フードリンクレポート


焼酎無料、ビール1杯50円、ラーメントッピング無料も。
〜フリーで儲ける飲食店の戦略を探る!〜(4−4)

2010.6.7
『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著)という本が売れている。タダからお金を生み出すというと、錬金術のように思われるかも知れないが、ネットブックを無料で配りモバイル端末を分割料金で売るというような販売方法は、今日では普通に行われている。つまり、何かの利益をあえて犠牲にすることで、集客力をアップさせて、さらなる利益を上げる。飲食店でも、過去に例を見ない様々なフリーの試みが始まっていることを紹介したい。4回シリーズの第4回目。レポートは長浜淳之介。


「ぼたん」では年内は生ビールとハイボールは150円で提供する。

焼酎無料、ビール1杯50円、ラーメントッピング無料も

 商売におけるフリーの活用は、とある部分を無料あるいは利益完全度外視の超低価格で提供して、その部分の利益を放棄する見返りとして、有料部分でいかに利益を上げていくかを考えていかなくてはならない。

 板橋・大山に昨年12月にオープンした「居酒屋革命」は、芋・麦・米の焼酎が何杯飲んでもタダというおそらく前例のない画期的な居酒屋だ。煙草も無料である。


「居酒屋革命」 大山総本店。

 この5月末から6月初旬にかけて、吉祥寺、葛西、銀座、巣鴨と4店をほぼ同時に出店。このうち吉祥寺は中華居酒屋である。また、近々に相模原市の橋本にカレーが無料のラーメン屋を出店する計画を発表している。

 料理は北海道料理が基本で、1人2品目以上の注文で焼酎がタダになる。水、氷、お湯も無料だ。料理の値段は吉祥寺店の場合、肉じゃが480円、海老マヨ680円、ほっけ焼Lサイズ800円など、決して安くはない。中華メニューは、中華丼で945円もするので、むしろ街の中華料理店として高いほうに属するだろう。

 また、ドリンクも焼酎以外は生ビール中ジョッキ(黒ラベル)480円、生レモンサワー480円など、決して安くはない。焼酎も、「居酒屋革命」が提供する自家製という焼酎がタダになるだけで、本当に焼酎が好きでいろんな銘柄を楽しみたい人に向いた店ではない。

 日本人の習慣として普通に、最初はビール、あとはいろんなお酒を注文して楽しみたいといった使い方をすると、結局3000円近くの会計になってしまう。

 ただし、おつまみ2品を頼んで、焼酎だけを飲んでいれば1000円以内で酔いつぶれるまで飲めるというわけだ。大山の店は週末には開店前から行列ができるという。焼酎を無料にした分、料理とトータルで利益を取っていく店だ。

 アイデアが面白いので、マスコミの露出も多く、大山の店は連日大盛況とのことだが、新規オープンした吉祥寺店は「東急イン」というホテルの2階にあり、外から直接エスカレーターで上がれるが、居酒屋を経営する立地ではない。そこで、中級の中華料理をくっつけたのかもしれないが、いかにも取って付けた感があるのも確かだ。


「居酒屋革命」吉祥寺の新店。東急インの2階にあり、中華の店。


「居酒屋革命」吉祥寺店は、居酒屋と中華のミックス業態のようだ。

 プロデュースする天野雅博氏は、元ヤンキーを売りにしているが、流行に乗るのが上手く、過去にリサイクルショップ、酸素バーなどを手がけ、いずれも話題になっている。思い切って焼酎無料を打ち出した衝撃は大きかったが、吉祥寺店は300席以上ある大箱である。吉祥寺は焼鳥の老舗「いせや」など低価格居酒屋の激戦地でもあり、今後チェーン化していく試金石になる気がする。

 ドリンクの値段を衝撃的にまで下げて集客することでは、五反田の生ビール50円居酒屋「ぼたん」も負けでいない。ハイボールも1杯50円で、こちらは料理を必ず1品注文するルールになっている。「とりあえずビール」派が多い日本人にとっては、「居酒屋革命」よりもさらに安く飲めるのではないだろうか。


