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・頑張る老舗店、“路地裏”の魅力。
今回歩いたのは日本橋高島屋(下記地図内赤色ピン)からコレド室町(黄色ピン)までの中央通り(青線)を中心に、日本橋丸善から東京駅方向に延びるさくら通り(紫線)、それを横切る八重洲仲町通り(緑線)。
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大型商業施設のオープンに注目の集まる日本橋だが、昔からの飲食店も負けていない。むしろこれら小型店舗が日本橋の飲食カルチャーを支えていると言ってもいいだろう。こういった店は、大通りから一本入った細い道沿い、路地裏にあることが多く見逃せない。
まずは日本橋に多い、寿司・そば・天ぷら・うなぎのジャンルに注目して街を歩いてみた。これらは江戸の流れをくむいわゆる老舗だが、実は昼も夜もそこまで値段は張らず(うなぎは別)、50~60代のビジネスマンのランチスポット・飲みスポットとして欠かせない場になっている。

間口が狭く奥と上に延びる伝統的な建物。
日本橋を渡る手前を左に曲がると、“昔からある店”という看板が見えてくる。「寿し貞」は、日本橋に魚河岸があった頃から屋台を営んでいたという老舗だが、ランチは1200円からいただける。

昔懐かしいカウンター風景。昼からビールとつまみを注文し、握りをお好みで注文する重役風の客の姿も。

江戸前限定ランチ寿司。これに鉄火巻き、お椀がついて1200円。

なんとデザートにバナナ!サラダ代わりになのだろう、働く人への心使いがうれしい。
“江戸前寿司”という言葉はよく聞くが、何をもって江戸前とするかは知らない人も多いだろう。ネタはどこまでも赤身が中心、江戸前マストアイテムのコハダが光輝き、肉厚のネタの下には多めのわさびがピリリ。玉子は懐かしい甘さのしっかり味。銀座の高級上品寿司とは一線を画す、江戸の伝統を受け継ぐ味だ。

うなぎの名店「美國屋」。日本橋のうな重は安くても2000円程度。ちょっと高嶺の花。

あなごの「たまゐ」。こちらは「箱めし」1600円~と手が出やすいせいかランチタイムも盛況。
江戸伝統系の蕎麦は、敷居が高い感じがして今まで入ったことがなかったが、今回初チャレンジ。「カレーなんばん」で有名な「日本ばし やぶ久」へ行ってみる。

八重洲仲通りの北側にある。
金曜の18時すぎに行くと、すでにつまみを頼んで一杯やっている人々が。「19時までしか席が空いてないんですが」と店員がすまなそうな顔で席へ案内してくれた。飲み会の予約がことのほか多いようだ。

ビールや焼酎を手に、議論激論中。空いている席もほどなく埋まってしまった。

価格はさほど高くはない。これなら会社帰りに一杯、気軽に寄れる。

季節の天ぷらそば 1400円。冷たい蕎麦が喉越し爽やか。つゆはきりっと濃いめ。
ビジネスマンの飲みスポットは、室町エリアより八重洲エリアに多い。主流はチェーン店の居酒屋、その中に古くからの寿司や蕎麦の店がぽつぽつ。中でも立ち飲み型の店や焼き鳥屋などが非常に繁盛していた。そういったところは“オジサン”だけかと思いきや、若い女性3人くらいが「席、空いてますか?」と訪れる光景も。安い・早い・ボリュームの3原則は、夜にも言えるようだ。

ちょっと人通りが少なくなった室町通りで、びっくりするくらい混んでいた立ち飲み「樽小屋」。
日本酒と魚がおいしそうな店の前でも“オジサン”グループ。

飲み屋が集中する、八重洲仲通り。

木曜の22時も、金曜の18時もどちらも満員だった立ち飲み焼き鳥屋。一人でふらっと入る人もいた。
日本橋の老舗の中で今注目の存在は「にんべん」だろう。日本橋地区の再開発で「コレド室町」の1階に店舗を移転したが、今までとは一風趣を変え、店舗では炊き込みご飯の素やインストタント味噌汁、だしの素などの販売に力を入れ、また店舗横に「日本橋だし場」(DASHI BAR)というだし汁・味噌汁のスタンドを併設している。

