フードリンクレポート


不況の時こそ、関西の食い倒れ精神に学ぶものが多い。
〜2010年、飲食業界はサブプライム不況をどう乗り切ればよいのか!(7−7)〜

2010.1.13
外食に詳しいアナリスト、いちよし経済研究所・鮫島誠一郎主任研究員に状況分析していただくとともに、急成長中のエムグラントフードサービス・井戸実社長にも知恵を出していただき、百年に一度の大不況を乗り切る術を探る。7回シリーズの第7回。


京阪神からの観光が盛んになっている、岡山・日生のカキオコ。

不況の時こそ、関西の食い倒れ精神に学ぶものが多い

 2010年を展望してみると、09年から引き続き、飲食業界はデフレが進むと考えられる。

 09年12月の宴会シーズンも、企業が費用を出し渋り、7000〜8000円のコースはあまり出なくなって、4000〜5000円にシフトしていると聞く。個人で飲むなら2000円まで、上限でも3000円台までしか出せないといった感じだろうか。

 立ち飲み、300円以下の均一料金居酒屋、バイキング、カジュアルダイニングの値段を下げたセカンドラインであるカジュアル・セカンド、タパスやピンチョスが売りの店、ガールズバーと居酒屋が1店で楽しめるガールズ居酒屋、セルフ式うどんなどが流行るだろう。

 こういう感じのものがここまで不況になる前から、普通に存在していた都市がある。それは大阪だ。つい3、4年ほど前までは大阪に立ち飲み屋は当たり前にあったが、東京ではほとんど存在していなかった。今や東京の食の大阪化が進んでいる。

 2010年は寅年でもあり、阪神タイガースとの連想から、大阪をはじめ関西の食に注目が集まるかもしれない。好調な外食会社も、関西出身が多い。本社所在地を見ると、王将フードサービスは京都、トリドールは神戸、鳥貴族は大阪、「情熱ホルモン」のかわべフードサービスも大阪、「くら寿司」のくらコーポレーションは堺。


池袋は東京でも大阪化が最も進む街の1つ。大黒堂本店と大阪から進出した情熱ホルモンが、道をはさんでホルモン対決。

 不況に強い関西勢と関西の食文化からも、ホルモン、串揚げなどは引き続き好調、うどん、お好み焼などのコナモンも注目したい。

 虎というと、中国も連想するが、上海万博もあり、やはり注目度は高いのではないだろうか。中国料理ももちろん面白いが、中国の観光客をどう集客するか、あるいは中国進出を検討すべき時であることは、鮫島氏が指摘したとおり。外国語メニューの作成などを行って、そろそろ業界をあげて、または街をあげて、中国人を日本の外食に来させるためのキャンペーンも必要ではないだろうか。

 円高は日本を旅行する外国人にとってデメリットだが、そのハードルを越えて日本に来たいというパワーを感じるのは中国人くらいしかいないのも確かだ。

 また、サッカーのワールドカップ南アフリカ大会、バンクーバー冬季五輪と大きなスポーツ大会があり、スポーツバー、英国パブ、アイリッシュパブは賑わうと思われる。

 毎年盛大になるB級郷土グルメの祭典「B−1グランプリ」は初の首都圏開催で、神奈川県厚木市で開催される。間違いなく過去最大の集客となるだろう。B級郷土グルメがよりいっそう面白くなるのではないだろうか。


秋田県横手市で開催、過去最高の26万7000人が入場したB-1グランプリ。

 ブレイクしそうなのは、岡山県津山市と兵庫県佐用町の名物「ホルモン焼きうどん」だ。東京ではホルモンが流行り、セルフ式うどんも流行っているのだから、これもいけるのではないかと思う。大阪、西宮などにすでに専門店もある。


2009年B-1グランプリで初出場で3位に食い込んだ津山ホルモンうどん。

 同じ岡山県でも内陸部の津山市と違って、海側は別の瀬戸内海文化圏だが、備前市日生地区の「カキオコ」が関西では人気になっている。これはカキをふんだんに使ったお好み焼で、日生がカキの名産地であることから、冬場限定で提供されている。夏には「エビオコ」に切り替わる。これもそろそろ、東京に広まってくるのではないかと思う。

「ホルモン焼きうどん」はもつ焼き専門店、「カキオコ」はトロ箱系居酒屋で食べてみたい気もするが、いかがだろうか。

 NHKの大河ドラマは「龍馬伝」。どうも前評判からも、空前の坂本龍馬ブームが来そうだ。龍馬の出身地は高知であり、土佐料理に人気が出る公算が強い。これを熱心に展開してきたのはダイヤモンドダイニングだが、歴史オタクの女性“歴女”などというものが出現してくる前から戦国居酒屋「大河の舞」も出店しており、秋葉原界隈の歴史マニアで、この店を知らない者はいない。戦国居酒屋は2010年も堅調だろう。


ダイヤモンドダイニングの土佐料理・龍馬外伝(横浜市西区)。空前の坂本龍馬ブームに乗るか。

 一方でヘルシー志向は、さらに続くと思われ、野菜、コラーゲン、薄味などはカフェ業態、産直系レストラン、魚介メニューはトロ箱系居酒屋をはじめ和食、イタリアンで盛んに提供されるのではないか。井戸氏が指摘したような、草食系の感性がここでは重要だ。

 こうして見ていくと、2010年も悪いことばかりでもなさそうだ。日本人は物事を悲観的にみる傾向がある民族性があるので、同じように沈んでいてはいっそう景気が悪くなる。まずは顧客に来たいと思わせる、売りをつくることが必要だろうか。ニュース性があれば、人はやってくる。人々が求めているものは、安かろう悪かろうではなくて、専門性が高くて、割安感があって、値段に対する期待値よりも旨いものだ。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2009年12月31日執筆