第43回 2004年8月15日
 新橋で立ち飲み屋が急増している。路地に入れば並びに1軒は立ち飲み屋があるこの街で、この半年間で新たに4軒出店し、連日満員の人気を博している。
立ち飲み屋への改装も多い(新橋)
立ち飲みの新しい波が到来

 新橋で半年前に立ち飲み屋がニューオープンするや連日満員の人気。この街ではどの飲食店もすぐに満席となるのだが、その後立て続けに3軒の立ち飲み屋がオープンし、気になる業態である。歩いて3分の距離に4軒もの新店。今、立ち飲みがブームと言えよう。

 「立ち飲み」スタイルの流行の芽が見えたのは昨年のこと。目立った動きがあったわけではないが、「立ち飲み」業態が少しずつ増えていた。和風居酒屋(立ち飲み)のみならずアイリッシュパブの急増、イタリアン・バールのオープンなど「スタンディング」スタイルが定着していく伏流があったのだ。

早くから混み合っている「立呑処 へそ」
 個店の立ち飲みはたくさんあり、地元に根付いて愛されてきている。浜松町の「秋田屋」などは店内に入れないお客様が店先立ち飲みを敢行、16時を過ぎると中年のサラリーマンを中心に歩道にまで溢れかえっている。すぐ近くに酒販店の立ち飲みもあり、この一帯でも立ち飲みスタイルが受け入れられていることが分かる。女性比率は10%に届かないくらいだが、20歳代から30歳代の若い女性が男性グループに混じって、という姿が多い。

 新橋ニューオープンの4軒の中で最も早い出店は「立呑処 へそ」であり、パチンコ屋の裏にあってプレハブ小屋のような店構えだ。15時頃から飲んでいる人がいる。安くて、早く、良心的であり、曜日に関わらずお客様が入っている。メニューの中心は串揚げ。「紅生姜」の串揚げなど大阪の立ち飲みの定番を味わうことが出来る。

焼き場からお客様との
会話を楽しむ長谷川店長
粋な女性が給仕する、正統派の立ち飲み「豚娘」

 次に出店したのが「豚娘(とんこ)」である。新橋で71年より焼鳥店を経営している「鶏繁」系列の新店で、「豚娘」が6店目にあたる。SL発祥の地である新橋を意識して「店内は網棚・車窓をとりいれ、モダンなオリエント急行をイメージ」している。お店は長谷川店長を始めとしてキリッとした女性が給仕をしている。お客様の間を縫って歩き、簡単な会話を交えているところから、等身大の人間味が見えてくる。

 店長自ら仕込みをし、素材の鮮度や味付けを毎日見る。焼き場に立って「煮込みの味付けを変えたんですよ」とカウンターのお客様へお薦めしている。「ビジネスマンやOLのお腹と心を満たして、明日への活力にして頂ければ幸いです」と長谷川店長。
自慢の1品「ガツ刺し」
 「串焼き」の盛り合わせと「煮込み」
 豚皮の南蛮漬け
活気ある女性スタッフ
 「鶏繁」の客単価は5000円。一方の「豚娘」の客単価は2000円。利用スタイルが大きく変わることから同じ商圏での出店が可能、実際に「豚娘」は「鶏繁 総本店」の隣にある。2年ほど前から立ち飲み屋の出店を考えていたそうだ。
 「豚娘」の人気メ ニューは「ガツ刺し」で、鮮度の良い素材を使うことによって「殆どボイルしないで出しています」。他に「豚皮からし和え」や豚肉のみで作る自家製の「つくね」もお薦めのメニューになっている。

 今後も新橋を基点に出店を重ねていきたいそうだが、次は10月末、東京駅・丸の内口にどんぶり屋(ランチから営業)をオープンさせるという。

 紀州備長炭を使った串焼き、ホッピーに焼酎と、「豚娘」は正統派の立ち飲み屋と言えよう。支払いはまとめての後払い。同店は近いこともあって編集部の人間がたびたび利用する、「安心できるお店」のひとつだ。

豚娘(とんこ)
住所:東京都港区新橋2-9-17
TEL:03-3508-1122

URL:http://www.torishige.com/index.html
営業時間:17:00〜23:00
定休日:日曜・祝日
これがおすすめ:「ガツ刺し」「豚皮からし和え」「つくね」
 
