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藤井店長の笑顔に誘われたい |
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「美味いものしか創れません」
「焚や吟蔵」(たきやぎんぞう)小笠原料理長を指差して藤井店長は笑いながらも真剣な口調でそう言う。
和食の世界に入って20年、鍛え抜かれた技を携えた小笠原氏は割烹の楽しみをもっと知って欲しかった。年配のお客様だけに独り占めさせておくにはもったいない程の魅力が割烹にはあると感じていた。30〜40才代の世代に楽しんでもらえるには、、、そんな理想を追い求めた答えが「焚や吟蔵」である。
奥深い和食の間口を広げて「楽しんでもらう」とは言え当然味をおろそかにはできない。むしろ逆だ、味にはとことんこだわり抜かないと店を楽しんでもらうことはできない。
メニューを開くとまず現われる日本地図、その上に本日入荷の食材を使って提供されるお勧めメニューが産地と共に躇したが、この味を是非伝えたいと決意したと藤井店長は語ってくれた。
ジュース一品にもこの熱の入れようである、当然料理も選びに選び抜かれている。
「ぐじの焚き込み御飯」(2500円)は、2名から3名で楽しめる分量。
カウンターからは調理場の様子が伺える内装デザイン、煮方をカウンター横に出現させてしまった。
目の前の竃で焚かれる臨場感を感じながらかまど炊き込みご飯を味わうことができる。ご飯は山形県酒田のひとめぼれを使用。もみ殻のままで保存し、発注をしてから精米してもらっている。一日二回作られる「吟蔵 土鍋豆腐」(600円)も人気だ。佐賀県唐津の老舗豆腐店の豆乳と天然にがりで手作りした豆腐は、醤油ではなくそのままで、もしくは天然塩で味わうことをお勧めしている。
水にまでこだわり抜いて辿り着いた「焚き」を表現している。
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料理長おすすめ お刺し身盛り合わせ |
ぐじの炊込み御飯 |
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合わせて楽しみたい日本酒、焼酎の品揃えも見逃せない。
料理長おすすめの米焼酎「大石」。鯉川酒造の「山居倉庫 亀の尾」に至っては銀座ではここでしか飲めない逸品、独自のネットワークが生かされている同店ならではである。地ビール「多摩の恵み」というラインナップも珍しい他、お酒が飲めないお客さまには農園より直接取り寄せた無添加のフルーツジュースをそろえている。
さて、9月24日オープンしたての「焚や吟蔵」、なぜ銀座という地を選んだのだろうか。
料理長は流行の和風創作料理に和食の危機感を感じていたという。出店にあたってまず最初に決めたこと、料理は創作ではない真の和食、そして割烹という形態。ここまでで場所が銀座とくればどこにでもあるような店になっていただろう。慣れたプロデューサーならそうしたかも知れないが藤井店長と小笠原料理長は店をモダンなデザインで包み込むことを選んだ。
銀座の裏通りにたたずむガラス張りの「焚や吟蔵」は、銀座に慣れた人々の足を止めさせるだけの魅力がある。ガラス張りと直線的で鋭角な内装デザインは、おおよそ割烹の店とは思えないが決して敷居は高くない。さらに笑顔でドアを開けて、藤井店長がスムースに店内に誘ってくれるので安心。夜と食材をかえることない1000円からののランチも嬉しい。
カウンターに立ち料理をふるまう料理長とのコミュニケーションは楽しい時間を過ごすことができるだろう。真の和食を新しい世代に楽しんでもらい、少し元気のない銀座を新しいスタイル・「焚や吟蔵」のスタイルで盛り上げたい。
それが「焚や吟蔵」が銀座にある理由だと両人は語った。
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カウンターに設えたネタケース |
一日二回振る舞われる土鍋豆腐 |
カウンター奥には静かなテーブル席も用意されている |
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取材・執筆 本誌編集部 横田茂 2004年10月16日 |