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うどん、そば激戦区でがっつり派女子にも支持される「小麦房」
~急成長!渋谷系がっつり麺飯店~(5-2)

2011.6.28
流行に敏感な街、渋谷で近年台頭が著しいのが、ラーメン、うどん、スパゲッティ、丼、チャーハン、カレーなどの単品で勝負する麺飯店。提供時間が早く、メガ盛当たり前のボリューム、かつ既存チェーンにない付加価値の高い商品が特徴。日本型ファストカジュアルの誕生をも予感させる、渋谷系がっつり麺飯店の魅力に迫りたい。5回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


「本家しぶそば」のがっつりメニュー、特盛そば(610円)。3玉でこの値段にがっつり派は納得。

・うどん、そば激戦区でがっつり派女子にも支持される「小麦房」

 「小麦房」は東京では屈指のうどん激戦区、渋谷にあって非チェーンの個店ながら、大きな存在感を放っている。


小麦房 外観

 家賃が坪当たり5万円もざらと高く、流行り廃りでテナントの移り変わりが激しい道玄坂で、営業を始めて8年半。東京の讃岐うどんの代表店と目されるようになった。


内装はカフェ風でおしゃれ感がある。


店内は76席とかなりの席数がある。

 経営者は香川県出身で別途、通信事業も手がけている。どうして渋谷に出店したのかは恐らく渋谷の街が好きだったかららしい。

「当時は渋谷に1杯100円のはなまるうどんができて、讃岐うどんの安さとおいしさが注目されてきていました。小麦房はそれより数ヶ月後にオープンしたのですが、毎日食べても飽きない本格派で無添加の讃岐うどんを提供しようと考えて、香川で2、3ヶ月修業しました」と語るのは竹村聖徳店長。

「小麦房」の価格はかけうどん小1杯190円が最低料金で、「はなまるうどん」ほど激安ではない。しかし、地下にある製麺所で打ち立て無添加の本格派讃岐うどんが、渋谷で食せるとあって程なく人気店となった。


地下1階には製麺所があり、毎日職人が麺を造っている。

 今でこそ“製麺所”をうたう麺類の店は多いが、東京の繁華街のど真ん中で「小麦房」が始めた意義は大きく、東京では元祖製麺所系うどん・そば店と言えよう。こういった革新があるから、渋谷系がっつりは奥が深い。

 同店の讃岐うどんは、香川県宇多津町の洗練された味で行列店となっている「おか泉」より伝授された製法が基になっており、コシがあってもっちりした麺を「もっこし麺」と呼んでいる。

 2種類の小麦粉をブレンドするが、温かいうどんが主流の冬では若干太く、冷しうどんが主流の夏は若干細くといったように、細かく気象条件に合った麺を製造している。粉のブレンドの割合、水の温度を変えるなどの工夫で、一番おいしい状態で提供できるように調整している。そこにうどん職人の技があるわけだ。

 景気の低迷や競合店が増えた影響で、ピーク時に比べると顧客は減ったというが、それでも1日の来店数は7~800人に上る。顧客単価は500円ほどで、かけの小か中に、かき揚げ、ささみ天、各種野菜天などの天ぷらをトッピングする人が多い。天ぷらを2枚、3枚と取る人、あるいはおにぎり、いなり寿司を付ける人もいる。


最初にうどんを注文し受け取って、天ぷら、おにぎりなどを取ってレジで会計する、典型的な讃岐うどんのセルフ式システム。


かけうどん中にささみ天、ちくわ天、なす天をトッピングしてみた。

 天ぷらでは、特にささみ天は生姜醤油に付け置きしたものを揚げており、1日100個以上が売れる。なるべく揚げ立てを出すようにしており、なす天などはサイズも大きく人気が高い。10~15種類ある天ぷらは季節によってラインナップを変え、おにぎりも常時7~8種類、うどんも季節の新作を出すなど、いかに毎日顧客に足を運ばせるかに腐心している。そのかいあって、1日に2回、3回と足を運んでくるコアなファンもいるという。


かつお節、天かす、おろし生姜、ごまなど無料でかけ放題。


うどんあげ無料。

 麺の量は小で200グラム、中で400グラム、大で600グラム、特盛で1キログラムあり、小でも普通のうどん屋では中サイズくらいのボリュームがある。なので、がっつり派にとってありがたい店でもある。ランチは400円からセットがあり、かけ小に牛丼やカレー丼などのミニ丼、さらに天ぷら1個が付く。


