フードリンクレポート


空弁、空スイーツ、さらに空パン。空グルメがデパ地下化。
〜羽田空港のダイニング、新国際線ビル開業で話題沸騰〜(6−5)

2010.11.9
10月21日にオープンした羽田空港新国際線旅客ターミナル。これによって世界11ヶ国・地域の17都市が24時間営業で定期便で結ばれた。東京都心の浜松町と品川から最短13分でアクセスする新国際線ターミナルのインパクトは大きく、初日より大きな反響を呼んでいる。商業施設も江戸の町並みを模した「江戸小路」や空港初のプラネタリウムカフェなどを擁し、海外からの顧客、もちろん日本人の飛行機に乗らない空港見学者にも喜ばれるように設計されている。東京の世界への窓口、羽田のダイニングの今を取材した。6回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


空弁の火付け役、みち子シリーズ。04年初頭には1日に1000個を売る爆発的ヒット。

空弁、空スイーツ、さらに空パン。空グルメがデパ地下化

 そもそも空港のグルメが注目される切っ掛けは空弁のヒットであった。

 2002年12月にジャルックスが、焼き鯖寿司「みち子がお届けする若狭の浜焼き鯖寿司」(6個入り900円)を羽田空港の売店「ブルースカイ」で売り出したところ、口コミでそのおいしさが評判となり04年初頭には1日に1000個を売る爆発的ヒットとなった。


売店「ブルースカイ」。

 1日に40個売れれば大ヒットになる空弁だから、その売れ行きがいかに驚異的だったかが知られよう。羽田界隈に勤めるOLがランチ時に買出しにやってきて大量購入する風景も見受けられた。機内食廃止という背景はあったが、元々フライトアテンダントから人気が出たので、女性に受ける要素があった。

 さらには百貨店の駅弁大会に進出して、並み居る強豪を圧倒してしまった。そして全国の空港で地方色豊かな空弁が開発されることなり、今日に至っている。

 同商品を製造している、海の恵み(本社・福井県永平寺町)では、「もうブームの時のようなことはなくて落ちついてきています。30代以上の年齢の方に人気です。1日に100個くらい売れています」とのことだから、販売量がピーク時の10分の1とはいえど、今も空弁の代名詞に変わりない。

 矢部みち子社長による「みち子ブランド」は現在多品種化しており、羽田では焼き鯖寿司のほかに「ズワイの蟹寿司」も販売している。関空と伊丹でも焼き鯖寿司と蟹寿司を販売。成田では「穴子のお寿司」を売っているという。

 自分で飛行機に乗って食べるだけでなく、お土産として喜ばれているそうだ。

 多品種化しているのは「みち子ブランド」だけではなく、ビジネスチャンスとばかりに各社がこぞって参入したので、今は空港内のいろんな売店で多種多様な空弁が売られるようになった。


空弁の数々、百花繚乱。

「ブルースカイ」においても約40種類の空弁が売られているとのこと。中でも築地竹若の華やかさがある「華ちらし」、珍しい「まぐろカツ重」などは人気が高いそうだ。竹若は立喰酒場「buri」に続き空弁でもヒットを飛ばしたようだ。


築地竹若 華ちらし。


築地竹若 華ちらし、開くと華やか。

 ジャルックスではJALの機内誌「スカイワード」にて毎月推奨する空弁を1品紹介しており、その効果で月に1000万円以上売るものもあるそうだ。

 さらに、羽田空港の「ブルースカイ」10店限定で、11月1日から30日まで、第1回空弁まつりを開催中。これは対象商品と「アサヒ 十六茶」を一緒に購入すると50円引きになる、コンビニで普及しているような割引キャンペーン。対象商品は前出「まぐろカツ重」、さぼてん「カツサンド」など5品。

 さて、国内線第2ターミナルにある「空弁工房」では、「関さば棒寿司」、「関あじ棒寿司」(共に1575円)が売れている。こちらは北九州市にある、しゃり工房みゆきが展開するもので、女性社長の三林みゆき氏が前面に出ている。子供の頃からなじんできた地域の食を伝えたいという思いが綴られたホームページを見ると、福井のみち子社長とオーバーラップされてくるので興味深い。


みち子社長に対抗意識を燃やす?みゆき社長の棒寿司シリーズ。

「おこわ米八」の米八グループでは羽田空港内各所で空弁を売っているが、羽田空港限定販売の5色のおこわ入り幕の内弁当「米八味吉祥」(1300円)が一番の売れ筋だ。
 続いて5色のおこわのみの「五色おこわ」(550円)、「焼肉重」(1100円)がベスト3とのこと。


「米八味吉祥」(1300円)。

 しかし、国際線ターミナルに限っては3つのおこわ入り「幕の内弁当」(880円)が最もよく売れ、「米八味吉祥」、「五色おこわ」の順だという。

 これについて米八グループは「国内線のお客様はを東京圏の米八をよく知っている人が多く、米八味吉祥が羽田空港限定品であることから、よく到着後にお買い求めになるようです。それに対して国際線は観光客が中心だから、価格で幕の内弁当のほうが売れるのではないでしょうか」と分析していた。