11~14時はおむすびや味噌汁のランチメニューを提供、買い物客に混じって利用する営業マンの姿も。

味噌汁は月替わりで3~4種類用意されている。

最近TVで紹介されたせいもあってか、売り場は買い物客が絶えなかった。
「だし場」で、せっかくなら季節のものをと「穂先筍とふきの味噌汁」を注文。一口飲んで驚愕!鰹節をふんだんに使っただしはうまみたっぷりで、家庭や定食屋の味噌汁とは全く別物、レベルが違う。鰹節本来の味とはこんなにすっきりしていて強いのかと驚かされる。ぜひ一度お試しあれ。

穂先筍とふきの味噌汁 350円。たけのこのシャキシャキした食感が抜群。ふきも太く味のよいものを使用している。
ところで、昼にグループで連れ立ってランチに出かけるサラリーマンたちは、さっさと食事を済ませると、必ず喫茶店に行く。これも日本橋ならではの文化らしい。蕎麦屋や定食屋ではコーヒーが出ない、長居できないという物理的な理由と共に、内勤の人にとって昼休みは唯一羽を伸ばす時間であり、また同僚との貴重な情報交換の場でもあるようだ。

ビジネスマンのオアシス「ミカドコーヒー」。この日もランチ帰りのビジネスマンが次々と店内へ。
室町通りにある「ミカドコーヒー」は1948年創業の、日本初のスタンド式コーヒーショップ。スタンド席ならブレンドコーヒー200円という安さ、その味のよさで利用者からの支持は厚い。表通りからはわからないが、裏通りには多くの喫茶店、ドトールなどのコーヒー店があり、ランチタイムはビジネスマンでいっぱいだ。
名物モカソフト スタンド300円、2階着席430円。
暑い日は、かなりの高確率で男性もモカソフトをオーダー!店内で食べる人、手に持ってオフィスに戻る人、さまざまだ。

喫茶店文化は昼だけではない。夜、飲みがえりに喫茶店に寄ることも。八重洲仲通りの「ウィンザー」は深夜まで営業。
頑張っているのは老舗だけではない。隣接する人形町・小伝馬町エリアでも若手によるフレンチレストランやワインバー、古民家を改造したカフェなどのオープンが注目を集めているが、日本橋でもその動きがある。
「ミカドコーヒー」からさらに奥に進んでい、路地を入ると、日本橋とは思えない店構えが出現。ダッチオーブンを使ったイタリアンの店「日本橋 stove」だ。2009年にオープン、産地にこだわった肉、契約農家から取り寄せる有機野菜など素材にこだわったオリジナルなイタリアンを提供している。

重厚な扉、メニュー名で埋め尽くした黒板に期待度アップ。

落ち着いた店内。カウンターも入れて20席。

並ぶのは自家製のフルーツ漬け。
当日の午後に電話予約し、18時半に店に行くとカウンター席に案内された。テーブルはもう予約済らしい。お客の多くが“わざわざ食べに来た”風の、美味しいものにうるさそうな女性連れで、地元のビジネスマンらしき人は見当たらなかった。平日にも関わらず19時半頃までにはすべての席が埋まってしまった。
野菜料理も肉料理も量はたっぷり、そして特に野菜の素材がよい。

ベリーニ700円、自家製漬け込み酒600円

前菜はあめ色玉葱とアンチョビのタルト 600円

たっぷり野菜のバーニャカウダ。このボリュームで1200円!野菜の味が濃く、ソースの味が薄く感じられたほど。

フランス産鴨もも肉のダッチオーブン煮フィレンツェ風 1800円。
デザートもダッチオーブン!焼きリンゴにバニラアイスクリームをたっぷり載せて。
グラスワインは700~900円。飲みやすいカベルネから個性的なスペインワインまで各種取り揃える。
偶然路地を歩いていて見つけた一軒だったが、これはなかなかの掘り出しものだと思う。実際、口コミの評価も高く、人気バロメーターのランチタイムも盛況だった。
よく“新旧の魅力が入り混じった”“古くて新しい”といった表現をするが、日本橋はまさにそれを地で行っている。まだまだ再開発は続き、老舗店でもリニューアル工事をするところが少なくない。変わらないようでいてしっかり時代の流れをキャッチし、時には先を見越してすらいる。そんな印象を受けた。
【取材・執筆】 小長光 あかね(こながみつ あかね) 2011年4月9日執筆
千葉県出身。株式会社リクルートで15年半情報誌の企画・編集に携わる。現在フリーのエディトリアルプランナー&ライターとして仕事、結婚、食、趣味など“普通の人の普通の生活に欠かせない”事柄をテーマに活動中。