・由比ガ浜は雑誌、商品の世界観を表した海の家が突出
湘南の中でも特におしゃれなビーチとして知られる由比ガ浜であるが、1995年をピークに海水浴客はほぼ半減している。
鎌倉市によれば、市内の3つの海水浴場、由比ガ浜、それに小さな川を挟んで隣接する材木座、片瀬東浜に連なる腰越を合わせた95年の来客者数は175万人。それが、冷夏と悪天候で鎌倉花火大会も中止になった昨年は78万人まで落ち込んだ。一昨年の113万人に比べても69%という寂しさで、3つの海水浴場でも8割近くのシェアを占めていると見られる由比ガ浜の集客減が顕著である。
海の家の数も最大35軒あったのが、今年は17軒、材木座の2軒を合わせても19軒と落ち込んでおり、明らかに逗子と片瀬西浜に顧客を奪われている。
しかし、残った海の家には由比ガ浜を盛り上げようという気概ある店舗も多く、注目度が落ちているのがもったいないほどだ。営業期間は7月1日〜8月31日。
「Safari×CLASSY. Beach House」は、セレブをテーマとした2つの雑誌、男性誌「Safari」(日之出出版)と女性誌「CLASSY.」(講談社)とタイアップした、大人がゆっくりできるリゾート的な空間づくりを行って、由比ガ浜でもおしゃれ感の高い海の家だ。
「Safari×CLASSY. Beach House」 外観。
店内。
経営はカフェ「Sign」や世界一の朝食を出す店「bills」の日本での展開で知られる飲食企業、トランジットジェネラルオフィスが行っている。
トランジットは2006年腰越にオープンした、実験的な予約制をメインとした高級リゾート型海の家「KULA」の運営に参加し、昨年初めて自ら由比ガ浜で海の家を出店した。今年は2年目になるが、協賛を多数募っていく手法は「KULA」に学んでいる。
「Safari」、「CLASSY.」のほかにも、ビーチサンダルの「アグ」、ポロシャツの「ラコステ」、マニキュアの「OPI」、ナノケア美容製品の「パナソニック」、ロサンゼルス発セレクトショップ「ロンハーマン」などといった協賛が付いている。
店内はそれら協賛企業の製品をPRする場にもなっており、顧客にサンプル品を配ったり、特定のメニューを注文すればキーホルダーのような景品がもらえるなどといったイベントを随時行っている。
提携雑誌とサンプル品の数々。試供品もある。
顧客層は学生も来るが、ファミリー、社会人のカップル、男性または女性のグループも多い。20代〜30代が中心だ。男女比では女性が男性をやや上回っている。
席数は約80席。客単価は1500円を少し超えるくらいとなっている。海の家としてシャワーとロッカーを使えば1500円、飲食で1500〜2000円である。飲食はランチの需要が多いが、土日は昼間からお酒が出るので単価が高くなる。
海水浴客が帰った夜には、近くに住む家族や、犬の散歩がてらに立ち寄る人が替わってやってくる。週に1、2回のペースで訪れる昨年からのリピーターも増えてきているそうだ。
料理は都内のカフェの味をそのまま海の家に持ってくることを、コンセプトとしている。「Safari」協賛の「ハニーマスタードのポークソテー」、「CLASSY.」協賛の「カジキソテー ピスタチオとレモンのソース」(各1250円)といった肉と魚料理のサラダ付きプレート、オーガニックバンズの和牛バーガー(1250円)などが人気。おつまみも、トルティーヤチップス、オーガニック野菜のピクルスなど各種ある。
オーガニックバンズの和牛バーガー 1250円。
ドリンクは生ビール、ワイン各500円。「ロンハーマン」など協賛ブランドをイメージしたカクテル、あるいはスムージーはノンアルコールを含めて、この店でしか飲めないスペシャルドリンクとなっている。
UGGスペシャルスムージー(ビンクグレープフルーツ&ヨーグルト) 700円。
DJが入った音楽イベント、ベリーダンスの会なども協賛があれば開催。各種パーティーも開かれているという。
店頭の状況は「今年は去年に比べれば5割増まではいかないが、かなりいい」とのことなので、巻き返しが期待できそうだ。
そのほかの海の家では、今年が4年目となる「ブルー・ウィンディ・テラス」は青い風が吹き抜ける空間をテーマにした、白い清潔感ある新感覚の海の家だ。初期の頃は「パラダイス・アオ」という店名だった。JTの「マイルドセブン」が協賛している。
「ブルーウィンディテラス」 外観。
メニューはフードコーディネーター・尾身奈美枝氏の監修で“ビーチメシ”なる新ジャンルを提案。素材も新鮮な鎌倉野菜を毎朝仕入れている。
モーニングプレート(シラス入りスクランブルエッグ、シーザーサラダ、パン、ソーセージ 780円)、ランチの「桜エビのフレッシュトマトのスパゲッティー」(1000円)、鎌倉野菜を取り入れた「スープミネストローネ」(680円)、「自家製ラー油焼きそば」(1100円)、ディナーの「シラスのアラビアータ」(1200円)、「地鶏と鎌倉野菜のソテー」(1800円)、「特製パエリア」(1200円)といったように、地産地消を考えたイタリアンの要素の強い洋食中心のメニューが考案されている。
ドリンクも文字通り青い「特製青ビール」(600円)をはじめ各種揃っている。
また、おしゃれ系海の家として毎年さまざまな企画を行ってきた「クイックシルバー」は、「角ハイボールガーデン」と、今年は趣向を変えて流行に乗ったベタな居酒屋的海の家を出してきた。もちろん「角ハイボール」(400円)がメインで、ゆず、すだち、パインが入ると500円。
食事は、ナチョスチップス、産地直送さつまあげ、アンチョビポテトのようなおつまみ系から、ロコモコ、シラス丼、昼はラーメンなども提供している。
さらに、「まぜそばビレッジ」は、テレビ朝日「大つけ麺博」スタッフが提案した、名店3店による汁なしラーメン「まぜそば」の食事どころだ。まぜそばを流行らせたさいたま市東大宮「ジャンクガレッジ」の元祖まぜそば、つけ麺の老舗・池袋「大勝軒」の創作したオイスターソースベースのまぜそば、サイフォン仕込みのスープで人気の後楽園の人気ラーメン店「魚雷」がチャレンジしたイタリアン風まぜそば(各800円)を食することができる。
「まぜそばビレッジ」 外観。
「まぜそばビレッジ」は、ジャンクガレッジ、大勝軒、魚雷と3つの有名店の味が楽しめる。
由比ガ浜の特徴として、食や空間のレベルは高いのだが、企業との提携企画が非常に多い。ある意味で進みすぎていて、海の家が全般に広告メディア、つまり宣伝に見えてしまうのが欠点のように思う。逗子や片瀬西浜も、同じようなことをやっているのだが、逗子には夏季限定ライブ、片瀬西浜には夏季限定カフェという、全体を貫く柱が雑然とした中にもある。
たとえば女性、カップル、若い夫婦をターゲットにした居酒屋風海の家のようなものが由比ガ浜のカラーであると打ち出せれば、V字回復も可能な気がしてならない。