュランが日本の外食を絶賛するのは、むしろ当然で、「現代の日本は人類史上かつてない贅沢なものを食べている、グルメ国家と言えるのではないか」と、鮫島氏は外食産業を勇気づけている。
日本人自身が気づいていないだけで日本のレストラン、食文化は世界最高レベルである。
そして、鮫島氏はその世界最高のグルメ国家である日本のレストランは、海外、特に中国にうって出るべきだと主張する。
「2010年には、中国の外食の市場規模が日本を抜くと言われています。日本の外食が本格的に産業化した大阪万博の年、1970年が7、8兆円で、その後20年で24兆円くらいまで約3倍になっています。ということは、中国の外食市場は今後20年で80兆円から100兆円規模になると見ていいです。日本の外食は国内で消耗戦を戦っているより、たぶん中国にシェア1%を取りに行くほうが楽です。1%取っただけでも1兆円ですから大きいですよ」。
ちょうど2010年は上海万博の年。すかいらーくは日本でもたもたしている場合ではないのではないか。チェーン系居酒屋もである。中国は恐らくは人類史上最速のスピードで、経済成長をしている。第3次産業のサービス業が発展するのは、第2次産業の工業が発達してからなので、今ようやくその段階にさしかかろうとしている。そして、日本が外食の成熟まで20年かかったのを、15年かそこらで成し遂げる可能性が高い。
ということは、これから2010年代の10年こそ参入のチャンスなのである。
これまで日本の外食で中国に出て行ったというと、サイゼリヤ、ワタミ、吉野家、モスフードサービス、壱番屋などが挙げられるが、中国に滞在している日本人向けで、中国人の顧客を集めているのはサイゼリヤと壱番屋くらいだと聞く。
法規制、現地の人との考え方の違い、嗜好の違い、所得格差など問題は多々あるが、巨大な新規市場が広がるのが見えているから、苦労のしがいがあるのが中国だ。
たとえば熊本の「味千ラーメン」は、東京や大阪での知名度こそ低いが、中国に400店近くを展開し、中国で上場して、日本円換算で1200億円ほどの株価が付いている。やり方としては、現地パートナーを見つけて合弁会社をつくるなど工夫していけばいい。
中国で400店も展開している味千ラーメン。