フードリンクレポート


洋食は「オーグードゥジュール」、「満天星」が国産素材で新業態。
〜羽田空港のダイニング、新国際線ビル開業で話題沸騰〜(6−3)

2010.11.5
10月21日にオープンした羽田空港新国際線旅客ターミナル。これによって世界11ヶ国・地域の17都市が24時間営業で定期便で結ばれた。東京都心の浜松町と品川から最短13分でアクセスする新国際線ターミナルのインパクトは大きく、初日より大きな反響を呼んでいる。商業施設も江戸の町並みを模した「江戸小路」や空港初のプラネタリウムカフェなどを擁し、海外からの顧客、もちろん日本人の飛行機に乗らない空港見学者にも喜ばれるように設計されている。東京の世界への窓口、羽田のダイニングの今を取材した。6回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


「シエル・エ・テール」。3年連続ミシュラン1つ星獲得中のレストランのカフェ。

洋食は「オーグードゥジュール」、「満天星」が国産素材で新業態

「江戸小路」には和食ばかりでなく、洋食、中華、焼肉といった各国料理の店もある。元は韓国料理と感じなくなってきたほどに普及した焼肉はともかく、江戸の町並みと違和感を覚える店舗もあるのは事実だ。

 そこは、日本の伝統的食材を使うということでフロアー全体に統一感を持たせている。

 注目したいのは、麹町のフレンチ「マキシム・ド・パリ」出身の岡部一己氏による「オーグードゥジュール」の系列店となる、グループでは初のカフェ業態「シエル・エ・テール」。

 新丸ビルの「オーグードゥジュール ヌーヴェルエール」は3年連続ミシュラン1つ星獲得中のレストランで、「シエル・エ・テール」では世界に認められた味が手軽に羽田空港国際線ターミナルで味わえる。想定価格は2000円で、時間を急いでいる人が多い立地の性質上、料理を全部出すのに2〜3時間かかるコースは設けていない。席数は32席。

 日本の優れた産地を発信することがテーマで、秋田県産「もみじたまご」を使ったオムレツ(1000〜1500円)が人気のメニュー。ケチャップも秋田県で主婦が製造している農林水産大臣賞受賞の絶品を使用している。


「シエル・エ・テール」 キノコオムレツ。秋田の素材にこだわっている。

 また、「バーニャカウダ風サラダ」では秋田県、栃木県などの産地から直送されたきて、その日に届いた新鮮な野菜を提供する。


「シエル・エ・テール」 バーニャカウダ風サラダ。日本各地から直送した新鮮野菜を使っている。

 渡辺樹里支配人は「一般に出回らない野菜や商品をお客様に召し上がっていただき、こんな地域でつくられているのですよとお知らせできればと考えています。第1弾が秋田ですね」と、国産農産品の魅力を伝える場でありたいと語った。

 メニューは日本語、フランス語、英語、中国語、韓国語と5ヶ国語で表記されている。

「ポートサイド キッチン」は8店ある「グリル満天星」チェーンの新業態。やはり国産の素材を使って海外の顧客に日本の味を楽しんでもらおうといった趣旨だ。席数は30席。


「ポートサイド キッチン」。

 たとえば国産牛を使ったハヤシライス「ビーフライス」(2700円)、茨城産の豚肉のバンバーグ、山梨産の鶏肉のハンバーグ(各1890円)など、素材が良い分「グリル満天星」のアッパーゾーンの店となっている。朝の10時30分までの朝食メニューとして、トーストセット・オムレツ入り(1050円)、ビーフドライカレー(1890円)などを用意。旬の野菜を使ったワイン、ビールに合うおつまみも取り揃えている。


「ポートサイドキッチン」 和牛ハンバーグ。

「焼肉チャンピオン」は恵比寿に本店のある、最高級A5ランクの和牛を提供する店。ざぶとん(3360円)、みすじ(2730円)、くり(1575円)など、希少部位も味わえる。上カルビ(1890円)、ロース(1365円)。


「焼肉チャンピオン」。

 朝からランチタイムにはセットメニューがあり焼肉御膳、クッパ、焼肉ビビンパ重などが900円台から2000円を切るくらいで味わうことができ、お財布の事情でメニューが選べる店でもある。

「南琳華」は日本産の食材にこだわった中国料理店。「南国酒家」の新業態である。席数は44席。黒毛和牛と野菜の炒め、天然物・近海物の魚介類を使った料理、全て旬の野菜のみで構成したベジセットメニュー、オホーツク海産タラバ蟹の蟹チャーハンなど、2000円を中心に1500〜3500円でセットメニューが各種そろっていて、なかなかそそられる。


「南琳華」。「南国酒家」の新業態。


「南琳華」 国産素材にこだわったハーブ豚の広東風酢豚。

 ピッツェリア「エッセ ドゥエ イル ピナーリオ」は、赤坂の住宅街にあるイタリアン「エッセ ドゥエ」の2号店にあたる。本店はナポリピザで評判の店で、「江戸小路」でも職人による窯焼きピザが食せる。


ピッツェリア「エッセ ドゥエ イル ピナーリオ」。

「カフェカーディナル」は、新宿のスペイン料理「エル・フラメンコ」、銀座のイタリアン「サバティーニ・ディ・フィレンツェ東京」などのレストランを展開するカーディナルが経営する24時間営業のファーストフード店。


