フードリンクレポート


無料カフェで1日3000人集客。おかきメーカー直営店。
〜フリーで儲ける飲食店の戦略を探る!〜(4−1)

2010.6.2
『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著)という本が売れている。タダからお金を生み出すというと、錬金術のように思われるかも知れないが、ネットブックを無料で配りモバイル端末を分割料金で売るというような販売方法は、今日では普通に行われている。つまり、何かの利益をあえて犠牲にすることで、集客力をアップさせて、さらなる利益を上げる。飲食店でも、過去に例を見ない様々なフリーの試みが始まっていることを紹介したい。4回シリーズの第1回目。レポートは長浜淳之介。


無料カフェ「播磨屋ステーション」のおかき販売コーナー。

無料カフェで1日3000人集客。おかきメーカー直営店

 無料カフェを店舗内に開設して、顧客を開拓するというユニークな集客戦略を取る、おかき・せんべいのメーカーがある。

 それが兵庫県北部、豊岡市に本社がある播磨屋本店。創業は幕末の1862年で、兵庫県内陸部の朝来市で当初は油屋であった。戦後、菓子製造業に転じ、1985年現代表の播磨屋助次郎氏が社長に就任するにあたり、米菓卸売から通信販売と直売店による直販に転換した。

 この方向転換が実を結び、現在は年商約70億円に成長。その内訳は、通販が約30億円、直売店が約40億円となっている。

 播磨屋本店が無料カフェ「播磨屋ステーション」を最初に設置したのは、2008年10月、福岡市内の福岡祇園店。好評につき順次拡大し、現在は東京2店(霞ヶ関、銀座)、大阪、京都、神戸、名古屋にもあって、計7店になっている。

 取材に訪れたのは、旧歌舞伎座の裏手、真新しいビルの2階にある「播磨屋ステーション 東京銀座本店」。席数は130席あり、カフェはセルフ式。自家焙煎のコーヒー、紅茶、日本茶、オレンジジュースなどが無料である。


フリーのおかきとコーヒー。

 また、おかき類6種類を1個ずつ、「おかきバー」から取って食べていいことになっている。つまり、同社のおかき、せんべいをカフェでくつろぎながら、あれこれ試食できるわけだ。ルールとして30分で次の人に席を譲ることになっている。


おかきバー。


賑わう店内。

 エレベーターのすぐ横の一角には、商品販売コーナーがあり、実はこれがメインである。

 銀座の真ん中あたりにあり、テレビ、新聞などで報道されたので、反響はすさまじく、オープン日には階段の下、さらに外の道まで行列ができたほど。今でも1日に2000〜3000人が訪れ、週末、祝日は混み合ってなかなか着席できないほどだ。

 訪問したのは平日月曜日の昼間だったが、観察していると、特に女性は長く居座って2〜4人でペチャクチャしゃべっている人が多く、中にはトレーに何個もおかきを盛っている人もいる。スタッフによれば、1日に何度も来る人、おかきを取りすぎる人、1時間も2時間も居座る人、体臭が極度にきつくて不快感を与える人などは、注意を促すというが、学生が居座る低価格ファミレスと同じような落ち着かない雰囲気があるのは事実。

 しかし、そのデメリットを割り引いてもやはり無料の魅力は捨てがたく、コーヒーやオレンジジュースもなかなかおいしいので、消費者にしてみれば間違いなく、銀座に用があるついでに立ち寄ってみたい場所になっている。

「販売のほうには正直、それほど結びついているのかなと思うのですが、徐々にお買い求めになる人も増えています。3割くらいの方が、買っていかれています。今までどこもやっていない試みなので、手探りで順次改善をしていっています」と、サブマネージャーの織田浩美さん。

 見た感じ、購入に結びついているのは1割あるかないかだと思われるが、それでも常時レジに行列ができており、かなり売れているようだ。人気は、表面がカリっとして中はふんわりとした食感の「朝日あげ」、京風せんべい「はりま焼」。そのほか、3パック1000円の徳用品もよく売れるそうだ。

 播磨屋社長としてはフリーカフェを運営する理由は、1つは「若い人におかき・せんべいの良さを知ってもらいたい」ということ、もう1つは「エコトレーによって、環境問題の抜本的解決を訴えたい」ということだそうだ。

 顧客は、中高年の女性が圧倒的に多く、次いで年輩のサラリーマンだが、若い人たちもチラホラ見かけられる。おかきを盛るエコトレーは、ほぼ全ての人が使用するし、徐々に社長の意図も浸透してきているのかもしれない。

 今後は年商100億円を目指してさらに出店を進める予定で、2年後にはパリ、ニューヨークに出店する計画もある。


【取材・執筆】  長浜 淳之介 (ながはま じゅんのすけ) 2010年6月2日執筆