フードリンクレポート


大晦日は日本中の家庭で蕎麦を打とう!
〜蕎麦屋がキラキラ輝く日本を作る!「しのぶ庵」三代目の使命〜(4−3)
大橋 正伸氏 有限会社エムアンドエムフーズ 代表取締役

2010.6.9
お客様もスタッフも年配のイメージが強い蕎麦業界。関西の商業施設で蕎麦屋など10店舗を展開する「しのぶ庵」三代目、大橋正伸氏。彼は蕎麦のルーツは大阪にあるという。その大阪から蕎麦業界の活性化に向けて、全国に呼び掛けを始めた。4回シリーズの第3回目。レポートは安田正明。


十割蕎麦。

大晦日は日本中の家庭で蕎麦を打とう!

 経営者の勉強会で、「居酒屋甲子園」前理事長で、「てっぺん」の大嶋啓介氏と出会い、「何でもいいから日本一になりたい。自分の生きた足跡を残したい」と思うようになる。

「大嶋君と出会って、僕も社会に元気を与えたいと思うようになりました。店舗数を増やすんじゃなくて、自分のやりたいことをやっていくのがいい。三代目なので引き継いだ文化を伝えたい。」

「僕の使命は『日本の伝統食文化の継承と伝承』。昔からあるものを自分のフィルターを通して後世に残していくのが僕の役割です。デザインも好きなので、おしゃれな蕎麦屋を作りたい。おしゃれにしたら、若い子も来てくれる。小学校の時、蕎麦屋の息子と言われるのがいやでした。蕎麦屋はダサいと思われています。」

「蕎麦は関東や信州のイメージですが、元々蕎麦は中国からきています。豊臣秀吉が大阪城を作った時に、日本全国から人夫と資材を集めたのが、大阪氏西区新町。そこは昔、砂場と呼ばれていました。それが、東京の蕎麦『砂場』の起源だと思います。早く安くと作られたのがうどんと蕎麦。それが江戸に移って、夜泣き蕎麦が生まれたりしました。」

 大橋正伸氏は子供達に手打ち蕎麦を教えるボランティア活動を行っている。2008年から始めて、今宮戎神社の境内や幼稚園などで計約20回を重ねている。これを全国に広めるのが夢だ。

「子供達に手打ち蕎麦を通して3つのことを伝えています。1つ目は、『日本の伝統食文化の素晴らしさ』。『いただきます』『ごちそうさま』という言葉の語源と意味を伝え、料理を作る人への敬意、命を食すということの意味を知ってもらいたい。2つ目は、『感謝の大切さ』蕎麦を打つのはしんどい。蕎麦屋はこんなにしんどい仕事なんだ、お母さんはこんな思いをして毎日ご飯を作ってくれている。食べ物や作り手への感謝を教えたい。そして、3つ目は、『人は誰でもやればできる』。夢は見るものじゃなく叶えるもの。子供は蕎麦打ちなんて出来ないと思って来ます。でも、我々がサポートすると出来る。『やった、出来た!』という声があっちこっちから上がる。」

「そして、最後にお父さん、お母さんを集めて言うんです。『今日はお子さん達にこんなことを教えました。帰ったら、お子さんは“いただきます”“ごちそうさま”と言います。それを褒めてあげて下さい。でも、一番大切なのは親がやって見せることですよ。親に学んでもらいたい。」

「他所の蕎麦屋に『一緒にやりませんか』と声を掛けています。各地に神社や寺は必ずあります。お店に来てもらってもいい。集客にも繋がるし、文化発信ということで蕎麦屋の新しいスタイルが生まれ、蕎麦屋に来る機会も増えます。」


味くらべ。

「日本人が誰でも知っているのは、年越し蕎麦の文化。僕が生涯をかけてやりたいのは、各地区の神社やお寺で、大晦日に、お父さん子供と一緒に蕎麦打ち大会をすること。その打った蕎麦を夜中に食べてもらう。さらには、日本人のお父さんは皆、1年に1回だけお父さんが家族のために家庭で蕎麦を打つ。1年に1回お父さんをスターにして家族皆で蕎麦を食べる。そんな文化を創るのが、僕の最終ゴールです。」

「でも、業界の集まりで発表したら、ひどく馬鹿にされました。『お前はアホか、大晦日は一番儲かる日。そんな事をしたら蕎麦屋に来なくなる』と言う。違うでしょう。365日の内、一番売れる日ですが、この日を文化的な日にしたら、残りの364日蕎麦を食べる機会が増える。」

 日本一の蕎麦店と言われる、広島の「達磨」。蕎麦名人と言われる同店の高橋邦弘氏も大橋氏を応援している。


【取材・執筆】  安田 正明 (やすだ まさあき) 2010年5月17日取材