ファーストフード「カフェカーディナル」。

 ドリップコーヒー、紅茶のアールグレイ(各290円)、ビール(600円)、カリフォリニアワイン(700円)といったドリンク類のほか、ホットドッグ(500円)、ナンカレー(800円)、焼きたてのクロワッサンやデニッシュパン、スープ2種(450円)など軽食が味わえる。

 また、「江戸小路」には15の物販のショップがあり、和柄のTシャツ、和コスメ、風呂敷、手ぬぐいなどの和雑貨、メガネ、文房具、時計、バッグなどの専門店、書店、リフレクソロジーの店などが並んでいる。おみやげ用の食物販の店もある。


保安エリア、アキバ系商品を空港の免税店で売る時代になった。

 パスポートコントロールの中にある、保安エリアの店舗は3階・4階の出国エリアにある。

 出国エリアは31店舗とかなりの店舗数。「グッチ」、「シャネル」、「エルメス」など高級ブランドの免税店が並んでいて壮観である。

 4階には、高質感がありインターネットやドリンクが楽しめる日本航空と全日空のラウンジもある。

 飲食店は3店。4階にある「TOKYO SKY KITCHEN」は170席あるセルフサービスのフードコートで、旅立ち前のちょっとした腹ごしらえに良い店になっている。24時間営業。


保安エリア、免税店街からフードコートへ。


フードコート「TOKYO SKY KITCHEN」。

 提供されているフードはカレー、スパゲティー、サンドイッチ、サラダ、タコ焼き、寿司、丼もの、おにぎり、うどん、そば、ラーメン、おでん、あんみつ、プリン、ソフトクリームなど多彩。コーヒー、ビール、ワインなども飲める。

 値段はカレーが600円など、「江戸小路」の24時間レストラン「羽田食堂」に比べれば全般に安い。羽田空港を使い慣れた人は、同じ24時間営業なら値段ほどの味の開きがないのならば、こちらを利用するようになると思われる。

 3階のビアバー「Verre Tokyo」も24時間営業で、昼はカフェ、夜はバーとして、出発前に飛行機を見ながらリラックスできる空間。出国エリア内は禁煙で喫煙ルームが設けてあるが、この店は完全分煙されていて、喫煙者が飲食しながらタバコが吸えるようになっている。食事はピザ、パスタのほかマリネなどのおつまみ類も置いている。


ビアバー「Verre Tokyo」。

 また「CAFE CERCA」はコーヒー、紅茶、ホッドドッグ、サンドイッチなどが味わえるカフェになっている。「江戸小路」で集客したいためだろうが、国内線第2ターミナルのチケットを切った後の出発エリア内でブランド力あるラーメンショップ、有機栽培のコーヒーなどこだわりの食を提案したことから考えれば、こちらの保安エリアの飲食は後退している感すらあった。

 免税のブランドショップがこれだけ並んでいればのぞいて歩くだけでも結構疲れる。この中に1つ、2つ高級感あるカフェが挟まっても良かったのではないかと思う。例えば「キハチ」、「ミクニ」、「ヒラマツ」などカフェに実績ある高級店も日本にはあるのだから、面白い店をつくってくれたに違いない。今後の進化に期待したい。

「江戸小路」以外の飲食はこうして見たように、カフェのような軽食のレベルにとどまっており、これは2階の出発エリアにある2店においてもそうである。5階のプラネタリウムカフェと「アールバーガー」はともかく、カフェのあり方、つくり方を含めて改善の余地がありそうだ。

 2階の到着エリアの先は、モノレールと京浜急行線の駅につながっているが、モノレールの駅の横の奥まった場所に、立ち食いそば「大江戸そば」が入居している。これは駅で働く人にとってはありがたい店だろう。

 また、3階には京浜急行の管理する商業エリアがあり、セブンイレブン、上島珈琲店がある。コンビニは国際線ターミナルの中には、ここと1階のローソンのみなので貴重だ。

 しかし、この京浜急行の駅ビルエリアで注目したいのは、「人形町玉ひで」、「和心とんかつ あんず」、「博多の味 やまや」が共同出店しているユニークな飲食・物販店。


玉ひで、あんず、やまやのユニークな共同店舗。

「人形町玉ひで」は親子丼発祥の店と言われランチの行列で知られるが、その親子丼に特化して提供している。同店の親子丼に使っている鶏肉は、東京都と共同開発した「東京しゃも」と呼ばれるこだわりの品種で、支店を出すのは江戸時代の創業以来初だ。

「和心とんかつ あんず」と「博多の味 やまや」はいずれも福岡が本拠で京浜急行とつながりが深く、提携して韓国・ソウルに店を出してもいる。「あんず」は上州豚「とんとことん」を使用し、野菜にも産地と安全性にこだわったこだわりのとんかつ。「やまや」は明太子ともつ鍋の代表店である。

 こうして見てみると、羽田空港国際線ターミナルは「江戸小路」に和食以外の業態は有効か、保安エリアの物足りなさ、カフェ業態がワンパターンと問題点はあるものの、海外への窓口の飲食店のあり方を考えた攻めの姿勢が見えるレストランのラインナップとなっている。

 テナントもこれを足がかりに世界に出たい野心も見られ、世界的な和食ブームの中、日本の食の現在を海外に伝えるショーケースの役割は果たしているのではないかと思われた。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年11月1日執筆