・「立地×ターゲット=機能」の入川流マーケティングとは?
ニューヨークのカフェで目の当たりにした、カフェがあることで街が良くなっていく状況を日本でも再現するきっかけとなったのは、渋谷のキャットストリート。今でこそ、お洒落なアパレルショップやインテリアショップが立ち並び人通りも多いキャットストリートだが、1990年代前半までは雰囲気は全く違い、明治通りの閑散とした裏通りで認知されない道だった。
しかし、そこにはアパレルデザイナーやアーティストの卵たちがいた。そこで、入川氏らは、彼らの活動をサポートするような場をカフェとして作ったのである。これが、「WIRED CAFE」一号店である。
「WIRED CAFE一号店では、カフェは1階。2階は、ファッションを表現できる場所としてアパレルショップにし、店内にはポスター広告を掲示するなど、カフェをメディアとして機能させるようにしました。」ターゲットが明確なカフェとショップをメディアとして機能させ、掲載料などそこでの報酬も得てビジネスにする。テストマーケティングの場でもあったという。
次第にカフェはアーティストや若者に注目される存在となり、情報交換の場、打ち合わせの場として使われるようになり、コミュニティが生まれ、ビジネスが生まれた。その結果、彼らのキャットストリートへの出店を促し、街の賑わいを創出。ファッショナブルな人気のエリアとなっていったのである。
店内にカフェを設置した「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」。
「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」店内。
その後も、ターゲットを的確に掴み、店舗や業態作りに反映させていく入川氏の手法は注目され、数々話題の案件を手掛けていく。その中でもGOOD DESIGN賞を始め、多数の賞を受賞し、各方面から注目を集めたのが「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」。六本木ヒルズの中にある、ブックショップとカフェが融合した、TSUTAYAのブランディングを牽引するコンセプトショップだ。ここでも、入川氏は徹底的にそのエリアを分析するところから始めた。
「六本木ヒルズ周辺に住んでいる人たちを見てみると、ビジネスで成功していて経済的には裕福でも、文学的欲求は少なく、きっと小説は読まないだろう。では、何なら読むか?ライフスタイル系の本ではないか?彼らはやりたいことはたくさんあるのに、忙しくてその時間がないから。彼らの本を買う理由は、せめて本でその欲求を満たしたい。だから、クッキングや旅行、建築デザインなど趣味の領域で、置いていてカッコイイもの、例えば表紙や背表紙がお洒落な本が欲しいのではないか、と考えました。」
そんなプロセスで、スタイルブックなどを中心とした、ブックストアのMDが決まっていったのだ。そして、彼らが本のビジュアルや内容を吟味して購入できるように、店内にソファやカフェ(スターバックス)を設置。ソファに座って、コーヒーを飲みながら比較購買できる仕組みを作った。実際に、非常に高価でも、置いていてカッコいいライフスタイル系の本が売れるという。
これが、どんな立地で、ターゲットは誰(どんなスタイル)で、彼らには何が必要か(機能)を追求する入川氏が行ってきたマーケティング手法。
「僕たちはこれを『立地×ターゲット=機能』と呼んでいます。この機能がニーズに対するソリューションになります。そして、そのソリューションとして、地域に寄り添い、コミュニティ創造機能がある『カフェ』はとても適していると考えています。」