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下町に息づく横丁文化。
〜ちょうちん、すだれ・・どこか懐かしい路地裏の横丁。横丁文化の歴史と進化を追う。〜(7−3)

2010.8.18
「横丁」という言葉と文化は韓国のソウルで発達したともいわれソウルにはその名残が多い。古くからの食文化を守り続けている店も少なくないこの街で、伝統ある飲食店は表通りから一本奥に入った路地裏に集まっている。大通りを貴族が馬で通っていた頃(朝鮮王朝時代)、庶民だけが気兼ねなく通れる細い路地が大通りを避けて作られ、そこに「庶民の憩いの場」として飲食店が軒を連ね人が集まり横丁は出来上がっていった。東京都内にも50年以上の時を経てそのままの形で残る横丁がいくつかあり今も賑わいをみせる。一方で近年、商店街再生事業をひとつの目的とした「横丁ブランド」と称される「プロデュース型横丁」もオープンラッシュが続く。「横丁」のもつ「魅力」と「味わい」は何なのか、そして人はなぜ横丁に集まるのか。7回シリーズ。レポートは国井直子。


立石の「宇ち多゛」。行列は昼間から絶えない。

下町に息づく横丁文化

 東京の下町、立石(葛飾区)や北千住(足立区)では古くからの大衆居酒屋に人が集まっている。京成押上線の京成立石駅前「立石仲見世」は戦後から立ちあがり今もそのままの形を残す商店街。お惣菜屋や串焼き、飲み屋など20店舗ほどが集まる。昭和21年創業で64年続く「宇ち多゛(うちだ)」は、その顔ともいえる名店のひとつだ。遠方からわざわざ同店に立ち寄る客も多く、鳩山元首相が来店したことでも話題になった。飲み物や料理は100円台からで1,000円もあれば充分に酔っ払える。

 店内は45席ほど、隣の人と肩をくっつけながら店のルールにのっとって注文をしていく。初心者には「新宿ゴールデン街」とはまた別の難しさがあるだろう。退店のタイミングにも暗黙のルールがある。それは「3杯くらい飲むのを目処に店を出た方がいい」というものでどこにも書かれている訳ではない。飲み続けてお金を落としていたとしても出るように促されるので、つまりは使っている金額がその焦点ではない。

「安くて旨いだけではなく、そういう店のルールがあるのがいい。普通であれば少し嫌な気がするものかもしれないがここでは逆に心地よい。そのルールも『店が作ったもの』ではなく『客が作っていった』ルールなのだと思う。ルールというよりは『トーン』なのかな」とこの街のハードリピーターの紳士は語る。イベントでは「ロオジェ」や「アマン」を使ったとしても本当に自分をさらして酔っ払えるのは「立石」だと。

 立石は今流行の「千べろ(千円でべろべろに酔っ払える店)」という言葉でひとくくりにされるのも、プロデュース型横丁とも全く違うと言えるだろう。もし都心に「千べろ横丁」を作ろうとしても難しい。名店の「味」は薄利多売、家賃も安くこの土地柄でこそ実現できている。ここではビールは高級品であり、そして180円の「梅割り」が妙に旨い。


【取材・執筆】 国井 直子(くにい なおこ) 2010年8月12日執筆