・国内線第2ターミナル増床、「恋する建築」で集客アップ
羽田空港では国際線新旅客ターミナルがオープンするに先立ち、国内線の第2旅客ターミナルも大幅な増築が行われた。第2旅客ターミナルでは全日空の航空便をはじめ、エアドゥ、スカイネットアジア、スターフライヤーも発着している。
増築されたのは、地下1階から地上6階まで約5万平方メートル。出発ロビー、到着ロビーが約2倍の面積となった。総工事費は約190億円、飲食17店、物販・サービス19店が新規開業した。オープン日は10月13日。
国内線第2ターミナルも国際化に向け増床リニューアル。
コンセプトは「The Art of Hospitality〜おもてなしをアートの領域に」。こちらも従来の空港の商業施設にはなかった斬新な発想が見られる。
特に見所はLED照明約4000個が床に埋め込まれた屋上展望デッキ「星屑のステージ」と、3階の約260個のタイプの違った椅子やテーブルを並べた「UPPER DECK TOKYO」である。デザイン監修は「恋する建築」をキャッチフレーズとする建築家の中村拓志氏。
「星屑のステージ」は5階屋上に設けられ、夜は青・緑・赤と3色のLED照明が点滅することによって床が発光して浮遊感あるロマンチックな風景になる。デートコースとして人気が出そうだ。LEDの電源は太陽電池なので雨の日などは光らないこともある。
夜の「星屑のステージ」。
「星屑のステージ」に面してイタリアン「CASTELMOLA(カステルモーラ)」、三本コーヒーが運営するカフェ「シーニックカフェ」と2つの飲食店があるが、特筆すべきは「CASTELMOLA」のほうである。
「CASTELMOLA」というとイタリア・シチリア島の山頂にあって海まで見渡せる絶景の古い村を思い起こすが、ビルの頂上にあって晴れた日は空港の先の東京湾まで見渡せる立地はその名を付けるに値する。
「カステルモーラ」 店内。
プロデュースは山本秀正シェフ。元暴走族でイタリア、フランスで修業を積んだ後「リッツカールトン
ワシントンD.C.」の総料理長、「マンダリンオリエンタル東京」初代総料理長などを務め、レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ、クリントンと3代にわたる米国大統領の舌をもうならせたという人物である。
山本シェフの店なら丸の内ブリックスクエア「アンティーブ」などを思い起こすが、「CASTELMOLA」も炭火を使った専用のピッツァ窯とグリル料理を売りにした、良い素材の本格的イタリアンをリーズナブルな価格で提供する店である。というより、「アンティーブ」よりもさらにカジュアルな店だ。顧客単価は3000円ほど。席数は64席。
店舗はガラス張りになっており、発着する飛行機、空と海、夜は発光するLEDといった景観を楽しみながら食事ができる。
ランチは、ピッツァ窯で焼いた生地にグリルで焼いたソーセージを挟んだ「ピッツァバーガー」(1500円)が人気。また、前菜盛り合わせ、パスタかピッツァを各3種類から1つ選んで本日のデザート、コーヒーか紅茶が付くセットメニュー(2000円)もある。
夜はアラカルトメニューになるが、何人かで料理を取り分けるスタイルになっている。
ピッツァ(1400〜2400円)はイカ、エビ、キノコ、モッツァレッラチーズと、海と山の幸が融合した「マーレ エ モンテ」、シラスを乗せた「ビアンケッティ」がお勧め。
ピッツァ「マーレ エ モンテ」。
パスタ(1200〜1600円)は、炭火で焼いたベーコンを乗せた「炭焼き職人風カルボナーラ」のオーダーが寒くなってきて増えている。「海鮮たっぷりのタリアテッレ
カルパッチョ仕立て」は紙に包んで提供され、開けると香ばしい魚介の匂いが食欲をそそる。
「炭焼き職人風カルボナーラ」。
一品料理では「福島やまと豚のグリル白インゲン豆を添えて」(1600円)がじっくりと時間をかけて食べる人には好評だ。
ピッツァは400℃という高温の窯で3分で焼き上がるから、思ったより早く料理が出てくる。時間があまり取れない時と取れる時で使い分けが可能である。
ボトルワインは3000〜5000円の値段だが、1日に10本ほど出るので出数は良いほうではないだろうか。
鍵田直哉マネージャーは「空港の中の店でも本格的にチャコールを生かして提供していますしドルチェもこだわっています。夜7時半を過ぎてからは空港で働く人たちが多くなり、男性率が高くなってお酒も出ますよ」と、空港でも路面店の感覚で営業していて空港勤務者の支持も高いと自信をのぞかせた。
今後はテイクアウトで外のベンチで食べられるようにしていくとのことだが、今は顧客が途切れないので忙しくてそこまで手が回らないようである。
3階の「UPPER DECK TOKYO」は、椅子やテーブルのマニアは是非行くべき空間である。2階の出発フロアーの上に回廊のようにつくられた飲食フロアーに実にさまざまなタイプの椅子、テーブルが並んでいて圧巻である。