平日から外国人で賑わっている
イギリスの次は日本!
伝統のイングリッシュパブ(スタンディング)が新宿に


 スタンディングスタイルが一番有名なのはアイリッシュパブ(イングリッシュパブ)であろう。日本においてはアイルランドやイギリスが好きなオーナーが経営する個店が多いが、ダブリナーズが唯一、積極的に多店舗展開を敢行していた。そんな日本市場に新たに参入してきたのがホブゴブリンジャパンが運営する「ホブゴブリン」である。00年に赤坂店・02年に六本木店・04年に渋谷店を出店、今年の年末頃に新宿店をオープンさせる。インターブルー・アンビヴの銘柄を中心に12種類のドラフトビールを扱い、家具などはすべてイギリスから輸入して「ブリティッシュパブ」ならぬ「ホブゴブリンパブ」を展開している。

やはり人気はリアルエール
「ゴブリン グロッグ」
 「ホブゴブリン」は現在イギリスで30店舗を展開、海外ではここ日本にしか進出していない。「パブのクオリティを堅持することを第一に考えている」(ホブゴブリン取締役 トレバー)ということで、他の国への出店は今のところ考えていないそうだ。日本では新宿の後、品川での出店を予定している。
「日本では、特定の人と、特定の会話・食事をするのが、日本スタイルになっていますが、UKでは、様々な人と会話をし、情報交換が出来る立ち飲みこそがお酒を飲む基本スタイルです」ということだ。

スタンディングだと
交流がスムーズになる
 同店はビールの品質と気の置けない雰囲気(迫力ある音楽、サッカー中継、ダーツゲーム)が特長である。また、リアルエールにも力を入れており「ゴブリン グロッグ」など本場のパブの味を次々に導入している。

 年末オープン予定のホブゴブリン新宿店は駅東口周辺。新宿駅東口が本格的なビールを飲めるエリアとして、より一層の盛り上がりを見せることは間違いない。


ホブゴブリン 渋谷店
住所:東京都渋谷区道玄坂1-3-11一番ビル3F
TEL:03-6415-4244

URL:http://www.hobgoblin-tokyo.com/
営業時間:
月〜水 11:30-15:00/17:00-late(フードL.O.22:45)
木〜金 11:30-15:00/17:00-late(フードL.O.22:45)
土曜日 12:00-late(フードL.O.22:45)
日祝祭日 12:00-late(フードL.O.22:45)
定休日:無休
これがおすすめ:「ゴブリン グロッグ」をはじめとするドラフトビール
駒沢通りに面したイタリアンバール
バイ・ザ・グラスが魅力のイタリアンバール

 渋谷と恵比寿の中間にあり、駒沢通りに面したイタリアンバール「implicito(インプリチト)」。ワイン好きから「日本で初めて本格的なイタリアンバールが出た」として熱い視線が注がれているお店だ。元々イタリアが好きで同店を始めた松永さんは週に3日はイタリアンレストランに通うそうだが、「食後に落ち着いて飲める店がなかった」ことから昨年12月に自ら同店をオープンさせた。


地下1階のワインセラー
 イタリアでは日本よりも立ち飲みスタイルが広く受け入れられている。利用客は30歳代が多く、カウンターでの会話を楽しむために敢えてスタンディングを選ぶのだそうだ。テーブルにつくより安いからという実利的な理由もあるのだが、たとえば同店では600種類のイタリアワインがストックされていて、中にはイタリアから直接買い付けてきたワインもあるので、カウンター越しに話を聞きながらこの店でしか飲めない「ミアーニ」「トゥアリータ」といったワインをじっくり飲みたいものである。
イタリアにワイン買い付けにも行った渡部氏
 「これだけクラシカルな店は本国にもない」とイタリア人に言わせるほど内装に凝った同店では、どのワインも大振りのグラスで出され「香りを最大限感じることが出来る」心遣いが徹底している。容量も9杯取り(80ml)ではなく6杯取り(125ml)となっていて、ワインを「試す」のではなく「味わう」ことができる。