小麦房 おしながき

 顧客層は中高生から高齢者までと幅広いが、ランチはサラリーマン、OLが中心。夕方からは大学生が増えてくる。日曜、祝日を除いて早朝5時まで営業しており、早朝はクラブ帰りの若者や夜遅くまで飲んでいたサラリーマン、水商売の人たちなどで賑わう。

 この種の店としては女性の比率が高いのが特徴で、半数くらいを占める。これは内装がシックなカフェ風になっているからで、空間的な居心地も良い。

 予断だが、プライベートでギャル曽根さんが「小麦房」を訪れ、うどん12束とおにぎり10個、天ぷら10枚を時間をかけてゆっくり召し上がって帰ったこともあったそうだ。これは極端としても、女性だからといって小食とは限らず、女性のがっつりもかなりいるのが渋谷である。

 渋谷はうどん激戦区と冒頭に書いたが、「はなまるうどん」が3店、「丸亀製麺」、「楽釜製麺所」、「饂飩の四國」、カレーうどんの「千吉」と乱立気味ですらある。このうち「千吉」以外は皆讃岐うどんで、昨年5月に丸亀が道玄坂に、8月に楽釜が文化村通りに相次いでオープン。対抗してはなまるも今年2月に渋谷西口店を新規オープンと、昨年来激しさを増している。特に小麦房と丸亀は同じ道玄坂で1分と離れておらず、地元の人気店と全国一のチェーンの熾烈な販売競争となっている。」渋谷系がっつりのブームは、このように第2次讃岐うどんブームの盛り上がりとも連携している。


カレーうどんの千吉うどん。道玄坂の上のほうにある。


はなまるうどん渋谷公園通り店は、カフェっぽい内装で女性の取り込みを試みる実験店になっている。


楽釜製麺所は文化村通りにあり、隣は系列の居酒屋金の蔵Jr.


丸亀製麺は道玄坂でも人気店に。

 また、渋谷では近年沖縄料理の店が増えているが、沖縄そばを中心とした新宿の名物店「沖縄食堂やんばる」が、昨年10月渋谷センター街に進出したのも新しい変化だ。2008年10月には渋谷センター街に「沖縄そーきそば はいさい」がオープンしており、これも眼と鼻の先で、地場の店と新宿から進出した店のちょっとした沖縄そば戦争になっている。


沖縄そばやんばるは新宿から進出。

 日本そばでは、渋谷駅には駅の構内の立ち食いそばでは東京の最高峰といった評価も多く聞かれる、「本家しぶそば」が君臨している。元は「二葉」という店名だったが、2008年に再オープンして以来おしゃれ度とがっつり度が増している。店内は黒塗りの椅子、柱、梁に白壁と立ち食いにしては高級感ある内装で、BGMはジャズが流れ、座れる席もあるので女性でも入りやすい。


本家しぶそば。行列が絶えない。

「かけそば」300円と、立ち食いそばにしては少し高めの料金設定ながら、喉越しの良いそば、サクッっと揚げた天ぷらの味の良さ、季節感ある企画メニューもあって、常に行列ができる繁盛店となっている。

 対抗する「名代富士そば」は渋谷エリアに8店もあり、渋谷が発祥の地かつ拠点の位置づけで、駅周辺部をくまなく押さえているので町場の飲食チェーンとしては渋谷最強級である。生そばを使い、かつ丼も売りと単なる立ち食いではなく高い付加価値も備えている。また、銀座が本店の「吉そば」は大盛り無料で、がっつり派の取り込みを狙っている。


富士そばの牙城に挑む吉そば。

 このように渋谷系がっつりは、うどん、そばにおいて、他地域からの進出組を含めてジャンルごとの様々な激しい商戦を誘発している。

 消費者にしてみれば、1000円以内の低料金で、いろんな麺類をお腹いっぱい食べ歩けるB級グルメの宝庫であり、「小麦房」のようにA級に近いこだわりを持った店も多い。しかも提供時間が早いから短時間で食事を済ませられる。東京のサラリーマンに「ランチなら渋谷で」という声が最近増えているのもうなずける。

【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2011年6月25日執筆