フードリンクレポート


立地の悪さをグルメサイトで克服した「テジ東京」。
〜「ぐるなび」vs「食べログ」、グルメサイトの王者はどっちだ?〜(5−5)

2010.5.10
飲食のポータルサイトとして著名なぐるなびと、最近急速にアクセスを伸ばしてきた食べログ。この2大サイトはぐるなびが飲食業者を支援する立場に立つのに対し、食べログが消費者のクチコミでお店を評価するというように方向性が正反対だ。両サイトの強みはどこで、飲食店としては販売促進にいかに活用できるのか。研究してみた。5回シリーズの第5回目。


テジ東京本店 外観。

立地の悪さをグルメサイトで克服した「テジ東京」

 ぐるなび、食べログなどのグルメサイトを使って、実際にどのように販促活動をすればよいのか。

 歌舞伎町のスタイリッシュなニューコリアンダイニングを代表する店「TEJI TOKYO(テジ東京)本店」を訪問した。同店総支配人の村谷義彦氏は、2005年の開業以来、グルメサイトの活用法を研究し、今では同業他社の相談に乗るほど熟知している。


ネットを使った集客に力を注いでいる、村谷義彦総支配人。

「当店は立地が悪く、他のエリアからお客さんを呼んで来なければ営業が成り立ちません。そこでビラ撒き、新聞の折込チラシ、地域のフリーペーパーでなく、最初から立地条件には関係ないグルメのポータルサイトに力を入れてきました」と村谷氏。

「テジ東京」は歌舞伎町でもホストクラブやキャバクラが密集する、飲食ではナイトビジネスが強い地域にあり、新大久保のコリアン街からも離れていて客層も違う。

「サムギョプサル」を中心に、おしゃれな空間でヘルシーな韓国料理を楽しんでもらう、新感覚のお店であって、ホストクラブやキャバクラに行く顧客が使うような雰囲気ではない。顧客は20代後半から40代くらいまでの女性が中心で、95%が日本人である。顧客単価は4500〜5000円となっている。


テジ東京本店 店内。

 駅からも遠く、店の近所からターゲットに合った顧客を引いて来れる見込みがないので、グルメサイトを使ったとのことだ。

 早い頃からホームページを作成し、店舗のイメージ、料理の内容の浸透をはかってきたが、知名度がないのでそれだけでは集客力が伴わず、ありとあらゆるグルメサイトを試したという。

 そうした試行錯誤の中で、今では、ぐるなび、食べログ、ヤフーグルメを柱にしている。

 特に中心となっているのは、ぐるなびで毎月20万円弱の広告費を使い、9倍の売り上げ効果が出ているそうだ。


テジ東京本店 ぐるなびホームページ。

「予算で選ぶ人、エリアで選ぶ人、雰囲気で選ぶ人は、ぐるなびのほうが便利だと思います。検索しやすく、ページあたりの写真の量が多いので、雰囲気を伝えやすいです」(村谷氏)。

 しかし、雰囲気の見せ方にはコツがある。写真が上手過ぎると、実際に行った感覚とあまりにギャップがあるので、好印象を持たれない。なので、凄腕のカメラマンを付けて過大な表現に走るのは、慎むようにしている。

 ぐるなびは広告費を使うほど効果があるのは確かだが、広告費を払った店ほど有利になる結果として、名店が埋もれるデメリットもあるという。

 食べログでは、「テジ東京」がベストレストラン2008の韓国料理部門で1位となり、ぐるなびのサイトからリンクを張って相乗効果を狙った。


テジ東京本店 食べログホームページ。

 有料サービスは、ターゲティングPR枠のサービスを受けているが、当初は食べログを使ってPRする店が少なかったので、常時「テジ東京」が表示されていたため、著しい効果があったという。しかし最近は、点数に関係なくPRする店が増え過ぎ、特集を組んでもローテーションでランダム表示されるため、効果がだんだん落ちてきているそうだ。

 また、レビューの書き込みも減っており、月に1件くらいしか、レビューが出てこない。それに対してヤフーのブログ検索で引いてみると、「テジ東京」に行った感想が週に2件くらいは出てくるので、最近は店に対する顧客の評判は、食べログでなく、ヤフーのブログ検索を参考にして個人のブログを主に読んでいる。

 ヤフーグルメを試し出した背景には、そうした食べログのユーザーの変化があるわけだ。「食べログは点数が高いとアクセスが増えるので、それを前提にしないと難しいです。それとブロガーの人たちは、グルメだけでなくていろんな話題について書きたいのでしょうから、食べログのようにグルメ専門に書くのは、メリットがないのではないでしょうか」と村谷氏は食べログを使っての販促の将来性については、疑問を抱いている。


テジ東京本店 ヤフーグルメホームページ。

 以上、飲食業界の雄を争う、ぐるなびと食べログの強みと弱みを見てきた。

 ぐるなびがオール飲食店の広告ではないかとの批判や、多くの名店が埋もれてしまうといった欠点を持ちながらも、ユーザーにとって検索のしやすさがあり、産地・企業とのつながりから有料加盟店が食材調達や宴会需要の開拓に有利となる面を持つサイトであることは確かだ。

 一方、食べログはクチコミで飲食店の評価をつけて、本当においしい店を選べるというコンセプトで、ぐるなびを追い抜かんという圧倒的なユーザー数の増加が続いている。しかし、「テジ東京」の報告にあるように、レビュアーは必ずしも順調に増えているのではなく、店を訪問した感想の書き込みは、一般のブログに移行しつつあるのかもしれない。また、有料会員も増えすぎて、PR媒体としては限界を見せつつあるのは意外であった。

 ブログに関しては、食べログ本部のほうでも、スタッフが巡回して各店の情報を集めているが、検索サイトで見たほうが多くの情報が入手できるように思われる。

 おそらく、今年、来年中に食べログがユーザー数1位のグルメサイトになることは間違いないが、広告効果から見れば、ぐるなびに軍配が上がるようだ。

 食べログの有料会員になってメリットがあるのは、レーティングが高い店だけだ。

 ただし、新しい傾向として「豚組」を展開するグレースのように、ぐるなびよりツイッターの集客効果が高い店も出現しており、ツイッターが飲食店のネットマーケティングの台風の目になる可能性もある。

 今後ぐるなび対ツイッターという構図になるのか、共存して行くのか。そこに食べログがどうからんでくるのか。食べログのレーティングの高い店がツイッターをうまく使い出したら、もしかしたら最強ではないかとも思うのである。


【取材・執筆】  長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年4月23日執筆