フードリンクレポート


焼酎1杯50円より。自分で調理するキャンプ型居酒屋。
〜フリーで儲ける飲食店の戦略を探る!〜(4−2)

2010.6.3
『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著)という本が売れている。タダからお金を生み出すというと、錬金術のように思われるかも知れないが、ネットブックを無料で配りモバイル端末を分割料金で売るというような販売方法は、今日では普通に行われている。つまり、何かの利益をあえて犠牲にすることで、集客力をアップさせて、さらなる利益を上げる。飲食店でも、過去に例を見ない様々なフリーの試みが始まっていることを紹介したい。4回シリーズの第2回目。レポートは長浜淳之介。


お客が自分で調理する居酒屋「清貧」。

焼酎1杯50円より。自分で調理するキャンプ型居酒屋

 フリーといってもタダを意味するフリーではなく、飲食店の厨房を低料金で自由に使って調理できるという、前代未聞のフリーなサービスを提供しているのは、新中野にある「清貧」。

 店舗はオーナーと、アルバイト1人か2人で回しており、超ローコストなオペレーション。席数は65席ほどある。

 昼は貸しスペースや弁当・惣菜屋の厨房になっている場所で、店舗の夜の用途を考えていた家主と、「都会の遊び場をつくりたい」とアイデアを温めていたオーナーの思惑が一致して、昨年7月7日にオープンした。

「清貧」の特徴は、食べ物を顧客が自分が調理しなければならない代わりに、ドリンクがまさに激安であることだ。


「清貧」 外観。


店内。


お酒はカウンターで注文して、スタッフに出してもらう。

 生ビール「アサヒスーパードライ」が小グラス99円、中ジョッキ199円。ホッピー150円。焼酎「JINRO」、「宝焼酎」1杯50円など、各種のお酒が驚きの値段である。

 しかし、チュウハイのようなカクテルをつくってくれるわけでなく、ミネラルウォーター、炭酸水、生のレモン、梅干などは原価のような値段ではあるが、別途購入して、自分でアレンジしないといけない。

 ただし、30分につき200円のチャージを取られるので、3時間もいれば座っているだけで1200円の料金が発生する。なので、オーナーによれば「ウチは決して安くない」とのこと。顧客の平均滞在時間は2.5時間ほどで、顧客単価は3000円ほどになる。

 料理はお店で用意した食材が使え、持ち込みは不可。たとえば、焼きそばの玉60円、ネギ60円、豚のバラ肉180円等々といった素材を購入して、中の厨房で顧客自ら調理して食べる。


顧客はこの伝票の用紙に、物の値段が付いた小さなシールをペタペタと貼っていって、最後に会計する。


タレやドレッシングいろいろ。


ほんの少しだが、おやじの手料理もある。

 調理をしたくない人のため、レトルトカレーや缶詰、カップ麺、スナック菓子なども豊富にある。また、オーナーの手料理もほんの数品あり、その日のメニューが板書されている。

 また、卓上調理器具がレンタルでき、卓上たこ焼き器、ホットプレート、チーズフォンデュセット、鍋セット付カセットコンロが、各100円など。カセットコンロのガスボンベは200円で、ボンベキープができる。


カセットボンベのキープ棚。

 コンセプトは「都会のキャンプ場」とのことで、オーナーは類例のない業態なので営業許可をもらうにあたり、保健所、警察に何度も足を運んで相談に乗ってもらったそうだ。最初、入店した時に、店のシステムと、厨房を使うための詳しい説明を受けるが、衛生面の注意を促す意味もある。

 顧客は3〜7人のグループが多く、手づくり料理で楽しむ誕生会、20代女性の仲良しグループの女子会、50代くらいのサラリーマンが若い部下を引き連れて料理自慢をするケースなどさまざま。リピーターも多い。


皆で手分けして料理をつくる。一般人が飲食店の厨房を使えるのはこの店くらいだ。

 よくつくられるメニューは、パスタ、焼きそば、カレー、たこ焼きなどで、皆でワイワイやりながら調理できるものが多い。

 しかし中には、料理が大好きで、飲食店の強い火力を使って手の込んだ料理にチャレンジしたいという、本格派の人もいるそうだ。

 食事時の7〜9時頃は厨房の奪い合いになるほどの人気で、予約してきたグループが優先される。

 食器は洗わなくてよく、指定場所に下げるが、ゴミも指定場所に捨てることが求められる。このあたりはセルフサービス店と同じ要領だ。

「ゲームやギターも無料で貸しますし、自分たちで好きに過ごせる空間を提供しています。当店は自分で料理しないと安くなりません。面倒くさい、動きたくないけど安酒を飲みたい人には適しません。仲間たちで一緒に考えることの面白さを体験できる場所でありたい」と、オーナーは考えている。


楽器も自由に使える。


【取材・執筆】  長浜 淳之介 (ながはま じゅんのすけ) 2010年6月2日執筆