・渋谷からエキナカ、SCにも進出した「かにチャーハンの店」。
「かにチャーハンの店」は、東急ハンズ近く宇田川交番から3軒目にオープンして8年になる。チャーハン専門店自体が珍しいが、しかも高級食材と目されているかにが入ったチャーハンを、ワンコインの500円で食せるとあって、人気店となっている。
かにチャーハンの店、外観。
現在は、駅中商業施設「エキュート」の大宮、立川、イオンショッピングセンターの越谷レイクタウン、甲府、名古屋、泉南(大阪府)、奈良、広島、八幡(北九州市)、筑紫野(福岡県)、大牟田(福岡県)にチェーン展開されており、渋谷から全国区へと育ちつつある店だ。
イオンに出店しているうちの3店はFC。また今年3月には、甲府、泉南、大牟田がほぼ同時期にオープンしている。「エキュート」に出店した背景には、「エキュート」のリーシング担当者が渋谷店の常連で、味に惚れ込まれてオファーされたとのこと。
1号店となる渋谷店は23席あり、高校生からシニアまで客層は広いが、土地柄若い人が多い。リピーターの比率が高く、店員と顔なじみとなっている顧客も多いので、注文するメニューが決まっている人の場合は、食券を出す前にチャーハンを作り始めることもあるほどだ。1日に13回転ほどして、顧客の男女比は半々となっている。
かにチャーハンの店、店内
券売機
基本メニュー。券売機で買って注文する。
今でこそ多くの集客があるが、ビルの3階の空中店舗で知名度もなかったので、オープンして1年半ほどは苦しんだ。そのためメニューに大幅な変更を加え、現状のスタイルに変わっていった。たとえば最初は殻付きのかにが半個チャーハンに乗っていたが、食べにくいといった顧客の意見が相次いだので、現在はその提供法は取っていない。
「TVチャンピオン」という番組の「チャーハン王選手権」に店員が出演するなどのPRも行い、徐々に顧客が増えたとのことだ。一旦足を運んだ顧客にとっては、かにチャーハンがこの値段で食べられる満足度は高く、リピーターとして戻ってくるのである。
「かにチャーハンの店」の母体となっているのは、青山で今年18年目を迎える居酒屋「蟹漁師の店」で、和・洋(イタリアン、フレンチ、トルコなど)・中のかに料理を中心とした海鮮メニューを追求してきた。各国料理の専門のシェフがかにを素材に腕をふるっている。
そうした中で、事業を拡大していくには単品の商売も必要というわけで、絶対的なエースとなるメニューの開発がはかられた。大手では真似できない参入障壁の高い商品は何かが検討され、最終的にかにチャーハンに決定した。
「蟹漁師の店」、「かにチャーハンの店」を経営するストライドの源流となっているのはかにの卸業で、アラスカに工場を持ちかにの漁からかに商品の製造、販売までを手掛けていた。現在はかにの卸業や工場は売却されているが、確固たる仕入れルートがある。だから、品質の良い天然のかにが大漁・不漁にかかわらず安定的に安価で入手できるのだ。
かにはタラバがにを使用しているが、チャーハンの調理法にもこだわりがあり、中華鍋を使ってパフォーマンスを加えながら完成させるチャーハンには、108個の細かいチェック項目がある。しかも、2ヶ月間研修を受けて試験に通らなければ「かにチャーハンの店」の調理はできない仕組みになっていて、オープンキッチンで顧客の目の前でつくるプロの技によるチャーハンを提供している。
カウンターが中心で、クイック調理の本格的なかにチャーハンが食べられる。
もう一度最終試験があってそれに通れば社員になることができる。なので社員比率が高く、渋谷店でフライパンを振る調理人4人は社員である。
月曜日を定休日としており、渋谷店で餃子をつくって、全店舗一週間分を配送。また、月に2回の月曜日にはスーパーバイザーが集まって戦略会議を開くといったように、手づくりを重視して慎重な経営を行っており、無理な拡大はしない方針である。
元々かに卸であったのが外食に進出したのは、産直業者にかにの販売シェアーを奪われた背景があり、事業存続のために何としてでも成功しなければならない事情があった。顧客単価は740円ほどで、チェーンの中では最も高い。
最も人気のあるメニューは「半熟たまごのかに玉チャーハン」(冒頭写真)で、顧客の半数はこれを注文する。単品590円、かに味噌汁付きで690円。
鮭チャーハンと餃子がセットになったサービス定食(790円)
プラスもう100円で、自家製杏仁豆腐、中華ネギ鳥から揚げ、かにと大根のサラダより1品が選べてセットになる。中でも杏仁豆腐の中にライチのジェルが隠れている、自家製杏仁豆腐が人気となっている。
杏仁豆腐
グランドメニューは、「半熟たまごのかに玉チャーハン」に加えて、ベーシックな「かにかにチャーハン」と「刺身えびの中華マヨネーズあえチャーハン」の3品。これに月替わりの肉チャーハン、2ヶ月に1度替わるイベントチャーハン、渋谷店の企画メニュー、両面焼きの中華焼そばが加わる。餃子3個~6個付きのセットもある。
「かにかにチャーハン」は、かにチャーハンにかに入りのとろみの付いた熱汁をお好みでかけるスタイルで、あんかけチャーハンとスープチャーハンの中間くらいの独特のメニューである。がっつり食べたい人はプラス料金で大盛にすることもできる。
渋谷から飛び出し、今や駅中、郊外型ショッピングセンターでも人気が高い「かにチャーハンの店」は、提供時間の早さ、専門性の高さ、がっつり度、カップルやファミリーにも愛される大衆性を備え、日本型ファストカジュアルの1つの形を示していると言えるかもしれない。
そのほか、渋谷ではカレーにもがっつり派があり、円山町の「リトルショップ」は普通盛りでも大盛り以上のボリュームで提供するがっつりぶりで大人気。13席と小さな店ではあるが、昼の1時頃にはルーが切れて閉まってしまうほどの繁盛ぶりだ。
カレーやさん リトルショップ外観
リトルショップの気まぐれカレー(700円)。ひじき、厚揚げ、豚肉、チーズなど独特のトッピングでメガ盛り。
また、公園通りより路地に入った場所に2店ある「神南カリー」も小さな店だが、2009年5月に創業して、キャットストリートに3店目を出すほど順調である。こちらも「リトルショップ」ほど極端ではないが、がっつり派と言えるボリュームあるカレーだ。
神南カリー渋谷店(2号店)。最近勢いがあるカレー専門店。
神南カリーの基本3メニュー
渋谷系がっつり麺飯店は、同時多発的にいろんな専門料理が提供されており、B級ご当地グルメのように、何か1つの料理の店が集中的に多数あるというわけではない。
しかし全体として感じられる、単なるメガ盛りを超えた高付加価値の渋谷スタイルがあり、一種の渋谷の地場産業を形成しているのである。