デザインにあたった中村拓志氏は「異なるキャラの椅子たちは固定化されていないので、来るたびに少し動いたり角度が変わったりして、都心の雑踏を見ているようなにぎやかさがあります。それにより、東京の空気感を伝えたいと思ったのです」(フリーペーパー「UPPER DECK TOKYO JOURNAL」より)と意図を語っている。
アッパーデッキトーキョー このあたりは雰囲気がモダン。
アッパーデッキトーキョー ポップなテーブルと椅子。
アッパーデッキトーキョー 自由な使い方ができる空間。
ハンモックのような椅子があったり、ポップなデザインの椅子があったりで顧客は各自思い思いのくつろぎ方をしているが、実はこのゾーンにある8店は少々のイートインは設けてあるが、基本的にテイクアウトの店で、買ったものを好きなテーブルと椅子で食べてもらう趣旨になっている。
一種のフードコートとも言えるが、もっと用途は広く考えられる。例えば空港で待ち合わせてここで簡単な会議を開いてもいいし、出発までの時間を利用してノート型パソコンを持ち込んで仕事をしてもいい。食堂、喫茶、ラウンジ、会議室、休憩所と自由に使える空間の提案なのである。
テイクアウト型レストラン9店の内訳を見ると、ワインバー「ワールドワインバー」、イタリアンカフェ「カフェコッコ」、トルコ料理「ミセスイスタンブル」、セルフ讃岐うどん「般若林」、寿司「すし勘六」、スリランカレストラン「コートロッジ」、ベトナム料理「ベトナムチョ(市場)」、中華料理「チャイナタウン デリ」、韓国料理「ミス コリア」、といったように各国料理がそろっている。
このうち「ワールドワインバー」はドイツで300年の歴史を持つ、ドイツ3大産地の1つであるナーエにある蔵元「ピーロート」のアンテナショップとしての位置づけ。日本に上陸して40年になるがレストラン、ホテルを中心に販売していて、酒屋に卸していないので、一般市場ではほとんど見かけない。
「ワールドワインバー」。
「ワールドワインバー」ではワインの販売も行う。
今回は日本初のショップで、ワインバーとしてグラス売り(400円〜)で販売し、甘口でフルーティー、女性やお酒に強くない人でも飲みやすい味わいを広く知ってもらおうというわけだ。グラス売りならば、ボトルで何万とする高級ワインも安く提供できるので、ピーロートに親しんでもらうきっかけになる。
フードは持ち帰りで、「チーズ盛り合わせ」(780円)、「生ハム&フルーツ」(920円)、「スモークサーモン&フルーツ」(850円)、「ソーセージの盛り合わせ」(800円)などがある。
「チーズ盛り合わせ」(780円)。
お酒とおつまみだけでなく、コーヒー(280円)、紅茶、サンドイッチ、バスタ(750〜850円)も提供し喫茶的な飲食需要に対応。ドイツビールも出す。
ワインショップも兼ねているが、ワインセラーにあるのは基本的に買い付けた他社製品であり、ピーロート製品はお店で申し込んでもらって後日配送している。
席数は5席だがすぐ隣の共有スペースも含めればもっとある。
「ちょっとした空き時間にさっと飲んでいかれる人が多いです。このまま定着していってくれれば」と西川康昭アシスタントマネージャーは、ワインの普及を空港から促していく決意だ。
そのほかにも「ミセスイスタンブル」ではトルコ名物シシケバブやのびーるアイスクリームを販売、「コートロッジ」ではスパイスとココナッツミルクが絶妙に融合したスリランカカレーの魅力を発信、「ベトナムチョ」はフォー専門店、「チャイナタウンデリ」ではアツアツのフカヒレメニューや点心も提供と、グルメの旅が体験できる。
トルコ料理「ミセスイスタンブル」。
「ミセスイスタンブル」 ドネルケバブ(牛肉回転焼肉)をアレンジしたドネル丼(780円)。
スリランカ料理「コートロッジ」。
フォー専門店「ベトナムチョ」。
「ベトナムチョ」のメニュー。
これについて日本空港ビルディング執行役員事業開発・運営本部統括部長の河合誠氏は、「空港には家族連れ、団体客などさまざまなお客様が訪れますが、なかなか全員が同じ料理を食べたいとならないです。そこで複数の人がいろんな好きなものを持ち寄って食べる、自由なテイクアウト形式にしてみました。容器も紙製で提供しています。飛行機の中では長い時間ずっと同じ姿勢で乗っていないといけませんから、椅子やテーブルは自由に体を解放してあげるご提案です」と説明している。
東京らしく、食事もおいしく、デザインもいい空間を追求した結果で、屋上のLEDを敷き詰めた空間も、羽田空港を多くの人に好きになってもらって、飛行機に乗らなくてもさまざまな機会に親しく訪れる場所にしていきたいといった意図が表れている。
「UPPER DECK TOKYO」の奥には元首相・細川護熙氏が理事長を務める「永青文庫」の常設美術館で700年の歴史を持つ細川家の至宝を鑑賞できる「Discovery
Museum」がある。。
このほか地下1階のピアノが設置してあるカフェが集まるゾーンもデザインは素晴らしいが、「一刻も早くチェックインしたい人が多いのか、意外に苦戦している」(河合氏)という。
「ニーズを正確に汲み取ってさらに良い空港施設にしていきたい」(同)と河合氏は増床部分の明暗が分かれる中、前を向いている。