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・花月チェーンがせたが屋、けいすけのラーメンを出した理由
「らあめん花月嵐」では3ヶ月の期間限定で、「せたが屋」、「二代目海老そばけいすけ」などといった別のラーメン店とコラボレーション。ライバルであるはずの他のラーメン店の味を再現し、販売してきた。
普通、ラーメン屋というものは他店の味に限りなく似せたものはつくっても、他店の商品そのものをつくって売ろうとまでは思わないものだ。どうしてこのような企画を行っているのか。

「らあめん花月嵐」荻窪西口店。常時2、3の期間限定ラーメンがあり今まで79作に上る。
きっかけは2006年に発売した、カリスマ的人気を誇る「ラーメン二郎」にインスパイアされた「ラーメン太郎」。これが思わぬ反響を呼び、特に地方の顧客から「こんなラーメンが東京には本当に存在しているんだ。ものすごく斬新だ」と驚きを持って迎えられた。
「テレビや雑誌で見たことはあっても、地方にいればなかなか食べる機会がなかったというお声をよく聞きました。らあめん花月嵐は全国チェーンで北海道以外の各都府県にお店があって、ファミリーのお客様が多いです。それに対してラーメン二郎系は基本カウンターだけのお店ですし、東京に来てまでお子様を連れて並んでまで食べることはできません。ラーメン二郎に限らず、東京の名店のラーメンをもっと出してくれと多くのリクエストがありました」と、「らあめん花月嵐」を運営するグロービート・ジャパンの企画制作部広報宣伝担当の鈴木力氏は当時を振り返る。
「らあめん花月嵐」は全国に240店強あり、個店が強いラーメンでは数少ない全国チェーンの1つ。地方ではロードサイドやショッピングセンターのフードコートの店舗も多く、ディープなラーメンファンよりもファミリー、フードコートでは奥様方に支えられている。
そこでファンサービスの一環として顧客の要望にこたえ、期間限定ラーメンで東京の名店の味を再現しようとなった。
東京のラーメン文化を地方に広めるといった趣旨で賛同を募り、今までに「ちゃぶ屋」店主森住康二原案「柳麺えびす屋」、武蔵境「きら星」店主星野能宏監修「ギンギラ星」、「せたが屋」店主前島司直伝「せたが屋なつがお」、「二代目海老そばけいすけ」店主竹田敬介直伝「海老そばけいすけ」と、4店の名店とのコラボレーションを実現している。

「せたが屋」とのコラボ。

「ちゃぶ屋」とのコラボ。

「けいすけ」とのコラボ。
他店とのコラボラーメンの場合はレシピを公開してもらい、店に何度通ってもわからない味の秘訣も全て教えてもらって、最終的に味も確認してもらうといった、全面バックアップ体制を敷いている。
もちろん、どの店も企画に賛同するわけではないので、交渉して断られるケースもあるが、実現したものは全部そういった工程を経ている。たとえば「きら星」独特の濃厚感はいくら「らあめん花月嵐」の開発部隊がその道のプロだといっても、そうやすやすと真似られるものではない。そこで本物の元祖にアドバイスを仰いでいる。
「商品開発は毎回驚きの連続です。こんなラーメンのつくり方もあったのかと、刺激を受けています。セントラルキッチンで全国のお店の味のブレをなくしていますし、どこのラーメンかをはっきり出して遊びでないことを認めてもらっています」と前出・鈴木氏。外部に漏らしてはいけない機密事項はきちんと取り交わしているという。
他店再現ラーメンは顧客からも好評で、「せたが屋」、「けいすけ」あたりは複数のブランドを持っているので第2弾も計画されているとのこと。「ちゃぶ屋」の「柳麺えびす屋」は08年と09年に2回登場している。
グロービート・ジャパンとしては森住康二氏の「ちゃぶ屋」とは浅からぬ縁があり、「ちゃぶ屋とんこつらぁ麺 CHABUTON」を06年より事業化し、今まで海外のタイ3店を含めて20店を展開している。これがそもそもの他店とのコラボ、他店の味の追求の原点と言って良いだろう。
では、なぜ他のラーメン屋がレシピまで提供して協力するかというと、自分の店の名前を全国に売るための広告塔と「ラーメン花月嵐」を見ている。現在と次回開催の期間限定ラーメンは、店内にポスターを張り出すし、開催期間中実際に味わってももらえる。
「ラーメン花月嵐」で食べてその店の味が好きになり、東京に来た時に本店に寄るといった相乗効果も出ているそうだ。東京のラーメンは次々に新しいブームが来るので、どんな繁盛店でもうかうかしていると時代に取り残されてしまう。過当競争の中で、全国チェーンと東京ローカルの店が共闘を組む、新しい形のラーメンビジネスが生まれたということだろうか。
今年1月まで販売した「津軽らあめんじょっぱり煮干」は、ラーメン評論家の石山勇人氏の企画で石山氏の出身地である青森のご当地ラーメン「津軽ラーメン」発信を試みた。東北新幹線の新青森延伸効果もあり、10〜15万食の目標が30万食も出るヒットになった。特に西日本での販売数の多さが目立った。

ラーメン評論家の石山勇人氏とのコラボ。
青森の十数店を食べ歩いて試作を繰り返し、石山氏のお墨付きをもらって発売した。生醤油ベースのちょっと煮干の苦味がきいたラーメンで、地元の名店「長尾中華そば」インスパイアとなっている。
また、今年2月まで販売していた「僕の味噌ラーメン」は“イタリアンの貴公子”と呼ばれる代官山「タツヤ・カワゴエ」川越達也シェフとコラボ。味噌スープをベースにボロネーゼバターを溶かしながら食べる、独特のラーメンを提供した。隠し味として生クリームが入り、イタリアンテイストの味噌ラーメンに仕上がった。
これはテレビ朝日系「お願い! ランキング」で知己を得たことから始まった企画で、川越氏が味噌ラーメン好きであるのでオファーした。
今年3月からは京都「男前豆腐店」とコラボした「男前純豆腐(スンドゥブ)ラーメン しんご」を販売する。大豆の風味を生かしたものづくりと個性的なパッケージで知られる「男前豆腐店」の豆腐を使って、女性に人気の純豆腐でラーメンを出すので、話題性は十分だ。
このように「らあめん花月嵐」では期間限定ラーメンで、他店のラーメンに限らず、さまざまなコラボ企画を進めている。
期間限定ラーメンを始めたのは2001年だが、力を入れてきたのは05、6年頃。「らあめん花月嵐」は東京豚骨ラーメンブームに乗って150店くらいまで順調に伸びたが、「幸楽苑」、「日高屋」など低価格ラーメンに次第に押され、売り上げが低迷するようになった。そこでディズニーランドのように、常に新しい発見があるリピートしたい魅力あるラーメン屋になると方向転換する中で、戦略的に強化された。
年間10商品を目標に、常に2、3の新作ラーメンのプロジェクトが動いている。1つの新作完成には半年から9ヶ月近く掛かることもある。
今でも看板の「嵐げんこつらあめん」の人気は高く、注文の45〜50%を占める。「らあめん花月嵐」のポリシーとして、東京豚骨ラーメンがメインストリームである店づくりを変えるつもりはない。
しかし、全国チェーンとしてはそれだけでは力不足で、話題性ある期間限定ラーメンを連発。時には他店の味も紹介して、全国的な普及のお手伝いし、お店の情報発信力を高め、ラーメン界のディズニーランドとしての地歩を築こうとしているのである。