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「横丁」の便宜性とファッション性。
〜ちょうちん、すだれ・・どこか懐かしい路地裏の横丁。横丁文化の歴史と進化を追う。〜(7−7)

2010.8.24
「横丁」という言葉と文化は韓国のソウルで発達したともいわれソウルにはその名残が多い。古くからの食文化を守り続けている店も少なくないこの街で、伝統ある飲食店は表通りから一本奥に入った路地裏に集まっている。大通りを貴族が馬で通っていた頃(朝鮮王朝時代)、庶民だけが気兼ねなく通れる細い路地が大通りを避けて作られ、そこに「庶民の憩いの場」として飲食店が軒を連ね人が集まり横丁は出来上がっていった。東京都内にも50年以上の時を経てそのままの形で残る横丁がいくつかあり今も賑わいをみせる。一方で近年、商店街再生事業をひとつの目的とした「横丁ブランド」と称される「プロデュース型横丁」もオープンラッシュが続く。「横丁」のもつ「魅力」と「味わい」は何なのか、そして人はなぜ横丁に集まるのか。7回シリーズ。レポートは国井直子。


今年7月に東京・浜松町にオープンした「ギンダコハイボール横丁」。たこ焼き「築地銀だこ」の新業態。

「横丁」の便宜性とファッション性

 横丁に並ぶそれぞれの店舗は独立していて個性があり自然と違う空気感が豊かに表現されている。昔ながらの横丁も、プロデュース型の横丁も賑わう横丁にはそれが共通している。一時「屋台」「屋台村」が多く現れ、そして衰退していった背景には「表」の色だけが違うようで「個性」とは遠い商業型であったからかもしれない。形だけが違う店を集めたとしても、ママやマスターの醸しだす無二の空間感はなかなか真似できるものではない。

「横丁」には色々な店が集まっていて一箇所でセレクトがあるという便宜性も魅力だ。それは繁華街と同じ構造でありそこに人は集まる。その中でお客自身は通う店を選び、馴染みを作っていく。そして最後は「止まり木」になれる店を得る。同じ店に行けば安心できる会話や賑わい、時には静寂も得られるのが嬉しい。


「ギンダコハイボール横丁」 外観。
 
 又、下町で長く息づいている店には、戦略など全く持っていない店の方が多いことも分かる。それは「うまい」「まずい」「高い」「安い」も大切ではあるが、横丁がそれ以上に「人情」や「心地よさ」で客がついていくことを物語っている。店主が体でマーケティングを理解して、横丁の老舗は作られているのだ。

 人はいつの時代もコミュニケーションを求めていてる。閉まったシャッター通りより人のいる気配はそれだけで全く違う空気を作る。「客の作る空気に自身が馴染む」「横丁の歴史に自身が馴染む」というお金では買えない独特のファッション性が横丁にはある。それらを満たしてくれる「横丁」がまた行きたくなる「横丁」であり文化のように思う。


【取材・執筆】 国井 直子(くにい なおこ) 2010年8月12日執筆