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フードリンクレポート


外食産業はサルモネラ食中毒を防ぐ、卵の殺菌を徹底せよ。

2008.3.19
食品の安全性に対する消費者の信頼が揺らいでいる今、もし食中毒が発生したならば、外食企業にとって経営上の決定的問題に発展する危険性がある。しかし、外食では統計上、食中毒の発生件数が多いにもかかわらず、対策が全般的に遅れている。なかでも、その原因の一部が卵由来のサルモネラにあることも知られていない。どういう改善策が、衛生学の進んだアメリカや他業界で取られているのか、レポートする。


卵由来のサルモネラが食中毒の一因。

食中毒はなぜ飲食店でよく起こるのか

 中国製冷凍餃子の中毒事件を機に、消費者の食に対する安全性へのチェックがますます厳しくなっている。

 飲食店にとっては食中毒の発生は信用の失墜に直結し、大規模な集団食中毒を引き起こすと経営の根幹を揺るがす事態にもなりかねない。それだけに各店は衛生には十分気を配っており、厨房の清掃徹底、食器の洗浄徹底、手洗い励行、食材の鮮度に常に気を配るなどといったことの日々の実践は、業界に浸透しているはずで、もし手を抜いている店があったのなら論外である。

 しかし、そうした衛生に対する厳しい取り組みにもかかわらず、食中毒事件は頻発している。

 食中毒の原因はさまざまであるが、最も代表的で主流を占めているのは、実は「サルモネラ」によって引き起こされるものだ。大腸菌O-157が大流行した1996年でさえ、患者数、発生件数ともサルモネラによるものが一番多かった。

 約100年前に発見された腸内細菌科に属するサルモネラは、2000種類以上に分類される。鶏、牛、豚などの家畜の体内あるいは河川、下水などの自然界に広く分布している。サルモネラによる食中毒の主な症状は成年では主に急性胃腸炎であり、腹痛、下痢、発熱が起こり、吐き気や嘔吐を伴うケースもある。すぐに症状が現れるわけではなく、8〜48時間の潜伏期間があり、平均すれば24時間だ。重度の感染者は、特に抵抗力の弱い高齢者や小児では死亡することもある。



 サルモネラ菌

 厚生労働省の統計によれば、サルモネラ食中毒の患者数は1996年の約1万6000人、発生件数は1999年の約850件をピークに、2000年以降は減少しているが、2005年で患者数約4000人、発生件数約150件を数えている。まだまだ、年間にかなりの発生が見られる。

 そして1994年以降、原因の食品として「卵類及びその加工品」が増加しており、年次の統計を見ても「肉類及びその加工品」や「菓子類」に比べて発生件数が常に多い。

 さらに、サルモネラ食中毒を施設別に見ると、「飲食店」が圧倒的に多く、2005年では40件を超えていて、2位の「家庭」が10件台にとどまるのに対して3倍近くもあるという発生状況だ。「事業所」、「旅館」、「病院」、「学校」の発生件数は「家庭」以下である。つまり、「飲食店」の取り組みは、残念ながら他業界よりも遅れているのだ。

 我々、外食業態にとってポピュラーな食材の1つである『卵』は、サルモネラ食中毒対策の観点から言えば、最も注意を払うべき食品であるといえるのである。


21世紀になって動いた日本の食中毒対策

 このようなサルモネラ食中毒に対する飲食業界の対応の遅れは、情報が十分に伝わっていないことに由来すると思われる。

 一般にはあまり知られていないが、日本人は世界でも有数の卵好きな国民である。

 IEC(国際鶏卵協議会)の2002年に発表した国別データでは、年間1人あたりの鶏卵消費量を個数で出すと、日本の329個は、アメリカの254個、ロシアの252個、フランスの248個、ドイツの217個、イギリスの176個をはるかに上回り、世界トップクラスにあることを表している。

 1999年11月に「食品衛生法施行規則及び規格基準」の一部が改正されて、生産から消費までの各段階での総合的な衛生対策が、実施されるようになった。

 その中で、群雄割拠の飲食業界では、業者が比較的絞られるホテルや給食に比べても情報が伝わりにくく、「卵」に対する意識が低いまま今まで来てしまったのではないだろうか。

