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第9回 2003年12月13日
 今年は国産のワインががんばった1年であった。長野県で原産地呼称制度が発足し、「日本のワインもやるじゃないか」と思わせた。一方で、ボジョレー・ヌーボーが爆発的に売れた。フランスにしかないもの、それは伝統であろう。そんなフランスから送り届けられた、シャンパンについてお伝えしたい。
「ジャクソン社所有のぶどう畑」
シャンパン・ブランド戦争 

 シャンパンといえばモエ・シャンドンやヴーヴクリコの豪奢なイメージがまず思い浮かぶ。
 モエは今年、渋谷スパイラルの1-2階を貸し切って、ワン・ナイト キャンペーンを行った。すっと背の高いオリジナル・フルートグラスを用意し、マスコミへの露出も烈しかった。
 ヴーヴクリコは丸の内フォーシーズンズでのワンフロア貸切イベント「アウディ新車発表会」にイメージドシャンパンとして商品を送り込んだ。こちらは胴の膨らんだオリジナル・フルートグラスを用意し、きめの細かいVIPサービスを演出していた。
 どちらもブランド力を活かしたきらびやかなイベントだった。

 
「果汁が濃縮したところを収穫」
From1798 もっともバラのうつくしい大地−−ぶどう畑

 一方、どちらかといえばまだ土の匂いがするイメージがあるのがフランスのジャクソン社だ。1798年に始まる歴史を持ち、2002年には「No.1シャンパン・ハウス」(3年に1度開催される「世界ソムリエコンテスト」に優勝した歴代のソムリエ6名によって選考。田崎信也氏、ジャン・クロード・ジャンボン氏が名を連ねる)に選ばれるなど、品質には定評があるが、同社のシャンパンはあまり目にすることがない。





<商品データ> 
「キュベ728」Brut
2000年収穫ぶどう68%
リザーブワイン32%
シャルドネ 36%
ピノ・ムニエ 37%
ピノ・ノワール 27%
 
 
「日本初お目見えの「キュベ728」」
 ジャクソン社から「キュベ1」が世に出たのは1898年、この時よりノン・ヴィンテージ・シャンパンの歴史は始まった。2000年には「ぶどうの収穫年の特性を活かしたシャンパン造り」という方針を打ち出し、個性あるナンバーが登場するようになった。



「コルク栓を押さえる金具「ミュズレ」はジャクソン社が発明した」
 そもそも私がこのシャンパンを知ったのは、六本木のシャンパン・バーで交わした会話がきっかけであった。「テタンジェ」「ヴーヴクリコ(イエロー)」を1杯ずつ乾して一息入れていたら、店員が高いシャンパンばかりをお薦めしてきた。そこで意地悪をしようと思い、「これはダメ」「それもダメ」と店員を挑発したら、最後に「『キュベ728』はご存知ですか?」ときたわけだ。
 知るわけがない。「キュベ728」は当夜前日に発売されたばかりで、一般小売では新宿伊勢丹にしか卸されていなかったのだ。それじゃ飲もう、と襟を開いたら「いえ、うちにはありませんが」と店員は言った。そこで私はこのシャンパンが気にかかり、自分で調べてみたのだ。

 
 
 
「伝統的仕込み風景」
究極の1杯

 「キュベ728」は特別な(=キュベ)、醸造者にとって思い入れのあるシャンパンである。数えて728番目の、2000年のワインを中心に上記比率でブレンドしたものだ。

 このシャンパンの特筆すべき点は、初めの100L(葡萄4,000kg当たり)と「プルミエール・タイユ」と呼ばれる終わりの500Lは使わないというこだわりである。絞り始めと絞り終わりは雑味を多く含んでおり、風味への影響を嫌ってその部分を使わず熟成させたわけだ。
 もうひとつの特徴はフィルターろ過を行わない醸造方法だ。中汲みのぶどう果汁だけを使ってフィルターろ過していないので「ひとくちの満足感(=1杯の完成度)」が最も高められた作品だといえる。
 手軽に飲めるとは言いがたいが、1度試していただきたいシャンパンである。


 
 
オザミの丸山さんがテイスティング


話に聞いて「キュベ728」がすごいことはわかったが、実際に味や香りはどうなのだろうか。オザミグループを率いるオーナであり、気鋭のソムリエでもある丸山宏人さんにテイスティングしていただいた。ちなみに丸山さんはフランス修行中の90年代に数多くのワイナリーを巡り歩き、ジャクソン社を訪問したこともあるそうだ。

「ちょっと冷えすぎですね」
丸山さんは苦笑した。シャンパンでもテイスティングする時は10度〜12度がちょうど良いそうで、グラスを覆うようにして温め、少し待ってからテイスティングを始めた。

「色合いは黄金色、ライムのようなグリーンがわずかにあります・・・」
丸山さんはグラスを傾けると色をじっくりと見つめ、次に香りをみた。

「泡はきめ細かい。香りは強烈でなく、やさしさをかね備えています。ハチミツの香り、ピーチとかミネラルを感じます。柑橘系の皮のほろ苦い香りがしますね。以上が第一アロマです」
そう言うと一息ついた。軽くグラスを回してから第2ステージの開始である。

「第二香はバター・ナッツ・マッシュルーム、膨らみのある熟成香がありますね。ピノ・ノワールの力強さとシャルドネの繊細さがマッシュルームのような香りを生み出し、リッチでほどよいバランスの取れた香りがします」
フランスでジャクソン社のワイナリーを訪れたことのある丸山さんによると、ジャクソン社には特長が2つあるそうだ。そのひとつが原材料(ぶどう)の使い方にあるという。ピノ・ノワールとシャルドネのバランス、ピノ・ムニエの割合と、ジャクソン社伝統のセンスが健在というわけだ。

「アタックはミディアム。やさしくほのかな、オレンジやレモンの皮の苦味が印象的です。泡のきめ細かさが口の中で溶けていき、ボリューム感の奥に果実味があり、最後まで口に残りますね」
ジャクソン社の特長の2つめは樽熟成にある。「樽熟成により(ノンヴィンテージにありがちな若さがなく)味わいの滑らかさを生み出している」というのだ。

続いて料理との相性を聞いてみた。

「森のキノコを加えたフリカッセが合います。バターや生クリームを使った昔ながらのフリカッセがいいですね。魚だったら味わいの優しいヒラメより、鯛のカルパッチョ。レモンやオリーブを加えたり、エストラゴンのようなメリハリの利いた香草をつかうと合います」
バランスの良さ・樽熟成による味わいの滑らかさというふたつの特徴が「キュベ728」の個性であり、それによって様々な楽しみ方ができるのだそうだ。

「お肉だったら鳥料理が合います。また、ジャクソン社のシャンパンは食中酒として適しています」
シャンパンを食中酒として飲むとしたらどのように注文したらいいのだろうか。

「デザートにグラス・シャンパンを選ぶとしたらドゥミセック(甘口)でしょう。ただ、『キュベ728』はアタックがミディアムであることから、すべてのお料理に合わせられます。たとえば、ディナー・コースは2人で『キュベ728』を1本頼み、メインだけ別にグラス・ワインを注文して、デザートに合わせてまた『キュベ728』というのもありだと思いますよ」
シャンパン1本でディナーを楽しむというのだ。シャンパン好きには是非試していただきたい飲み方である。


 取材 執筆 山越 龍二
 

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