第21回 2004年3月13日 | |
編集部に1通のプレスリリースが届いた。「仙台の職人の手で『熟たん』を生み出しました」牛たん職人の技術によって最高級部位の「熟たん」を商品化したという。添付写真を1目見てすぐに電話をした。「これが牛たんですか?」・・・その日のうちに仙台行きを決め、飛び込みで取材をしてきた。 | |
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仙台OLは牛たんランチ 東京から仙台までおよそ350キロ。新幹線「はやて」で101分かけて北上すると仙台駅に辿り着く。東京駅で幕の内弁当を買って新幹線「はやて」に乗車すると、たとえ東京都内の猥雑な風景を見ながら鮭を咀嚼したとしても、下車するときはまだ満腹感衰えることがない。およそ2時間で降り立った仙台駅構内は寒くもなく、あくびをかみ殺すスーツ姿のサラリーマンがぞろぞろと歩いていた。 まずは駅ビルを歩く。牛たんストリートなるものがあり、牛たん専門店5軒が建ち並んでいる。「利久」「伊達の牛たん」等の東京にも名が通っている牛たん屋が営業している。未だ胃の中の駅弁は消化されていないのだが、店内の賑わいを覗いていると食欲がわいてくる。「利久」「伊達の牛たん」はほぼ満員で、ガラス張りの「伊達の牛たん」店内は半分近くが女性客だ。呼び込みの声につられて「利久」に入る。
「牛たん定食です」 牛たんと漬け物、麦飯にとろろ汁、牛テールスープで1200円。ボリュームがあるが、隣のOLらしい女性客はきれいに平らげて席を立った。かなりの厚切りで、ステーキのような牛たんは程良く火が通っていて、やわらかくておいしい。すぐに完食。会計の時、男性スタッフに聞いてみる。 「この間テレビに出ましたよね? お客さんは増えました?」 男性はにやりと笑って 「いいえ、かわりません」 と言った。 仙台の牛たんは流行り廃りと関係ない、という不適な笑みと解釈した。 仙台の牛たんにはおよそ50年の歴史がある。東京では歩ける距離に焼き肉屋が何軒もあるように、仙台には歩ける距離に牛たん専門店が何軒もある。それだけではなく、定食屋や居酒屋にも仙台牛たんなるメニューがある。商店街の寿司屋には牛たん寿司というメニューもあった。
私はひとつの情報を入手していた。小さい頃から牛たんを食べて育った人間が、オリジナル牛たんを開発した、と。 |
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ついに始動!! 仙台牛たん職人事業協同組合 集ったのは5人。いずれも牛たんを愛する仙台人だ。商品開発をした古山淳一氏、食肉の部位に詳しい石川里美さん、プロデュースに携わる小関邦雄氏、柳沼紀之氏、田邊光利氏。いずれも熱い思いを秘めて、昨年9月にようやく仙台牛たん職人事業協同組合(以下仙台牛たん組合に略)を立ち上げた。 12年間牛たんの研究を続けてきた古山淳一氏は小さな事務所で語った。
「利久」の料理長と同じ師につくが、古山氏は独自の道を歩んだ。彼が語る究極の牛たんは「利久」のそれとは異なる。 肉の目利きのプロ、石川里美さんは素材へのこだわりを語った。 「私たちは炭火焼きが最も合う部位にこだわっています。表面の皮を剥いで、全体の30%ほど、舌の根本の部位しか使いません。おみやげ物に調理されている牛たんは全体の60%以上を加工して使用しています」 皮を丁寧に剥ぐときれいな赤身の塊になる。それから味付けをしたら数日寝かせて、まろやかさを出す。味付けや寝かせ方は企業秘密だが、スライスすると鮮やかなサシが入っている。しっかりとした状態で時間をかければ、自然熟成だけで柔らかくなるそうだ。 「私たちは熟成にこだわりました。ですから、『熟たん』という商品名でほかの商品とは区別しています」 |
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牛たん1本からわずか10枚しかとれない 最高級部位「たんもと」 「私たちが考える究極の牛たん、つまり『熟たん』は10年以上試行錯誤をして辿り着きました。私自身がお店で『熟たん』を提供してきた経験から、素材の善し悪しだけではなくて、素材を最も活かした火の通し方まで頭に入っています」と古山氏。
他の牛たんとの違いは何なのだろうか。 「まず、スライスの厚さは8mm。炭火で焼く牛たんとしては薄いですね。しかし、『熟たん』ではこれがベストなんです」 仙台牛たんというとフライパン焼き用の3mmから厚切り炭火焼き用の10mmまである。 「舌の根本の「たんもと」と呼ばれる部位だけ切り出してい使っています」 その違いは生の素材を見ればよくわかる。脂の乗ったトロのような柔らかい身の表面は滑らかで、サガリ特有の凹凸もない。 「この大きさで火が通る程良い厚さは8mm。自信があります」 どれだけ味は違うのだろう。町中の牛たん定食もそれなりにおいしかったのだが・・・。 「食肉軟化剤を使えばどの部位でも柔らかくなり食べやすいですよ。しかし、自然に熟成させるとしたら舌先は堅くて炭火ではとても食べられない」 仙台牛たん組合では舌先をハンバーグの種にするなど、工夫をしている。 「何も変わらないのだったら安く済む方を選びますよね。しかし、他の牛たんと『熟たん』は冷えたらその違いがはっきりとわかりますよ」 |
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食べればわかるということで、古山氏は用意しておいた「熟たん」を炭火で焼いてくれた。炭に脂をした垂らせながらじっくり焼き上げた。 きちんと繊維を切断してあるのでまくれあがることもなく、湯気を立ち上らせている。1枚を口にする。確かにおいしい。 「あとは冷えてから食べてみて下さい」 20分後・・・。皿に残った「熟たん」を頬張る。うまい! 脂と旨みが舌の上でじわりと溶ける。冷えても肉質が固くなっていない。
お客様の口に入るまで責任を持っているからこそ言える言葉だ。こだわりを持っているからこそ慎重な言葉が並ぶが、昨年は仙台牛たん組合が発足し、明るい話題も飛び込んでくるようになった。 仙台牛たん組合は生産体制が整い、6月までには本格的に出荷が出来るようになる。味の面でも確かな評価が得られ、フーデックスでは複数の飲食店からオファーを受け、検討中だそうだ。栄養価に優れ、カロリーは控えめの牛たん。中でも「熟たん」は10年以上変わらず品質にこだわり続けてきた。この10年があるのだから、「熟たん」ののれんが東京に受け入れられるのは間違いない。 |
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2004年3月13日 取材 執筆 山越 龍二 | |||
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