 この法改正のポイントは、次に挙げる6点である。

(1) 食品の製造、加工調理に使用する卵は食用不適卵(腐敗卵、カビ卵、血液が混入した卵、液漏れした卵、卵黄が潰れた卵、孵化中止卵など)であってはならない。
(2) 殻付卵を使用して食品を製造、加工または調理する場合は、70℃以上で1分以上加熱するか、これと同等以上の殺菌効果を有する加熱殺菌をする。
(3) 殻付卵の保管は10℃以下とする。
(4) 卵は使う分だけ冷蔵庫から出し、すぐに調理する。
(5) できあがった料理は室温に放置せず、なるべく早く提供する。
(6) 卵や卵の中身を入れた容器や器具は使用した後、速やかによく洗う。卵を扱う時は、その前後に良く手を洗う。


内部がサルモネラ汚染された卵の危険性

  サルモネラの特徴として、高熱に弱いということが挙げられ、70℃で1分間加熱すれば死滅してしまう。

 しかし、低温や乾燥状態に比較的強く、長期間生存する。30℃〜40℃で最も良く増殖し、増殖のスピードは20分で2倍だから、特に夏場に冷蔵庫に保管していなかったり、割ったまま、調理したままで長時間放置したりしていると、いつの間にか汚染が進んでいる場合もある。冬場の10℃前後でも、ゆっくりとながらも増殖する。

 卵殻表面の汚染が原因とされる“ON EGG型”のサルモネラ汚染は、以前から問題視されていた。割った卵に殻が混入すれば、危険性が高まる。

 一方で近年は、親鶏がサルモネラ汚染された飼料を食べたことなどが原因で、鶏卵が産み落とされた直後から、既に内部が汚染されている“IN EGG型”のサルモネラ汚染が広がっている。

 今、鶏卵から検出されるサルモネラで、最も問題となっているのは、「サルモネラ・エンテリティディス(SE)」と呼ばれる種類である。「SE」が鶏卵の内部に存在する確率は2000〜3000個に1個程度と報告されており、確率的にそう多いわけではないが、大量に卵を使う場合に紛れている場合もある。

 あなたの目の前のその卵かもしれないのだから、油断は禁物だ。“IN EGG型”は、外見上は汚染されていない通常の卵と同じなので厄介である。

 サルモネラ対策として加熱調理を実践しているつもりでも、実際は中まで火が通っていないケースもある。たとえば冷蔵庫で冷した卵をゆでて、ゆで卵にした場合、4分程度のゆで方なら卵黄は十分に加熱されていない可能性がある。

半熟はサルモネラのリスクが高い

 消費者の味覚の傾向として、中が半熟の状態の卵料理が最近好まれる傾向があるが、加熱殺菌の観点からはサルモネラを温存するリスクの高い提供の仕方が、一般化しつつあると考えられるのだ。

 このように見ていくと、飲食店の現場はサルモネラ汚染の危険性が一杯であることがわかってくるだろう。


アメリカでは殺菌処理した卵がスーパーで売られている

 では、どうすれば改善されるのであろうか。

 経営陣、店舗・厨房責任者は断固たる意思を持って、現場に衛生観念を根付かせる必要があるが、アルバイトが多い業界の事情もある。中には衛生観念の低いアルバイトもいて、ふと監視の目を緩めた隙に、卵を取り扱うにあたっての厳禁事項を破ってしまうかもしれない。

 そう考えていくと、殺菌処理した安全な卵を使うという選択肢もあるということを指摘したい。

 すなわちあらかじめ卵を割って、サルモネラ対策を施した「殺菌卵」を活用するのである。殺菌卵というと日本では一般になじみのない商品であるが、アメリカでは冷凍食品コーナーに積み上げられた凍結液卵やチルドの牛乳パックのような容器に入った殺菌卵は、スーパーマーケットで普通に売っているポピュラーな商品なのである。

 サルモネラ対策にいち早く取り組んだアメリカでは、外食ではもちろん、一般家庭においてでも、卵はもはや必ずしも殻を割って調理するものではなくなっている。殻付卵を使用禁止としているホテルなどもあるほどだ。

 日本でも、ホテル、給食、病院ではサルモネラのリスクを回避するため、殺菌済みの加工卵を導入するケースが増えている。

 また、商業施設の中には卵の使用は殺菌卵しか認めないケースも出てきており、外食でも大手チェーンで導入が始まっている。つまり、卵の市場が「殺菌卵」へという流れに傾いている。

 外食産業も卵の市場が「殺菌卵」へと変わりつつある流れに、乗り遅れてはならない。




【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年3月18日


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