色鮮やかな「クロスティーニ」
 地下1階にワインセラーがあり、テーブル席も用意されている。大切な時間を過ごしたいときにはこちらでゆっくりと飲みたい。

 支払いは基本的にまとめての後払い。スタンディングで1杯のつもりで入ってもすぐに帰るのがもったいないと思えてきてしまう、そんなイタリアンバールだ。渋谷と恵比寿の中間にあり、気が向いたら立ち寄りたい「日常の隣にある非日常的な空間」が魅力のお店だ。

implicito(インプリチト)
住所:東京都渋谷区東4丁目6-3
TEL:03-5774-4433

URL:http://www.implicito.com
営業時間:17:00-3:00
定休日:不定休
これがおすすめ:およそ20種類あるグラスワインと「クロスティーニ」
「BUCHI」エントランス
清潔で美味しい、女性客に支持される新しい立ち飲み

 渋谷から246号線を池尻の方に歩くこと15分、神泉町の交差点にあるスリーエフの隣りに8月6日(金)、「立喰酒場 BUCHI(ぶち)」がオープンした。今まで立ち飲みというと串やモツがメインであったが、このお店は「もつのトマト煮」や「ガツ刺し」「ロース炭火焼き」(すべて上州豚)等を抑えた上で、「ハモンイベリコ」「酒盗のピザ」等の素材からこだわった肴が多数揃っている。

 日本酒ではワンカップが10種類以上ある。「蔵にお願いしてこのお店のために作ってもらいました」(女将 岩倉さん)というオリジナルワンカップは純米から普通酒までありどれも600円。「酒盗のピザ」や「ふぐ子の粕漬け」などと合わせたい。

ソムリエの岩倉さん
 ワインはソムリエでもある岩倉さんが選んだ品揃えで、リーズナブルで「かゆいところに手が届く」奥の深いチョイスとなっている。「ハモンイベリコ」や「オリーブ」のほか「日替わりパスタ」もワインの味わいを引き出してくれるだろう。
西酒造や岩倉酒造の商品もあり焼酎は厚い品揃え。ビールは「シメイ」「ヒューガルデン」「ハートランド(ドラフト)」等あり、「ムール貝のエスカルゴバターオーブン焼き」「マコモ茸のフライ」といったボリュームのある料理が欲しくなる。

 元々は「JYU」の企画・開発を担当していた東井さんが立ち飲み屋に興味を持ったのが1年ほど前で、昨年同社を退職してからお店立ち上げの話が進み、岩倉さんやスタッフと共に神泉に「BUCHI」をオープンさせたのだ。「女性が入れるようなお店にしたい」ということで、オープン時の女性比率は20%程であった。同店は地下1階を「坐房」としてテーブル席を用意しており、腰を落ち着けて食事をすることも出来る。

奥のカウンターにあるイベリコ豚
 支払いは基本的に「キャッシュオンデリバリー」(注文時の支払い)。灰皿に小銭や紙幣を入れておけば、お店のスタッフがその都度、自動的に会計をしてくれる仕組みとなっている。

 メニューの端から端までこだわりの感じられる同店は、確かにリーズナブルにおいしいドリンクやフードが楽しめるのだが、立ち飲み故の「早いサービス」「気の置けない雰囲気」から遠ざかっている気がするのも確か。新橋や浜松町のディープな立ち飲みはちょっと・・・という人にとってはバランスがよい品揃え・清潔な内装・丁寧なサービスが心地よいはずだ。これも伝統的な立ち飲みの進化型と考えれば、どのように定着していくのか楽しみになる。
 
立喰酒場 BUCHI(ぶち)
住所:東京都渋谷区神泉町9-7
TEL:03-5728-2085

営業時間:11:30-14:00/17:00-3:00(地下1階は0:00迄)
定休日:無休
これがおすすめ:オリジナルワンカップと「ハモンイベリコ」
 
-最後に-
狭いキャパシティの立ち飲み屋は店主やスタッフの仕事ぶりが直にお客様に届く。そこに人柄が感じられるからこそ客足が途絶えないのだろう。今後も立ち飲み屋は増えていくのだろうが、それぞれの個性を楽しみに足を向けたいと思う。
2004年8月15日 取材・執筆 山越 龍二
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