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ロードショープロジェクトでは中村悌二氏、松村厚久氏らを監督に起用。
〜新業態開発に、商品拡販に。広がる外食の企業コラボ〜(6−2)

2011.3.1
外食の経営手法として全く別の企業と企業、店舗と店舗が、協力し合って1つの店を立ち上げたり、1つの店の中で別の店の商品を売ったりするケースを、ちょくちょく見かけるようになった。知恵を出し合い、お互いの長所を活かし、欠点を補い合う。外食同士のコラボの実情を取材してみた。6回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


三船敏郎の功績を後世に伝えたいと決意も新たな、東京レストランツファクトリーの渡邉仁社長。

ロードショープロジェクトでは中村悌二氏、松村厚久氏らを監督に起用

 東京レストランツファクトリーでは、レストランづくりを映画の製作にたとえた「ロードショープロジェクト」という独自の戦略で、新業態を次々に開発。

 カゲン社長・中村悌二氏、ダイヤモンドダイニング社長・松村厚久氏、エムファクトリー社長・長谷川勉氏などといった、外食の最前線で活躍する鬼才を監督に起用し、ブランドをつくり上げている。

 第1弾の作品は、ピッツァ食べ放題カジュアルレストラン「サンズ・キャッスル」(監督:ミュープランニングアンドオペレーターズ)で2009年2月に世田谷区の祖師ヶ谷大蔵に出店。

 以降、男っぽい粋な和食「赤坂 仁屋」(監督:中村悌二)、九州料理居酒屋「神屋流 博多道場」(監督:ダイヤモンドダイニング・松村厚久withチームファンタジー)、名優三船敏郎の世界を表現した「三船」(監督:中村悌二)、女将のおもてなしを示す和食「御曹司 きよやす邸 鎌倉」(監督:女将塾)、「名代讃岐うどん 三四郎」(監督:尾田原慎二)、「新鮮焼肉 相模原精肉センター」(監督:長谷川勉)と、計7業態を出店している。

 自社の総料理長兼商品開発部部長の尾田原氏を監督に起用した「名代讃岐うどん 三四郎」以外は、すべて外部より監督を招いており、外食企業同士のコラボレーションを実現している。

 東京レストランツファクトリーの全19店中14店が「ロードショープロジェクト」に関連しており、業態開発のプロジェクトとして成果が上がっている。

 そのうち複数の店舗を展開してる「三船」は六本木の1号店のほか、人形町、神田、新宿と計4店。人形町店と神田店は大衆的なミドルゾーンのご馳走居酒屋で、顧客単価は3000円ほど。リッチゾーンの料理屋である六本木店は7000円くらいで、価格帯が異なる。新宿店は2010年9月のリニューアル時に長谷川氏が助監督として入り、ホルモンを中心とした肉焼居酒屋として営業している。


「三船」六本木店 外観。

 また、「神屋流 博多道場」は計6店がチェーン化されている。全てミドルゾーンの店で、直営が田町、浅草橋、柏の3店。ライセンス店が新宿西口と香港の2店。海外にまで展開されているのは驚きだ。 


「神屋流_博多道場」田町店。

 このように短期間に複数の店舗を展開した成功例もあり、完成度の高い業態をつくり、ビジネスとして成長させる新しい手法として注目される。

 では、なぜ「ロードショープロジェクト」を始めたのか。東京レストランツファクトリーの渡邉仁社長は次のように語る。

「外食というのは人気商売です。末長く繁盛するお店は、お店づくりのエッセンス、言わば“人気の素”がしっかりとあって、その“人気の素”の完成度が非常に高いです。新しくお店を出す時に、“人気の素”を見よう見真似でベンチマークして模倣するだけでは、多額の投資を要する業態開発にはリスクが高すぎると考えました。“人気の素”にはお店づくりにかかわった人たちのいろんな知恵がミックスされており、実は簡単に真似できるものではないからです」。

 外食に限らずどのような業種でも成功事例に学び、そのエッセンスを取り入れてビジネスを前進させるのは経営の常套手段だ。

 しかし、外食の場合、1つの業態を立ち上げるのにクリエーターたちの知恵が結集されていて、その人しかできない特別なノウハウが入っているケースも多々ある。単にベンチマークして外見上同じ店ができたとしても特別なノウハウが欠落すると成功するとは限らず、出費に見合った成果が得られる確率は高くないと渡邉社長は考えた。

「ですからリスク回避のため、“人気の素”を一からつくり上げたご本人にお店づくりの監督になっていただき、ディレクションをお願いしています。“人気の素”を肌で感じるとともに、運営者である自分たちの強みと想いをそこに足すことで、成功する確率は格段にアップします。また、自分の趣味趣向で盲目的に突っ走るのではなくて、マーケットで支持されている時代性に合致した、“人気の素”こそを核にして確実性ある業態開発をしたいと考えています」。

 渡邉社長によればオープンまでの責任を持つのが監督。運営会社はつくった店を変化、成長させて末長い繁盛店にする、一番大事な役割を担っているとしている。監督たちとの共同作業の中で、個々の監督にしかできないノウハウに対するたくさんの新しい気づきがあり、会社として非常に力がついてきたと喜んでいる。

