フードリンクレポート


自店のサイトでクーポンが発行できるサービスも誕生。
〜半額は当たり前!? 大胆割引で集客、フラッシュマーケティング〜(5−5)

2010.9.3
インターネットで共同購入者を募り、3割引から9割引という大胆な割引設定のクーポンを発行する「フラッシュマーケティング」。アメリカで2年ほど前に始まり、早くも500億円市場にまで急成長していると言われる新サービスだ。日本でも今春より始まり、相次ぐ参入でサービス提供会社は既に30社を超えるという。この「フラッシュマーケティング」の特徴として、飲食店のクーポンが非常に多い。こんなにも割り引いてどんなメリットがあるのか、販売促進につながるのか、取材してみた。5回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


グルーポン型クーポン集客支援ASPシステム「ダダっと」。

自店のサイトでクーポンが発行できるサービスも誕生

 フラッシュマーケティングを専門サイトを使わず、自社のサイトでクーポンを発行できるASPサービスも誕生している。これを考案したのはサイブリッジ(本社・東京都港区北青山)。

 サービスのブランド名は「DaDat(ダダっと)」で7月9日より募集を開始した。「ダダっと」ではクレジットの審査なしに、飲食店などの店舗がサイトの中にブログがあるような感じで、リンクを張ってフラッシュマーケティングを開始することができる。店舗の初期費用は0円、月額使用料0円、共同購入クーポンを発行した時だけ成果報酬が売り上げの10%発生する。料金的にも非常にお得な設定で、ホームページ、ブログ、ツイッター、メルマガなどで既に多くのアクセス、読者を獲得している飲食店ならば活用できるのではないだろうか。

 ASPなのでサーバ負担もなく、機能追加も要望に応じて無料で行うという。「クーポンサイトで実際に効果があって、次は自分でやってみたいといったフラッシュマーケティングのリピーターにお勧めです」(サイブリッジ執行役員・清水勇樹氏)とのことだから、ある程度慣れた中級者以上向きと考えていいだろう。

 また、フラッシュマーケティングのクーポンサイトを始めたいという、事業者向けのサービスもあり、初期費用は120万円、月額使用料0円、成果報酬5%となっている。

 一例として「ドリパス」というブルーム(本社・東京都品川区東五反田)と新宿バルト9が提携して発行している映画の共同購入クーポンは、この「ダダっと」のASPサービスを使っている。

 全国各地から問い合わせがあり、飲食、美容、アパレル、映画、旅行、スポーツ施設、レジャー施設などの分野を開拓する方針で、来店のきっかけになるような販促ツールとして普及を目指す。

「オールクーポンジャパン」という共同購入クーポンのまとめサイトも有しており、「ダダっと」を使ってクーポンを発行すれば、こちらにも掲載され、ダブルで集客できるメリットもある。

 さて、実際にフラッシュマーケティングを利用してみた飲食店は、どんな感想を持っているだろうか。

 ワタミでは「居食屋 和民 池袋サントロペ店」を「ピク」を使って、2000円の食事券を980円と51%オフで提供し、129人の購入があった。

 ワタミ広報によれば「初めてのお客様に来ていただき商品とサービスを体験していただき、再来店をしていただくのが前提。1店舗での限定的な導入でしたので波及効果までは確認できていません」とのことなので、効果があるかどうかを検証している段階にあるようだ。同様なサイトも出てきているので、「それぞれの特性を知り、条件等を考慮して再チャレンジもある」としている。


「和民」池袋サントロペ店のピク割クーポン。

 使ってみたメリットとして、新しい媒体なので話題になる、「和民」を使ったことない顧客にアピールできる、成果報酬型なので顧客に大きく還元できると、3点を挙げていた。

 カフェ・カンパニーでは「ピタチケット」を使い、東京ミッドタウン「A971」のコースを69%オフの2000円・100組200人限定で、渋谷「RESPEKT」のコースを60%オフの1980円・50組100人限定でそれぞれ販売し、瞬く間に完売してしまった。


わずか40分で売り切れた、A971の「ピタチケット」クーポン。

「リピート率、効果については検証中ですが、驚いたのは売れるスピードです。パソコンで画面を見ていてどんどん売れていったので、社内皆でただただびっくりしています」と、広報では反響の大きさに驚きを隠せないようだ。「A971」のクーポンは、USENの発表によればサービス初日にして40分で完売している。

 7月31日にフジテレビで放映された「FNNスーパーニュースWEEKEND」によれば、「カウポン」を使った「個室焼肉ダイニング SAFARI 新宿店」では、8000円のディナーコースを75%オフの2000円で売り出したところ、最低購入人数の100人をたった5分で突破。

 早速予約の電話が入り、上限の1500人分チケットは1時間半で完売した。3日後にTV局が再度来店したところ、平日にもかかわらずチケットを購入した顧客で客席は埋まっていた。


1時間半で1500枚完売。サファリの「カウポン」クーポン。

 このようにチケットが売れるスピードの速さ、反響の速さは予想を大きく上回るケースが多々確認されており、少なくともツイッター、SNSが普及している東京都心部などでは集客に効果があることが報告されている。ただし、リピートにつながるかどうかは半年くらいのスパンで見ないと何とも言えないので、今のところは検証中ということだろう。

