フードリンクレポート


業界初「流れ鮨」で注文から会計、仕入まで一括管理。
〜安さ、新鮮、プラスアルファ。回転寿司勝ち組の強さを探る!〜(5−5)

2010.7.16
サブプライム不況による外食低価格化で、再度注目を浴びている回転寿司。しかし、その内実はいち早く100円(税込105円)均一に加え、プラスアルファの施策に取り組んだチェーンのみが売り上げを伸ばし、あとは停滞もしくは売り上げが落ちている。どこで差が付いたのか、でかネタの非均一料金系にはチャンスがないのか。回転寿司の現状を探ってみた。5回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


自分のテーブルに確実に届く、流れ鮨システム。

業界初「流れ鮨」で注文から会計、仕入まで一括管理

「流れ鮨」という独特のシステムで、存在感を示しているのは、沓間水産・沼津魚がしグループが展開する「沼津魚がし鮨」である。

 流れ鮨とは、回転寿司のレーンを使い、タッチパネルの注文を受けてから厨房で寿司を握り、レーンに流してテーブルまで運ぶシステム。テーブルの前まで皿が来ればいったん止まり、テーブルに突き出している受取口にまで自動的に運ばれるので、取り忘れ、取り間違いがない。かっぱ寿司の特急レーンとは違った、もう1つ注文に関するクレームの解決方法である。

 沼津魚がし鮨は、沼津市など静岡県東部を基盤に42店あり、それとは別にしずてつストア内の寿司テイクアウトコーナーも担当している。年商は88億円。県外では、神奈川県、東京都、千葉県に店舗がある。


沼津魚がし鮨 流山おおたかの森店 外観。

 沼津魚がし鮨には、江戸前、回転寿司などの業態もあり、今のところ流れ鮨システムの採用店は12店だが、御殿場プレミアム・アウトレット近くの業界で初めてこれに取り組んだ御殿場店が非常に好調なことから、今後は流れ鮨にシフトしていくそうだ。

 静岡県内の沼津魚がし鮨の知名度は圧倒的で、静岡市清水区にある、日本唯一の寿司のテーマパーク「清水すしミュージアム」に出店する10店の中でも、断然の人気を誇っている。

 千葉県内2店目となる流山おおたかの森店は、つくばエキスプレスと東武野田線の流山おおたかの森駅に隣接する、高島屋のデパ地下業態「タカシマヤ・フードメゾン」をキーテナントとした、流山おおたかの森SC内にあり、飲食のテナントの1つである。

 席数は96席あり、SC内の飲食店では最大級。平日は普段から女性客が多いが、訪問したのが水曜で、シネコンのレディースデイにあたり、女性客が圧倒的に多かった。休日はファミリーが顧客の中心になる。平日には200〜250人、休日は1000人前後の集客があり常に満席の状態だという。


店内。


テーブル席。100円均一店と同じく省人化が進んでいる。

 客単価は1600円ほどで、3,、4年前の2000円から下がっている。新しいシステムに取り組む背景には、沼津魚がし鮨といえども、不況の中、決して楽でない経営事情がある。1皿の値段は100円から520円くらいまで、バラエティに富んでいる。


1皿の値段は最低100円で、かなり幅がある。

 100円均一との違いとして、このチェーンも、でかネタが売りの1つだ。普通回転寿司では、白身の魚なら12〜15gの大きさだが、沼津魚がし鮨では20gくらいの切り身が乗っている。2カン380円のマグロの赤身は25gと、ネタの大きさには定評がある。


沼津魚がし鮨は、駿河湾の地物を中心に、でかネタで勝負。

 メニュー数も80〜100と多く、マグロのいろんな部位のセット、白身魚のセット、ランチタイムセットなど、セットメニューも多い。また、6月にはアジのフェアーを行うなど、店舗単位のフェアーに加え、富士山静岡空港1周年記念フェアーのような全店規模のフェアーも行っている。


キャンペーン商品は随時投入。この日は大漁盛が安い。

 ネタは駿河湾の地のものを中心にしており、駿河湾の特徴として、海が深く魚種が多いことが挙げられる。トロール、底引き網などいろんな漁法で珍しい魚も獲れるので、飽きが来ないという。

 では、流れ鮨にしてからの反響はどうだろうか。

「常に握り立てが出ますし、お客様も見ていて楽しいというので好評です。注文が入ると厨房のオーダーシステムにエントリーされ、出すとタッチで消しますから、出し忘れもほとんどありません。しかも流れ鮨では、どの席で何が何皿出たのかがリアルタイムでわかります。なので、店員がハンディを持って皿の数を勘定しなくても会計ができますし、出数の分析で注文のロスも軽減できました」(菊池雅光千葉地区統括部長)。

 単なる注文システムでなく、会計や仕入にまで連動しているのが、流し鮨の優れたところである。


流れ鮨は単に注文を取るだけではない。厨房のシステムでは、その日のメニューの出数がリアルタイムで集計される。。

 沼津魚がし鮨は、ライバルは銚子丸と見ているが、銚子丸と違って、どちらかというとショッピングセンター、駅ビルなどのテナントとして、出店を重ねたい意向だ。近隣に宅配も行っており、宅配寿司の市場にも切り込む勢いである。

 寿司の市場1兆3000億円ほどの中、回転寿司は3分の1ほどの4000〜5000億円を持っており、全体としては成長している。

 しかし、100円均一3強のあきんどスシロー、くら寿司、かっぱ寿司と、でかネタ・地場漁港系の銚子丸、沼津魚がし鮨のような地方有力数社のみが勝ち組で、あとはほとんど負け組といった格差が開いている。

 職人の目を強調する原価率50%以上のあきんどスシロー、店を劇場とみなす銚子丸は人間系で、自動廃棄システムのくら寿司、特急レーンのかっぱ寿司、流れ鮨の沼津魚がし鮨はITで、他社より一歩先のプラスアルファの価値を実現していた。

 そして結果として、特に3強は価格に対する満足度でトップクラスの評価を得て、サービス業全体でも顧客満足度の高いチェーンに認定されている。

 もうタッチパネルを入れた、安い、新鮮、ネタが大きいだけでは勝てず、そのチェーンに行かないと体験できない楽しさ、サプライズが求められているのである。
 

【取材・執筆】  長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年7月6日執筆