 たとえば、長谷川氏とのコラボレーション「新鮮焼肉 相模原精肉センター」では、1つ1つの肉の部位で味付けの仕方が全部異なっていることに驚嘆した。「日本再生酒場」のヒットで立ち飲みブームの原点になった、肉の職人たちのホルモンを本当においしく食べるための工程の凄さに感動したという。


「新鮮焼肉 相模原精肉センター」。相模原市中央区の西端・田名地区のロードサイドにある。


「新鮮焼肉 相模原精肉センター」店内。

「飲んだりゴルフに行ったりして話を聞いただけではわからない、一緒に仕事をして初めてわかるようないろんなことを学ばせてもらっています」と、渡邉社長は監督たちとの共同作業を楽しんでいる。

 監督が責任を持つ範囲は、店舗ごとにまちまちで、報酬も一定ではないそうだ。「神屋流 博多道場」では、監督の ダイヤモンドダイニング・松村氏とチームファンタジーがかかわったのは、世界観の構築とメニューの書き方、販促物のデザインだけだそうだ。

 しかしその効果は抜群で、ダイヤモンドダイニングの情報収集力、人の心を高揚させる店づくりを見ていて、10店から15店は一気に増やせると確信が持てたとのこと。実際、オープンしてからも好調で、2年で海外を含め6店にまで増えた。

 渡邉社長にとって、六本木の「三船」は構想からオープンまで2年近くもかかったプロジェクトで、特に感慨が深い。

「“世界のミフネ”と呼ばれた三船敏郎さんの名前と功績を後世に残せないかと企画したのですが、三船プロダクション、黒澤プロ、東宝と権利が分かれていて、交渉がたいへんでした。中村監督には何度も交渉の席に足を運んでいただきました」。

 店舗は黒澤明監督・三船敏郎主演の「用心棒」の世界観を表現。「椿三十郎」に出てくる宿場町の本陣を再現した空間に、三船敏郎本人直筆の「勇猛精進」と書かれた書が掲げられ、壁の上部には三船敏郎が演じた役名が木の札でずらりと並べられている。トイレに入れば、三船敏郎の映画出演シーンの写真が見れるサプライズもある。


六本木「三船」店内。空間は映画「椿三十郎」の本陣のシーンを再現。


六本木「三船」、店の奥には三船敏郎直筆の書が掲げられている。


壁に掛けてある木の札は、三船敏郎が演じた役。


トイレに入れば、三船敏郎出演の名シーンが。

 また、三船敏郎の肖像権を「椿三十郎」の1シーンより許諾を受けている。

 時代劇のセットのような演出で、三船敏郎の世界に浸ることができ、日本映画のオールドファンのみならず、一般の映画ファン、ファミリー、外国人にも人気が高い。接待の需要も多い。年配の上品な三船ファンのご婦人がふらりと一人で訪れるようなこともある店で、居酒屋というよりも博物館のごとき文化施設の趣がある店だ。席数は68席。


「三船」六本木店 カウンター。

 なお、空間演出は際コーポレーションの関連会社、ファーストキワ・プランニングが担当しており、中島武社長も店づくりに参加している。中村氏は三船敏郎が出演した映画は全て鑑賞、子息の三船史郎氏より生前の人柄についてレクチャーも受けたとのことで、“世界のミフネ”の名に恥じぬ店をという意気込みが伝わってくる。

 しかもサッポロビールと交渉して、三船が出演して評判になったCM「男は黙ってサッポロビール」のキャッチコピーが書かれたグラスの使用を許可されている。これは「三船」
だけに特別に許された権利。


三船敏郎だからこそ説得力があった名CMコピー「男は黙ってサッポロビール」。

 料理もまた、三船らしい無骨な男らしさをいかに表現するか、ミーティングを重ねつつ形になった。

 特に豪快な大串はまさに“武士料理”と言えるもので、炭火でじっくりと焼いた黒豚バラ、軟骨のゴツゴツした食感の鶏つくね照焼、大ぶりな帆立を醤油を付けて焼いた帆立の磯辺串、昔ながらのハムカツ、特製味噌の田楽でいただくほくほく里芋などがある。
 日本酒では「七人の侍」、「羅生門」といった三船主演映画のタイトルと重なる銘柄のお酒も提供されている。


「三船」を代表する武士料理、大串。


「三船」朴葉焼き。

 非常に多くの人の協力のもとで、中村監督の指揮の下まさに映画のワンシーンを撮るような形で店舗としてオープンできた六本木「三船」は、「ロードショープロジェクト」ならではの代表作となった。

 東京レストランツファクトリーでは、監督と協業する店づくりの醍醐味を、今後は中央では無名でも地方でしっかりと仕事をしている名店とも行っていく計画がある。将来的に新しい才能ある飲食ディレクターを発掘できるプロジェクトになることを目指している。
 

【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2011年2月24日執筆