フードリンクレポート


中国語のメニュー、アナウンスで安心感を持ってもらう工夫も。
〜不況打開へ真剣に取り組む、歌舞伎町の中国人集客作戦〜(4−4)

2010.3.2
リーマン・ショック以来の世界的な大不況で、海外から来日する観光客も減る中で、力強く成長する中国大陸からの観光客数は伸びている。給料・ボーナスが減って、外食を控える日本人に対して、今や経済力を持った中国人富裕層は欧米人の2倍のお金を海外旅行に使うと言われ、中国からの観光客をいかに取り込むかが、外食産業の課題の一つではないだろうか。この課題に先進的に取り組む歌舞伎町の各店を取材した。4回シリーズの第4回目。


どうとんぼり神座新宿店、中国語メニュー。

中国語のメニュー、アナウンスで安心感を持ってもらう工夫も

 2003年12月にオープンした「ラーメンレストラン どうとんぼり神座」新宿店は、早くから外国人の集客に力を入れており、外国人比率が1割近くになる。また、近年その比率は高まる傾向にあり、時間帯によっては座席が中国系で占められることもあるという。


どうとんぼり神座新宿店 外観。

「元々はアルバイトの募集をかけた時に、外国人、特に中国人、韓国人の比率が多くて、歌舞伎町にいらっしゃった外国人の方に券売機の前で、採用したアルバイトにフォローしてもらう機会がよくあったというのが、ニーズに気づくきっかけでした」と語るのは、経営する理想実業の前田一成・新宿店マネージャー。

 同店は大阪を中心に関西で実績を積んだ、「神座」の関東初進出店であり、ラーメン屋としてはガラス張り2階建てのカフェ風の斬新な店舗で話題を呼んだ。週末には2000杯くらいは売り上げるという繁盛店だ。

 券売機が店の外に設置されていて、ラーメンを食べに来た中国人や韓国人の顧客に、中国人や韓国人のアルバイトスタッフが、メニューの説明を直接口頭でしていたわけである。

「神座」に興味を示して店の前で中を覗いている外国人は、単に観光的興味の人もいるが、一方で母国の言葉で話しかければ、安心してラーメンを食べに入店する人も多いのだ。

 ところが暇な時間帯ならきめ細かい対応もできるが、忙しくなってくると店の前で入ろうか、入るまいか思案中の顧客を適切にフォローできない。

 そこで5年ほど前から、券売機の各メニューの下に英語を併記。店の前のスピーカーから出るアナウンスは、日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語でも流している。


どうとんぼり神座新宿店、外の券売機前のメニュー。英語が併記されている。

 歌舞伎町という土地柄、外国人客は台湾人、韓国人、中国人の順に多いが、欧米系の人はほとんどいないという。同様に外国人比率が高いのは、渋谷、池袋、大阪の千日前、心斎橋の各店で、池袋店はアジア系が多く、渋谷店は欧米系が多い傾向があるそうだ。

 また、3年ほど前には、英語、中国語、韓国語と3ヶ国語を併記したパンフレットを作成し、外国人がよく泊まるホテルに置いてもらうといった、販売促進活動を行っている。


どうとんぼり神座、外国語入りパンフレット。近隣ホテルなどに配布している。


どうとんぼり神座、外国語入りパンフレットの中面。

 店内には中国人向けに、中国語の写真入りメニューも用意して、利便をはかっている。

 現状、中国人は団体客が多く、予約をもらって40人を収容できる2階で食べてもらうスタイルをとっており、添乗員と仲良くなることが集客につながるという。


どうとんぼり神座新宿店2階、カフェ風の内装。

 中国人に人気のメニューは、圧倒的に「温泉卵とわかめ入りラーメン」(900円)。


どうとんぼり神座、温泉卵とわかめ入りラーメン。中国人に断然好まれている。

「中国人のアルバイトに理由を聞いてみると、温泉卵の温泉に日本のイメージがあるそうです。煮卵はあまり出ませんね。わかめも海鮮で、日本のイメージがするそうです」(前田氏)。

 日本に対して中国人が持っているイメージが、ラーメンの注文にも反映してくるのだから面白い。

 また、「揚げ餃子」(200円)も人気だが、「焼き餃子」はあまり出ないそうだ。このあたりは好みの問題なのだろう。

 注意すべき点として、「中国人のお年寄りでは氷の入った水を飲む文化がなく、氷を嫌がる人もいるので、配慮してあげないといけない」とのことだ。

 ちなみに韓国人にはやはり「キムチラーメン」が一番人気だそうだ。

「去年から歌舞伎町自体、歩いている人が減っていて、街のパワーダウンを感じます。もう世界一の歓楽街ではないでしょう。お台場も、東京ディズニーランドも観光地は中国人だらけだと聞きますし、不況が続いてもう日本人はラーメンを食べるお金さえないんじゃないですか。ウチも伸びているのは留学生も含めて、アジア、特に中国のお客さんです。タイの方たちもたまに団体で来ます」と前田氏。

 日本人のパワーダウンと、中国人の勢いを実感する言葉だ。しかし、先に成長を遂げた日本の文化は中国など発展途上の国の人にとっては魅力的なのである。その魅力に感じてくれている部分をお金に換えていかないと、飲食店の今後の成長は難しいのではないだろうか。

 歌舞伎町を取材して感じるのは、中国人観光客を呼び込むには、街としてのサポートが必要だということだ。

 そして中国人の間に知名度を上げるには、中国人スタッフを置く、中国語メニューをつくる、中国語パンフレットやホームページをつくる、といった努力が必要だ。

 これから韓国、台湾、シンガポールはもちろん、タイ、ベトナム、ロシアの沿岸部なども経済成長してくると、日本にやって来る外国人観光客はもっと増えるだろうし、増えてもらわなければ困る。

 そうなると中国語に加えて、英語は当然としても、できれば韓国語もメニューに併記するのが望ましいのではないだろうか。

 中国の2009年の経済成長率は8.7%。さすがに2ケタとまではいかなかったが、世界的不況の中では大健闘だ。東南アジア諸国もそれについて行くだろう。

 2010年中に中国が日本の経済規模を超え、世界第2の経済大国に浮上するのは確実である。日本の飲食業は、財布の紐が堅く家で飲む傾向が強まっている日本人に全面依存するのでなく、海外で気前よくお金を使ってくれる中国人を上客にしていけば、今後起こってくる少子化による人口減も関係ない。

「ミシュランガイド」東京版、京都・大阪版で示されたように、日本の外食レベルは世界一と言っても過言ではない。その大きな観光資源を生かす工夫が今、必要なのである。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年2月18日執筆