六本木6丁目交差点から少し歩いたところにある「西麻布うまや夫婦庵」。繁華街にありながら、雑貨屋のビルなどに囲まれ、鳥のさえずりが聞こえる一角に「うまや」の暖簾が翻っている。スーパー歌舞伎の市川猿之助氏がディレクションを手掛け、自身も好んで食事にも訪れるという同店は焼酎バーを併設した九州料理のお店。JR九州フードサービスによるプロデュースということでメニューばかりでなく素材も本場九州のものを選んでいる。
私が訪れたときには軽く雨が降っていた。ふと気がついたのだが、雨に濡れてお店の構えが艶立っていた。日本の家屋は自然を受け入れる空間だったのだなと思った瞬間だった。番傘を敲く雨音が心地よい。
店内には所々歌舞伎の劇中のパネルが紹介されている。懐かしい小物が飾られて、気持ちは日本の風景へとぐんぐん引っ張られていく。「歌舞伎を観たお客様が余韻冷めやらず立ち寄る」(同店スタッフ荒金仁さん)こともあるそうだ。ランチでは猿之助氏が実際に食べる楽屋弁当を出し、歌舞伎の話題が盛り上がることは間違いのない心遣いがあふれている。
「接待などで使われることが多い」(荒金さん)そうで、平均客単価は6000円。夜メニューの人気No.1は「黒豚ばら肉のしゃぶしゃぶコース」。個室が多く、ワラによる照明の傘やい草のディスプレイ、お香で部屋を清める演出が30歳代〜40歳代の女性にうけ、来店を促している。
九州の伝統的なメニューが並び、「みつせ鶏」や「もち豚」「川島豆腐」を使った料理、大分のかつお節を使用した「かつお醤油」がある。お通しは日替わりの小鉢と鹿児島県産「坂本の黒酢」をかけたキャベツが出される。
お客様と厨房の間にデシャップを置き、ホールスタッフがサービスに専念できるよう工夫、鍋料理はスタッフが作るように心がけている。ご飯のお代わりが自由、チェイサーとしてのエビアンや地卵が無料という気が利いたサービスもある。〆には博多ラーメン(0.5人前)の他、新しく九州名物・大分のだんご汁を取り入れた。デザートにはほうじ茶とおしぼりのサービスが付くあたたかいおもてなし。かつて不遇の時代に温かく迎えてくれた九州の方々への恩返しとして、猿之助氏は自身の土地を同店の為に提供したという。
西麻布にあって自然の音に気付かせてくれる「西麻布うまや夫婦庵」。い草の香りや、今では見ることが少なくなったししおどしのある風景は訪れた人の心の中に生き続けるだろう。
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