 従来空弁のヒットは、機内の折りたたみ式テーブルにおける小さめのサイズが、小腹を満たしたい女性に受けたからだと言われてきたが、米八の弁当はむしろ大き目のサイズが多い。これもかなり売れるということは、空弁のニーズ多様化を示すものだと思う。

 空弁が激戦を繰り広げる中、ジャルックスは新たな需要開拓に「空パン〜空港美食倶楽部」を今年7月より販売を開始している。

 これは元祖空弁、焼き鯖寿司の大ヒットに学び、小腹を満たすフードとして考案されたもので、がっつり腹に溜まる米八のような空弁の駅弁化の方向性とは間逆な提案である。


ジャルックスの売店ブルースカイでは焼き鯖寿司に続き、空パンを新しく推している。

 元々コーヒーと一緒に食べられるものをとのユーザーの声は多く、コーヒーとの相性がいいパンにターゲットを絞った。

 機内で食べやすくかつ女性の視点で開発されており、サイズは小さめ、女性が大口でかぶりつくイメージはいかがなものかということで、ハンバーガーやホットドックは避けおしゃれなサンドイッチになった。

 イメージとしては、国内線第1ターミナルにもある「デーン&デルーカ」の高質感あるサンドイッチなのだそうだ。

「空パン」の食材は胚芽入りプチパン、ツナひじきなどへルシー志向、エコ志向で、クロワッサンに挟んだ肉もパストラミビーフなどと、コンビニでは見かけない高級で肉々しくないものを選んでいる。

 現在ボックスサンド「ミックス」、「BLT&ツナひじき」(各460円)、「パストラミビーフ&明太子ポテト」、「黒豚メンチカツ」(各490円)及び、胚芽入りプチパンのサンドが「てりやきチキン&たまごサラダ」と「ベーコンエッグ&エビカツ」(各350円)の計6種類販売されている「空パン」だが、顧客の反応を見て拡大したい意向だ。


ジャルックスの空パン一番人気、ボックスサンドミックス。


ジャルックスの空パン、胚芽入りプチパンのてりやきチキン&たまごサラダ。

 また、第2旅客ターミナルのベーカリーカフェ「モンタボー」では、飛行機の焼印が入ったアンパンタイプの空パンを売り出している。1個200円で、紅茶ブルーベリークリーム、生キャラメルカスタード、白玉あんぱん、栗あんぱんと4種類。こだわったかわいらしい感じの羽田空港限定商品なので、人気が出そうだ。


第2ターミナル モンタボーの空パン。

 2004年よりやはりジャルックスが提案した「空スイーツ」は空弁と同様キャビンアテンダントの口コミからフェスティバロ(本社・鹿児島県鹿屋市)の「唐芋レアケーキ」がヒット。「唐芋レアケーキ」では新商品として、鹿児島県大隈半島の自営農場で自然栽培している紫芋から厳選した3種をブレンドした羽田空港限定商品、「東京ラブリーモンブラン」(10個入り1800円)を投入してさらなるファン獲得を狙っている。


唐芋レアケーキ、フェスティバロラブリー(右)と東京ラブリーモンブラン(左)。

 空スイーツはジャルックスの売店でも店ごとに違い、何百種類もあるとのことだが、羽田空港全体で見るともっとすごい。あらゆる販売スペースで全国的に手に入りにくい商品、手に入ってもデパートなどで非常に人気の商品が目白押しで、お土産に何を買おうかどれも甲乙付けがたく目がくらむほどだ。

 その中でもダントツのヒットと思えるものが2つある。

 1つは、「堂島ロール」のモンシュシュが第2ターミナル増床部時計台5番前に新規オープンした「ルシェル モンシュシュ」で羽田空港限定で販売している“フランボワーズの堂島ロール”。連日午前中に売切れてしまうので、午後に空港に行った人は実物を見たことがないという幻の商品化している。


羽田空港限定の堂島ロール、フランボワーズの風味。

 もう1つは、「東京ばな奈」で知られるグレープストーンが販売する「シュガーバターの木」。全粒粉とライ麦のシリアルボードにバターをふんだんに乗せシュガーをまぶし、こんがりと焼き上げた焼き菓子だ。第1と第2ターミナルに催事出店とのことだが、両店とも行列が途切れず売っても売っても人が並んでいる状況だ。


シュガーバターの木、いつも行列が絶えない。

 このスイーツ天国でそこまで売るとなると、日本のスイーツの頂点に位置するのは間違いないだろう。

 いずれにしても、空弁、空スイーツといずれもジャルックスが仕掛け、空港内の他の業者も負けじと強化をはかった結果、羽田空港は短期間で弁当、菓子ともにデパチカに勝るとも劣らない発信力を持つようになった。

 羽田空港でヒットして全国区になった 焼き鯖寿司などもある。最近は限定商品で希少価値を訴え顧客を羽田まで来させる戦略も取り始めた。

 全国の旨いものを東京に紹介する窓口になっている羽田空港だが、これに国際色が加わってどうこれから変化していくのか、楽しみだ。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年11月1日執筆