フードリンクレポート


集客のため公式タウンマップを作成し、周辺の宿泊施設に配布。
〜不況打開へ真剣に取り組む、歌舞伎町の中国人集客作戦〜(4−2)

2010.3.2
リーマン・ショック以来の世界的な大不況で、海外から来日する観光客も減る中で、力強く成長する中国大陸からの観光客数は伸びている。給料・ボーナスが減って、外食を控える日本人に対して、今や経済力を持った中国人富裕層は欧米人の2倍のお金を海外旅行に使うと言われ、中国からの観光客をいかに取り込むかが、外食産業の課題の一つではないだろうか。この課題に先進的に取り組む歌舞伎町の各店を取材した。4回シリーズの第2回目。


歌舞伎町オフィシャルタウンマップ。

集客のため公式タウンマップを作成し、周辺の宿泊施設に配布

 従来の中国人観光客は団体旅行がほとんどで、観光バス1台で20人〜30人と動くのが基本だった。なので、大箱でないと対応しきれない。

 しかし、今後個人旅行が増えてくると、2人〜5人くらいの少人数でも対応できるように手を打っておきたいというのが、歌舞伎町商店街振興組合の狙いなのである。


歌舞伎町商店街振興組合ビル。

 歌舞伎町商店街振興組合では、いち早く外国人観光客集客の重要性に気づき、すでに具体策として「歌舞伎町オフィシャルタウンマップ」を作成。2年に1度改訂されており、3回目の新版が現在発行されている。

 この「歌舞伎町オフィシャルタウンマップ」は、靖国通り、西武新宿線、職安通り、区役所通りに囲まれた地域に新宿ゴールデン街を加えた、歌舞伎町エリアの店を飲食店を中心にガイドした無料のマップで、日本語に加えて、ローマ字でも店名が記されている。


オフィシャルマップ、日本語の表面。


オフィシャルマップ、英語・中国語・韓国語の裏面。

 しかも、「和食・郷土料理」、「ラーメン・中華料理」のようなカテゴリー分けを表示する部分では、英訳、中国語訳、韓国語訳が付けられているので、欧米人、中国人、韓国人がマップを見て、行きたい店に行くことができる。


オフィシャルマップ。店舗紹介面。日本語に加えて、英語、中国語、韓国語も併記。

 発行部数は7万部となっており、新宿エリアの主たるホテル、ビジネスホテル、新宿循環100円バスの「新宿WEバス」車両内で配布している。

 特に区役所通り北側にある「東横イン」には、しょっちゅう台車でタウンマップを届けに行くほど好評。「京王プラザホテル」などでも、相当な数がさばけているという。

 しかも、このタウンマップは歌舞伎町オフィシャルホームページ「KABUKI町」とセットになっていて、広告を出すと携帯のホームページに優先的に掲載される。


「KABUKI町」 http://www.kabukicho.or.jp/

「おかげさまで、制作費は広告費でまかなえています。広告を出したい店がたくさんありますし、ビールや飲料の会社も協力してくださっていますから、反響があるのだと思います」と、城氏はタウンマップの効果には自信を持っている。

 タウンマップには、カラオケ、ゲームセンター、パチンコ屋のほか、キャバクラ、ホストクラブも載っており、ある意味で振興組合のお墨付きの店と言えるだろう。

 次は街の案内所として、コンシェルジュを設置したいと考えている。

「歌舞伎町の魅力を紹介するようなツアーを仕掛けていきたいですね。たとえばトンカツ屋をメインにして、2次会、3次会でゴールデン街やキャバクラ、ホストクラブに行けますというのはどうでしょう。観光客が歌舞伎町を回遊して、いろんなお店でお金を落としてくれるのが理想です」(城氏)。

 食事プラスアルファで、歌舞伎町の夜の文化、ナイトビジネスを見せていくという戦略だ。一度、歌舞伎町有志が企画をして、街づくりのプロの人たちに参加してもらって、お試しのツアーを行ったが、思いのほか好評だったので、ブラッシュアップして歌舞伎町ツアーが実現できないかと考えている。

 秋葉原にはマップを発行し、メイドが引率するツアーを行う民間の観光案内所が存在するが、いわばその歌舞伎町バージョンと言えるだろうか。できれば歌舞伎町の象徴とも言えるキャバクラ嬢やホストが引率するか、アシスタントに付くような形が望ましいのではないかと思う。

 しかし、実際にはキャバクラやホストクラブが人をコンシェルジュのために出したり、営業時間内にツアー客が来店したりするのは難しいだろう。

「営業時間中に行けなくても、営業前に行って、たとえばキャバクラの朝礼を見学するというのでもいいんです。普段見れない舞台裏が見れるツアーは、お客様の満足度が高いですからね」(同)。

 これは2008年末「新宿コマ劇場」が閉館する際に、サービスとして劇場の裏側を見せるツアーを企画したが、その評判が非常に良かった体験に基づいている。

 日本のキャバクラ1号店と言われる「蘭○(らんまる)」を経営するレジャラースでは、「業態の性質上、日本語がわからない外国人の方はお断りしています。日本人のお客様が連れて来た場合は入店していただく場合もありますが、めったに来られませんね。営業時間内に中国人の観光客に来られても困りますが、営業前に見学に来ていただいて、キャバクラについてご説明させていただくのなら、ありかもしれません」(広報担当者)と、具体化していない話に答えるのは難しいとしながらも、営業の始まる前ならツアーに対応は可能ではないかと語った。


キャバクラ1号店と言われる「蘭○(らんまる)」。

 歌舞伎町では「新宿コマ劇場」の閉館以来、昼の人通りが目立って減っている。また、08年7月新宿3丁目に「新宿ピカデリー」がオープンして以来、新宿の映画の中心は、「新宿バルト9」と「新宿ピカデリー」の2館を擁する新宿三丁目に移ってしまった。ここ1年で歌舞伎町の映画館の数は14館から4館に激減しており、土、日、祝日の人通りも減っている。


歌舞伎町では映画館の閉館が相次ぐ中、残った映画館もあるが…。


セントラルロードの夕刻。歌舞伎町の人通りは昼も夜も減っている。


区役所通りの夕刻。不況でキャバクラの集客も沈滞気味だ。

 風俗取り締まり強化のため、夜の人通りも減っているが、昼の集客パワーがなくなってきているのは、もっと重大な街の存亡の危機すら感じる緊急事態だ。

「新宿コマ劇場」の跡地に何をつくるのかプランも決まっておらず、日本人が来ないなら、歌舞伎町にシンパシーを感じてくれている中国人観光客の来街に期待をかけるのは、むしろ自然な流れである。


閉館したコマ劇場。跡地利用はまだ未定の状況だ。

 城氏は「歌舞伎町というのは不思議な街で、面としては街の名前は有名で、点としての有名なお店もたくさんあります。しかし、点と点を結ぶ線が欠けている。その線をつくるのが我々の役割であるし、中国人観光客に喜んでもらえる観光資源を発掘して、街の良さをアピールしたい」と、意欲を見せる。

 中国人観光客がもっと増えて歌舞伎町が賑やかになれば、日本人も街の魅力を再発見するだろうか。

 4月には靖国通りを挟んだ向かいに「ヤマダ電機」が進出してくる。歌舞伎町ではこれが大きなチャンスになると期待が高まっている。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年2月18日執筆