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“札”の焼鳥から“小銭”の「丸亀製麺」へ。
~「丸亀製麺」をうどん文化のスタンダードに育てる~(3-2)
粟田貴也氏 株式会社トリドール 代表取締役社長

2011.3.31
2年連続で100店舗以上の出店を続け、既に400店舗以上を数える「丸亀製麺」。そして1000店チェーンを目指す。その発祥は焼鳥店。神戸市内の本社を訪ねて粟田氏にその軌跡を聞いた。3回シリーズ。レポートは安田正明。


「丸亀製麺」 ロードサイド型店。

“札”の焼鳥から“小銭”の「丸亀製麺」へ

 吉野家が牛丼を280円に値下げするなど外食で低価格競争が起きた時、「丸亀製麺」1号店を兵庫県加古川市に出店した。2000年12月。

「低単価メニューがブワーと出て来たんです。父の故郷の香川県で、100~200円のうどんがあったのを思い出した。子供の頃の思い出では感動もあったし、おもしろかった。香川のセルフうどんを持ってきたらおもしろいなと思い立った。で、自分の仮説を検証したくて、金をかけずに1号店を作ったんです。地元の加古川に選挙事務所の空いたところがあったので、大工と一緒に現場で作りました。厨房はリース。入口に製麺機を置いて、店名にも製麺と付けた。コンセプトは今と同じです。」

「焼鳥屋がうどんを始めたんで何も分からず、まずは社員を香川で修行させました。当たった。実際にお客さんがどどっと来た。とはいっても100人来て行列ができても売上は5万円。月に600~700万円。当時は100席の焼鳥を郊外でやって月に1~2千万売っていました。うどんは朝から夜まで働くのに、焼鳥は夜だけで売上が2~3倍になる。小銭と札の違いです。上場しようと思っているのに小銭のビジネス?と思いました。当時、焼鳥は絶好調で全国展開して日本一の焼鳥チェーンになるぞと思っていたんです。」


ファミレス焼鳥「とりどーる」。

 しかし、1997年からの鳥インフルエンザ、2002年の道交法の改正による飲酒運転取締強化でファミレス焼鳥店の展開は厳しくなっていった。

「その時に作ったのが経営理念。1人でも多くの大衆に来てもらえる店にしよう。女性客だけや奇をてらった流行だけで商売をするのは止めよう。大衆性、不変性のある業態で、近所の人に来てもらおうというコンセプトを変えて店を作り直しました。カタカナの“トリドール”を平仮名“とりどーる”に変えたり。時間はかかりましたが、ご近所の方々が来てくれるようになりました。売上は極端に落ち込みましたが、弱みを含んで全国に出るのは許せなかった。大成功が自分の中のセオリー。グロスで儲かったらいいということは嫌い。1店1店が繁盛するのが僕の流儀です。」

 2000年、「丸亀製麺」2号店をロードサイドに出店。自動車用品小売店跡で、一面ガラス張りで目立ったこともあり大当たり。そして03年、兵庫県神戸市のショッピングセンターのフードコートエリアに出店する。

「自分がラッキーだったのはフードコートに巡り合ったこと。この店が空前のヒットです。それまでのフードコートのイメージは安かろう悪かろう。お客さんも期待してない。ただショッピングを楽しみたいので、食には時間もお金もかけてくれない。でも、ここで勝たないといけないと思った。同じじゃ勝てない。こんなところに製麺機をもってこられたら粉が舞って困ると言われました。でも大成功。うどんでいこうと判断しました。」

「丸亀製麺」の主なユニークさは製麺機を店頭に置いた事と、スタッフが着る割烹着。


製麺機が店頭に置かれる。


白い割烹着と三角きんが印象的。

「舌だけでなく美味しさを決める要素はいっぱいあると思います。それを繋いでいくことで美味しさをより表現できる。ストーリーが大事。1本の竿に全部繋がってないと。1杯の讃岐うどんをストーリーと考えたら、カジュアルなユニフォーム来てファーストフードのようになったら違うでしょう。年季の入った方がやった方が美味しい。職人さんのいで立ちで食への真剣さが伝わる。だから割烹着です。『渡る世間は鬼ばかり』(TBSテレビ)の中華『幸楽』のイメージです。三角きんを巻いたお母さんが真面目に真剣にやってる姿が好きです。」

「1杯のうどんを真面目につくる姿勢を表現する時にお母さんやお父さんも年季が入ってる方がいい。若い人よりも人生を語れそうな人がいい。中高年をメインで採用していきながら、着るものは食堂のお母さんをイメージできるような白。派手さも何もなくて、こんなんじゃ人は来ないよと言われました。でも、自分は成功するにはこれしかないと思いましたね。安心して美味しい物を食べられるというブランドの信頼作りです。若い子はダメということではなく、安心してもらうためです。」

「我々の強みは技術。長く働くと成長して向上心が生まれ、辞めることがもったいなく感じてくれる。それが強み。フルオープンキッチンですが、見られる効果が大きい。技が磨かれていく。技術の向上と見られることで気持ちが高ぶって、仕事に対する誇りが出てくる。皆が自己改善して向上心を持ち、店はどんどん良くなっていきます。普通は店が増えると質が落ちますが、ウチは反対にどんどん良くなっています。失敗したことを共有していて飛躍的に良くなりました。」

「集まるパートさんに支えられています。ウチはマニュアルがないですが、人情味のある言葉遣いがいいんです。『あんたはコレにしとき』と言われることは、お客さんは決して厭ではない。それができるのが人生の重み。若い人にはできない、年長者の良さです。」


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき)  2011年3月22日取材