ビール1杯50円で名を売った、五反田の居酒屋「ぼたん」。3フロアーある。

 何せ、10杯飲んでも500円。ビールも、きちんとサッポロの商品を提供している。ただし、この生ビール・ハイボール50円は、オープンから1年限定のイベントで、5月18日からは1杯150円に上っている。それでも十分安い。これまでも、金曜と祝前日は150円であった。

 値上げ前、平日の夕方6時ごろに実際に行ってみると、3階建で300席はありそうな客席は、ほぼ7割ほど埋まっていて、顧客のほとんどがスーツ姿の男性サラリーマンのグループ。客筋は悪くなく、ビールが飛ぶように売れていた。

 料理はボリュームがあり、魚の鮮度は問題がなく、全般にチェーン系よりいいものを出している印象。1品400〜500円のゾーンが中心。1人3品ほど注文して、顧客単価2000円が目安になるような店だ。料理1品でビールとハイボールを飲んでいれば、1000円かそこらで酔えるのは「居酒屋革命」と似ているというか、こちらがむしろ元祖だろう。

「ぼたん」は、系列店として六本木の寿司居酒屋「松ちゃん」、新宿の「やまと」などを有しており、都内に9店ほどあると目される。いずれもビール180円など、酒屋やコンビニで買うなら飲みに行きたいと思える値段で提供して、高い集客を誇っている。マスコミには一切登場しようとしないが、口コミで良質のリピーターを確保している模様。料理はやや高いがいいものを出して、料理で採算を取っていく店である。

 先ほど、カレー無料のラーメン店のプランが出たが、「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」では、サラダバーの中にカレーも組み込んでおり、ステーキやハンバーグの店でカレーも食べられるのが人気の一因である。

 ラーメン店では、破格のサービスをする店はすでにあり、川崎市の東急田園都市線溝の口駅前の「みぞのくち野郎」は、トッピングの鶏の唐揚げ、キクラゲ、ニラキムチが無料。テーブルの前に大皿が置いてあって、いくらでも取り放題という店だ。
 ラーメンの値段はとんこつと醤油のラーメンが、太麺か細麺から選べて、600円から。味のほうはラーメン通からは厳しい意見もあるが、いつ行っても混んでいて、たいへんな繁盛店だ。溝の口一帯に居酒屋を経営する、たまいグループ傘下の店であるが、10席ほどの小さな店で1日30回転くらいはするらしい。店員は1日懸命に唐揚げを揚げていてラーメン屋というより唐揚げ屋である。


「みぞのくち野郎」 外観。


ラーメン屋「みぞのくち野郎」のトッピング無料の鶏唐揚げ、キクラゲ、ニラキムチ。


みぞのくち野郎の醤油ラーメンにトッピングしてみた。

「みぞのくち野郎」にラーメンの真髄を期待する人はほとんどいないだろうが、トッピングの唐揚げなどを無料にすることで、顧客をつかんで離さない。

 さらにトッピング無料では、「ラーメン大」という、池袋、蒲田、三鷹などにあるチェーンでは、野菜増しで注文すると、丼からこぼれおちそうなほどの量の、タワーのような山盛りの野菜がラーメンの上に乗ってきて壮観である。このボリュームで、熱烈なファンも多く、週末などは行列ができる店も多い。


「ラーメン大」三鷹店 外観。


「ラーメン大」 トッピング無料の野菜タワー。

 こうして見て行くと、飲食店も商品の宣伝のためフリーカフェを展開する、お酒をフリーにする、お通しをフリーにする、トッピングをフリーにする、変則的な形では厨房をフリーに使わせるなど、さまざまなフリーの形態があり、しかも集客効果が上がっていることがわかってきた。

 次はどんなアッと驚くようなフリーのアイディアが生まれて来るのか。楽しみである。


【取材・執筆】  長浜 淳之介 (ながはま じゅんのすけ) 2010年6月2日執筆