 問題点はないだろうか。

「ポンパレード」ではいきなりサービス開始初日に、池袋サンシャイン60にある「オーシャン カシータ」のクーポンを販売したところ、表現上の問題でちょっとしたツイッターの炎上騒動が起こってしまった。

 クーポンでは、「ディナーA(4800円)にカシータ流の特別な演出、フルーツプレート、サービス料10%を含めて1万円相当を50%オフの5000円」と記したところ、演出とフルーツプレートに5200円もかかるのか、ちっとも安くなっていないとの不信の声が、タイムラインと「#pomparade」のツイート上にあふれかえったのだ。

「カシータ」をよく知った人なら演出とはどういうサプライズを指すかわかるが、使ったこともない人には確かにわかりにくかった。「ポンパレード」を提供するリクルートと同店は、急遽話し合い、ディナーAをより高級なディナーC(8400円)に変更して対処した。


ポンパレードのオーシャンカシータ割引クーポンに疑問を投げかけた、ツイッターの投稿。その後コースの内容がより高いものに変更された。

 この件についてリクルートでは「表現がわかりづらい面がありその日のうちにユーザーに謝罪をし、全部クーポンを売り切ることができました。ユーザーに教えられることが多く、反省を踏まえてよいサービスを提供していきたいです」(広報担当・相澤倫也氏)と、謙虚に振り返り、「ポンパレード」のグレードアップをはかると誓ってくれた。

 一方のカシータ広報では「取材は内容の秘守締結の関係でお応えすることが生憎できない」とのことだった。

 7月21日の「日経ネットマーケティング オンライン」にある記事『リクルートのクーポン共同購入「ポンパレード」、初日出品から炎上騒ぎ』の中でも、両者の言い分の食い違いが指摘されている(カシータはコースの記載が間違っていたと語ったのに対し、リクルートはコースをグレードアップして変更と発表)が、カシータがリクルートから口止めされているのか、それとも本心では納得がいかないのか、判然としないところだ。

 この件は7月26日朝日新聞1面の記事にもなったほど、フラッシュマーケティングでは有名な事例なので、レストラン業界随一のサービスと評判のカシータだけに、何か一言ユーザー目線に立つ旨など言ってほしかった気がする。

 また「クーポッド」ではクーポンを郵送する際に手違いで期日に遅れるミスがあった。そこで購入したユーザーには謝罪文とともに、プラスアルファの割引チケットをオンして送った。長い目で見ると、一時的に損をしてでも顧客満足度を上げることが大事であるという判断だ。

 ツイッターの口コミは悪評が広がるのも早い。何かユーザーが疑問を持った場合は、言い訳はアンチのツイートの火に油を注ぐだけで迅速な対応策が必要なのである。記者を懐柔したり恫喝したりして、自分の都合のいい記事を書かせる手法はツイッターでは通じない。

「百式クーポン」を始める海外IT新技術紹介サイトの「百式」では、管理人自身が綴るブログ「IDEA*IDEA」8月25日付で、日本のフラッシュマーケティングサイトがキャンセルを認めていないことを問題視。米国「グルーポン」が電話で対応しているのに対して、メールでキャンセルに応じる方針を表明している。

 それでは、今後のフラッシュマーケティングはどうなっていくのか。

 このテーマに詳しい「日経ネットマーケティング」小林直樹記者は、「資金力、営業力のあるところ(たとえば上場IT企業系が運営)は、そうカンタンに失速しないだろう…という点で判断するのもよいかと思います。ただ、米国でもグルーポン型業者が300社を超えていると言われていますし、上位2〜3社だけしか勝ち残れないようなビジネスではありません」と語る。

 つまり当面、ある程度著名なIT系や、Webメディアを有する会社、そしてベンチャー系もベンチャーキャピタルの支援などあれば、かなりの数が生き残る。大手2、3社に集約されるタイプのビジネスではないと考えて良さそうだ。

 小林氏によれば日本のフラッシュマーケティングサイトは、8月30日時点で公開済みが44社、準備中が6社で計50社もあるが、まだまだ伸びしろがあって100社やそこらは余裕で生き残って行く可能性がある。

 ただしそれを利用する飲食店は、効果があるからといってクーポンを連発するのは危険だ。

「いつも大幅割引クーポンを出してる飲食店がもしあった場合、ユーザーは、こうでもしないとこの店は客が入らないのかという印象を持つでしょう。店のブランド価値を毀損しかねません。また、正価で食べるのはバカらしいと思われたら、その後リピーターになることは期待薄です」(小林氏) 。

 どうも年に1度か2度くらい、集客のカンフル剤として使うのが正しい使い方のように思えるが、そこは今後の検証を待たなくては結論を出せない。

 少なくとも言えることは、ある1つのお店に対して、1ヶ月に1度くらいの短期で大幅割引クーポンを連続して発行するように勧める業者があれば、間違いなくインチキである。

 まだまだ始まったばかりの新しい集客術、フラッシュマーケティング。今後どのように進化を遂げ、固定客化につなげていくのか、ウォッチしていきたい。 


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年8月26日執筆