フードリンクレポート


何でもあり日式居酒屋から専門店へ。
〜シンガポールの日本食は深化。本格ブーム始まる。〜(6—6)

2010.7.12
セントーサ島とマリーナ・ベイの2ヶ所にカジノリゾートが誕生し、その周辺でさらなる開発が続き、好景気に沸くシンガポール。金融、医療だけでなく観光でも世界中から注目を集める国となった。特に、中国からの観光客が急増している。そんな中、タクシー運転手も「日本食が好きだね。ちょっと高いけど」と言うほど、日本食文化が浸透している。そして、さらに深化を始めた。6回シリーズ。レポートは安田正明。


不思議な相撲力士像のある日本料理店もある。

何でもあり日式居酒屋から専門店へ

 東京の業務用酒類卸 株式会社折原(東京都豊島区)が昨年5月、欧米人の多いロバートソンウォークにて日本料理店への日本酒や焼酎等の卸売と小売業を始めた。同時に、焼鳥店「酉玉」を隣接してオープンさせた。


折原商店。日本料理店に日本の酒類を卸売、また店頭小売も行う。


店内で立ち呑みも出来る。


日本酒は720ml瓶で70ドル(5000円)〜。


焼酎は同じく80ドル(5600円)前後。


店長の佐藤直樹氏。夫婦で店を切盛りしている。


隣接する「酉玉」。

「酉玉」は東京・白金の希少部位がウリの人気焼鳥店。そのノウハウを借りた。シンガポール産の鶏を使用している。味も日本の「酉玉」と遜色なく、客単価7〜8千円にもかかわらず繁盛している。日本酒(59ドル〜)をボトルで頼む現地人も多い。日本人客の割合は5割程度。


店の中央に焼き台。炭を使用。ガラスで客席と仕切られている。


メニューには肉の部位の説明図がある。


内臓部位の説明図も。

 そして、香港をベースに日本料理店を展開するエングループは「En Japanese Dining」をシンガポールで4店展開しているが、そのウリは沖縄料理。同社社長は沖縄で育った中国人であり、本格的な沖縄料理を提供している。オリオンビールや泡盛も揃えている。日本人客が約5割を占める。客単価は4〜5千円。


「En Japanese Dining」 外観。


ゴーヤチャンプル。ラフテーもある。


平日は現地人が多く、週末は日本人が多い。

 さらに、シンガポール発の回転寿司「すし亭 Sushi Tei」が人気だ。商業施設ラッフルズシティの店では17時からお客が入り始め、18時にはほぼ満席となっていた。「すし亭」はアジアで28店、内シンガポールで12店を展開。日本人で、食材をアジアに輸出する商社ダイショーを経営する竹倉昇氏が会長を務め、シンガポール人が運営を担当しているジョイントベンチャー。本格的な日本の寿司がリーズナブルな価格で食べられると現地人に人気となっている。客単価は2〜3千円。


「すし亭 Sushi Tei」ラッフルズシティ店 エントランス。


ちょっと高級な回転寿司の風情。


大人数用のテーブル席のある。


巻物のメニューが豊富。海外の寿司店に共通。


6貫で12ドル(840円)。

 他方、典型的な日本のイメージを引きずった店舗もある。オーチャードロードにある日本食フードコート「キセキ KISEKI」の相撲力士像には驚かされた。


「キセキ KISEKI」。ビュッフェスタイルでディナー平日29.8ドル、週末32.8ドル。


相撲力士の像がアイキャッチとなっている。

 日本料理店は世界で約3万店。その内、日本人が経営する店は1割に満たず、中国・韓国人などアジア人が経営しているといわれている。日本料理が世界的ブームになっているにもかかわらず、先を越された訳だ。これは日本人の変化に対する柔軟性に欠ける国民性が影響していると思われる。

 シンガポールには日本料理店は約200店。一通りの日本料理が紹介され、タクシー運転手にまで好きだと言わせるところまで浸透してきた。これからもこのブームを長引かせる為にも、次は本格的な日本料理の出番だ。ここで日本人が世界に飛び出て、本物を紹介するチャンスが巡ってきた。


【取材・執筆】  安田 正明(やすだ まさあき) 2010年6月24〜27日取材