・スタンディングスペースとガラス戸で入りやすさを訴求
そもそも鉄板焼が「高級」とイメージされるのは価格設定に加え、すし屋にも似た席配置にあるだろう。大体が料理人を鉄板の中央に、それを対面で囲むようにお客同士が合い席をしている。他の客との合間もよみながら会話ができなければいけないし、服装も含め同じ鉄板を囲む者同士、全体がその空気づくりに大きく影響するわけだ。最初からある程度の価格を支払うという前提で入店、同じカウンターを囲むとはいっても立ち飲みカウンターのそれとは大いに意味が違う。
オーダー内容も合い席同士で影響し合う。同席の別のお客が「活あわび」を頼めば、焼かれていく様子を目の当たりにし是非食べてみたいと動機付くわけで「こちらもあわび、いただけますか。一番小さいサイズで」などと思わず言ってみたりするものだ。
「鉄板居酒屋 てっぱちや」(運営:株式会社レインズインターナショナル)の1号店がオープンしたのは2003年3月で当時はまだまだ鉄板焼は「高級なもの」であった。
「てっぱちや」は同社の主力業態「牛角」と同様に「自分のお財布で、または家族でも気軽に行くことができて鉄板焼を楽しめる店」として展開を目指したもの。各テーブルに鉄板そのものを設置し、お客自身が自分で焼くというスタイルで素材そのままを楽しむ。鉄板料理の基本部分を残しながらも、料理人の特別な技術を省いてカジュアルにしている。「鉄板焼」がリーズナブルで身近なものとして広がりをみせていく取っ掛かりをつかんだのはこの頃。
一方で「鉄板焼」という業態自体は安くなったとしても「頻繁に来店する」とか、「常習性がある」とかいう業態ではそもそもない。出店を促進したいとなるとそこも課題のひとつだった。今回レポートする各店はそれらを払拭するように新しい側面を持ち合わせていた。
吉祥寺駅徒歩1分の「鉄ぱん軒」(運営:株式会社バンブーインターナショナル)は昨年6月にオープン。通りに面した一階の店舗は全面ガラス戸で外からも店内がよく見渡せる。入口にはハイカウンターが備えられ生ハムブロックが置かれている。棚にはワイングラスが並びバールの雰囲気が漂う。立ち飲みスペースとして前部は開放することもあるという。その奥、店舗中央部に幅1m強の大きな鉄板が二枚並び囲むようにカウンターが5〜6席ほど。カウンター席のテーブルと鉄板面は水平で調理と食事は同じ目線で楽しめる。壁に沿ってテーブル席があり店内のどの席からもこの「鉄板」を見ることができる。
入口すぐのハイカウンター。
店内。
「鉄ぱん軒」ではフードメニューは「素材そのまま」というものはかなり少ない。「小皿鉄板料理」と題して「鉄板タパス」のカテゴリーを設けているのも面白い。メニュー開発は頻繁で、試食は本部社員も含め全体で行うという。
全てにオリジナルのソースなどがアレンジされどちらかというと創作料理に近く「鉄板焼」の要素は比較的少ないようだ。味の濃いソースは自分の好みで後からかけたり、塩だけでいただきたいものもあるかなと感じる部分もあった。同店では、ワインを片手にお料理を楽しめるようにというのがコンセプトとのひとつなので敢えて決め打ちの味で提供するという形になっている。
リードヴォーのソテー 〜レモン香る焦がしバターソース〜(1000円)
トロチャーシューの炙り(650円)。