・コンセプトは要らない、お客さんがコンセプト
昨年9月に六本木一丁目のアークヒルズにオープンした「ARK HiLLS CAFE(アークヒルズカフェ)」。このカフェも、日常のちょっとした喜びを得られる“自分らしくいられる場所”を目指した、サードプレイス創造の代表的なケースである。
「アークヒルズ周辺の住民は、“日本一の住民”だと思うんです。世界中を渡り歩いている人、お金や時間にゆとりがある人、そんな人たち。事実、周辺1km圏内に住む住民で年収が一千万円以上の人が85%を占めています。また30%近くが外国人の方で、その割合は、東京23区の平均である4%をはるかに上回っています。」と入川氏。
この店をプロデュースする際もフィールドワークを行い、周辺住民の着ている服や持ち物などから、そのスタイルを徹底的に分析した。
「ARK HiLLS CAFE」のテラス。近隣に住む外国人の姿も多い。
「その結果から、彼らは世界一流の物を知っており、日本のトップレベルのレストランでも満足しないかもしれない人たち。そして、無駄なお金は使わない。そんな人たちにとっては、料理の味や価格はそれ程大きな問題にはならない。それよりももっと大事なことがあるだろうと思いました。」
その考えが、スタッフの人選やサービスにも反映されている。「(“日本一の住民”にとっては)スタッフの若い女の子が同じ目線で話しかけてきたり、英語が普通に通じたり、そんなことが嬉しかったりするのではないかと思いました。そして、世界レベルのサービスを知っている人たちだからこそ、どんなリクエストにも可能な限り全部応えるようにと伝えています。」
「ARK HiLLS CAFE」店内。接客にも入川氏のプロデュースが光る。
これまでプロデュースしてきたカフェにおいても、ターゲットに寄り添うようなサービスを大切にしてきた。入川氏が“脇の甘いサービス”と呼ぶそれは、ターゲットと目線を合わせたフレンドリーなサービス。
「例えば、メニューなどをあえて内容が分かり辛い表記にすることもあります。すると、お客さんはわからないからスタッフに訊きますよね?それがいいんです。話すきっかけになる。お客さん自らが話しかける時が、一番無防備な時。そんな時こそ、対等なコミュニケーションが生まれて、それがちょっとした喜びに変わる。それを狙って、仕掛けをしているんです。」
難しいことではなく、徹底的にその立地のこと、そこにいる人々のことを観察し、何が必要とされているのかを考える。定性的データと定量的なデータを集め、双方から立地とターゲットを分析する。
「こちら側のやりたいことを押し付けるはただのエゴ。大切なのは、そこで生活する人々に“寄り添う”こと。極論を言うと、コンセプトは要らないんです。お客さんがコンセプト。」飲食を通して地域になくてはならない場所を作りたいという、入川氏の思いが伝わってくる。