第12回 2004年1月11日
 目黒通りは個性的なインテリアショップが軒を連ね、いつでもしずかである。アンティーク家具を直している店員が日なたに陣取り、イタリアンレストランの店員は店の前を掃いている。03年9月、この通りに8階建てのホテル「クラスカ」が誕生した。

■2003年9月に新生、ホテル「クラスカ」

 目黒駅から目黒通りをまっすぐに進むと、三叉路に面したホテルが目に飛び込んでくる。シックで個性的な外装の8階建て。1階部分にはガラス張りで日光がたっぷりと差し込んでいるドッグトリミングサロン「ドッグマン」と、家具や内装にアジアン・テイストを感じさせるカフェレストラン「ザ・ロビー」がある。

 ホテル「クラスカ」はニューメグロホテルをリノベーションした建物である。リノベーションとは既存の建物の機能や用途を更新し、性能を向上させることである。言葉にすると分かりにくいが、ホテル「クラスカ」が生まれ変わり、新しい価値を発しているのは確かである。

 昼間は「ドッグマン」のガラス張りのフロアで犬がトリミングされているのを眺めることができる。夜は派手なイルミネーションもなく、一見するとどんな建物であるのか分からないのだが、外国人やアパレル系の人が深夜になるまで出入りしている。
 彼らが集うのはデザイナーズホテル「クラスカ」に泊まることが目的であったり、2階ギャラリーでのイベントに参加するためであったりするのだが、ここで中心として機能しているのが1階のカフェレストラン「ザ・ロビー」なのだ。

■アジアン・カフェレストラン

 「ザ・ロビー」とはとてもシンプルな店名だ。その名の通りホテルのロビーとしての機能もあり、アメリカから泊まりに来たデザイナーが朝食をとっていたり、午後遅くまで本を読んでいたりする。夜から朝方の4時まではバーとしても機能をし、20代前半の男性や、30代のカップルがカウンターでゆっくりと時間を過ごしている。
 「昼過ぎには散歩がてらランチを食べに来る、近所の常連さんもいらっしゃいます」 そう話してくれたのは「ザ・ロビー」のマネージャー宮本昌浩氏。ホテル再生のために集められた若手のなかで、彼は特に飲食のプロとして起用された。お店づくりの意欲に燃えたデザイナーと一緒にやるのが楽しいらしく、やりたいことがたくさんあると言う。

 「来年には2階のギャラリー横にバーを作りたいと思っています。もちろんギャラリーは飲食OKです」ホテル「クラスカ」がオープンしてからまだ2ヶ月だが、カミーユの来日記念イベントが行われるなど、このホテルを選ぶこと自体がひとつのスタイルであると認知されているようだ。
 「隣にドッグトリミングサロンがありますよね。あちらに犬を預けられて、待っている間はザ・ロビーでお茶を召し上がられる方もいらっしゃいます。ペットホテルもオープンさせるつもりですが」と苦笑して、「なにぶんやりたいことがたくさんありまして、ペットホテルを稼動させるのは来年以降になります」と言った。

 「海外のデザイナーが宿泊するホテル」という具体的なテーマを持って再生したホテル「クラスカ」は、1階の「ザ・ロビー」をどのように位置づけているのだろうか。料理をひとことで語ると「アジアのオリエンタル料理」である。アジアの食材や香辛
料を使い、見た目に鮮やか・優しい味付けを特徴としている。ディナーでは「蒸し鶏と揚げナスのサラダ仕立て」や「マグロほほ肉と青パパイヤのサラダ」が人気メニューで、半分以上の方がどちらかを注文されるそうだ。
 「『仔羊のタジンケフタ』も、とてもおいしいですよ」 仔羊肉のハンバーグを蒸し煮にしてクスクスを添えた料理で、宮本氏一押しメニューだそうだ。料理はデザインとあわせてアジアを意識したものに仕上がっているが、なにより白眉なのはドリンクの品揃えである。幅が広く、決して飽きさせないラインナップだ。グループ客にはモエシャンドンや3000円台のワインが人気あるそうだが、焼酎や日本酒は目を見張るチョイスだし、コーヒーや紅茶にリキュールを垂らすことを提案するなど、自信があるからこその闊達さが現れている。アールグレイオリジンのアイスティをご馳走になったのだが、華やかな香りがあり、とてもおいしかった。

■どう暮らすか? クリエイターの遊び心

 デザイナーズホテルということで、自然とクリエーターが集まり、ザ・ロビーを使ったイベントの問い合わせも多いそうだ。貸切でDJを起用したブッフェ・パーティをするなど、夜更かし好きな大人が「これでもか」と、バリエーション豊かな遊びの提案をしてくるそうだ。
 「もちろんうれしいのですが、宿泊されている方や地元の方が利用できることが大切だと思っています」 とのことで、貸切パーティは週1回に抑えるようにしているそうだ。どうしても満席だったらどうするのかと質問したところ、「近くに『オフィス』というバーがあります」 と説明された。「オフィス」はホテル「クラスカ」から歩いて2分かからない路地裏にあり、こちらはイギリスや60年代の家具を意識した建物で、離れといった雰囲気である。ザ・ロビーと同じ中村貞裕氏によるプロデュースであり、違和感がない。気分を変えたいときにふらっと歩いていける店だ。

 ホテル「クラスカ」はどう暮らすか?という問いかけに対する、多様な答えを組み合わせたホテルにしたいという思いが込められて、命名された。遊び心があふれるクリエイターが集まったからこそ、このようなホテルができ、都会の楽しみ方がまたひとつ、提案されたのだ。1階カフェレストランの家具は8階にオフィスを構えるTCKWの立川裕大氏によるオリジナルだ。家具を見に来て、時には持ち出して修理をするという。バイタリティにあふれたホテル、ここ「クラスカ」がホテル業界に一石を投じているのは間違いない。


ホテル入り口。


「ドッグマン」(右)と
「ザ・ロビー」(左)。

マネージャーの宮本昌浩氏。

カウンター席の右端はワインセラー。
その横から「ドッグマン」が覗ける 。

窓のそばのテーブル席

DJブース(手前)と
ブックストア「エッセンス」(奥)


ランチメニューより〜
海鮮のトマトクリームソースパスタ
海鮮あんかけ炒飯

取材・執筆 山越龍二 2004年01月11日

ホテル「クラスカ」1階「ザ・ロビー」
住所 東京都目黒区中央町1-3-18
電話 03-5773-8620
定休日 土・日・祝
Web Site http://www.claska.com/

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