・「飲めりゃあいい、酔えればいい」からの脱却。ワインブームの定着なるか?
パスタバール「TASPA」は、新橋でもビストロやバールが集まるエリア、“ワイン通り”の一角にある生パスタを売りにしたバール。昨年11月にオープンした角立地の3階建てで、側面には大きく「WINE」や「TAPAS」の文字が書かれて目立つ。カウンターキッチンのある1階は開け放たれているので、ふらっと立寄りやすい。
外観。側面のペイントが目を引く。
この店も、約半数は男性客で30〜50代の男性サラリーマン。2軒目利用が多いと言うが、4人グループであれば1〜2本のワインが空くケースが少なくない。世界各国のワインを60種類程取り揃えていて、ボトル2800円〜、グラスは5種類程度を480円〜と手頃な価格で提供している。2軒目利用の客単価は2500円程度。毎日のように通う常連もいる。
1階カウンター向い側の立ち飲みスペース。
2階はテーブル席。1、2階で計50席弱の店内。
店長の関野氏によれば、「40〜50代の男性サラリーマンの方で、ワインにとても詳しい方もいらっしゃいます。そんな方は、まずスパークリング。そして、白、赤と、ボトルとグラスを交えて飲まれたりします。自分のお気に入りの品種もご存知なようです。」
そんな一方で、グラスワインを飲み、同時にハイボールを注文して、ハイボールをチェイサー替わりに飲むという男性もいるという。自由な感じの楽しみ方だ。ここでは、ハイボールタワーを設置し、ハイボールも数種類提供している。カンパリを使ったオリジナルの「ザ・TASPAハイボール」なるメニューも。
このハイボールタワーが設置されている長いカウンターでは、カウンター越しにお客とスタッフとの会話が多く生まれる。内装さえ違うが、居酒屋の雰囲気に似ている。スタッフとの会話が盛り上がり、「その辺のキャバクラより面白い。」と言われたこともあるという。新橋サラリーマンらしいエピソードかもしれない。
「フードメニューは、和風の居酒屋を意識しつつも、イタリアやスペインの本場のバールの味を取り入れています。人気の『洋風たこぶつ』もその一つで、タコのガリシア風をベースに山椒を利かせる工夫をしています。オイルサーディンや唐揚げも人気です。」飲み物も食べ物も雰囲気も、居酒屋に通じるところがあることで、新橋サラリーマンにとっては馴染みやすくなるのだろう。
「とりわさ」、「たこぶつ」など、居酒屋の定番をアレンジしたメニューも。
ホルモンを焼いてチーズを載せて仕上げた「ホルチー」(780円)
ボトルワインでよく出るのは、2800円の同店での最安値層。店側としては、このメインで出るワインの価格帯を上げていきたいという。「ワインの安売りはしたくない、酔うだけのお酒にはしたくないというのが本音です。ワインの本場である、フランスやイタリアのように、テーブルの上に普通にワインボトルを置いて、水を飲むのと同じようにワインを飲む。そんな光景が増えたら上しいですよね。」と関野氏。
そんな思いを持った同店では、この夏、酒屋の提案により中高年のサラリーマン世代をターゲットにしたワインの企画を実施した。「今、ワインを飲む親父(おやじ)はかっこいい!」と大きく書かれたポップが店内を張り出し、オヤジがワインを飲むスタイルを提案した。「これを見たターゲット層の男性から、『これ俺のこと?』と反応を頂き、ワインを飲んで頂けました。」と、反響もあったようだ。
「スタッフがもっとワインのことについて勉強し、お客様にワインの楽しさ、美味しさをもっと知って頂きたい。」と語る関野氏。ワインに対する熱い思いを感じられた。
気軽にワインを楽しめる環境が増えつつある新橋。そして、新しいターゲットとしてはポテンシャルを感じる中高年のサラリーマン層。しかし、新橋の居酒屋でよく見られる「飲めりゃあいい」、「酔うために飲む」という感覚の延長線上になってしまったら、本当の意味でのワイン人気には結びつかない。一ワイン好きとしては、ワインの本当の美味しさ、楽しさを理解してもらえる、新橋サラリーマンの進化に注目したい。