フードリンクレポート
【酒類大手4社の2009年】
不況で定番返り。スーパードライが強さを増しそう。
アサヒビール株式会社
ビール売上No.1を伝えるポスター。
・スーパードライ、20年連続1億ケース超。アサヒ、ビールシェア50%超
2008年のビール出荷量はビール酒造組合によると、2億5612万ケース、6.5%減。1ケースは大瓶20本分の12.66L。家庭用で低価格の発泡酒や第3のビールの台頭と、業務用でのアルコールメニューの多様化により、1994年をピークに縮小しつづけている。08年では、家庭用9.2%減、業務用3.2%減。業務用は比較的健闘しており、消費者の間でビールは飲食店で(外で)飲むものとの認識が、年々高まっているようだ。
その中で、スーパードライは、08年には20年連続で1億ケースを達成。ビール市場縮小の中で、アサヒビールは過去最高のシェア50%を超えた。
アサヒビールは、1980年代半ばにはシェア10%を割り、当時4位のサントリーに抜かれる寸前まで落ちて、経営も悪化。1986年に住友銀行から樋口廣太郎氏が社長として送り込まれる。そして、樋口氏の決断で、1987年にスーパードライが発売された。
当時のNo.1ビールはキリンラガー。ラガー扱い飲食店を訪ねて、スーパードライをサンプリングするという業務用に特化した地道な活動を行った。スーパードライは、世界で初めての辛口ビール。当時の主流の苦味の強いビールに比べると、キレのある辛口でどんな料理にも合うことで、最初に飲食店で火がついた。
「今はあの時以上にグルメ時代。スーパードライが受け入れられる時代になっているはずなのに、それをしっかりと伝えきれていない。発売当時は、飲んだことない方に飲食店で飲んでいただき、『初めての味だけど美味しいなあ』と家庭にも広がっていきました。飲食店さんで食通の人が、『これ意外と中華に会うな』、『刺身にも合うぜ』と広めていってくれたのです。今、その原点をわすれかけている。」
「飲食店経営者や料理人の方は今でも、良い評価・コメントをしてくれていますが、我々があまり伝えきれてない。『料理が繊細になってくると、どんな料理にも合うスーパードライの辛口が注目されるんですよ』と言われるが、そんないいフォローの風をもっと感じるべきです。」と、田中氏は言う。
確かに、No.1ブランドという印象が強すぎて、お客様は味を支持しているということが伝えられていないようだ。アサヒビールはスーパードライの原点に立ち戻ろうとしている。
スーパードライのこだわり。
・鮮度+環境貢献をアピール
景気の悪化とともに「ビールは外で飲むもの」という使い分けが進むのが今年だろう。すると、美味しい生ビールを提供することが、集客の武器になる。
そのために、アサヒビールは「うまい!樽生」の5原則を作り、お客が飲食店で生ビールを飲む際の品質アップに努めている。
<「うまい!樽生」の5原則>
1. ビールは鮮度!
「開栓後3日以内」の販売を目安に、販売量に適した樽サイズを選んでいただく。樽を「冷暗所で保管・使用」され、「丁寧に扱う」こともポイント。
2. ガス圧の調整!
樽内のビール温度によって変える必要がある。ガス抜け、ガス過剰なビールにならぬよう、こまめなガス圧の調整を心掛けましょう。
3. ビール回路の洗浄!
汚れた回路を通ってコックから出てくるビールの品質はNG。毎日の水通し洗浄と、週1回以上のスポンジ通し洗浄は最低限の習慣としましょう。
4. ジョッキの洗浄!
油分はビールの大敵。ジョッキに油分が少しでも残っていれば、きめ細やかでクリーミーな泡もビール本来の香りも損なわれてしまう。丁寧な洗浄と適切な保管方法を守りましょう。
5.「うまい!」の注ぎ方
ビールを泡立たせないように静かに注ぎ、最後にビールサーバーの泡付け機能で上から泡のフタをする方法が理想的。泡の比率は20〜30%がベスト。ジョッキは凍らない程度に冷やすのがベスト。
アサヒビールは鮮度だけでなく、飲食店でも環境への取り組みを伝えていくようだ。テレビCMでは既に紹介されているが、ビール醸造における煮沸時間を短縮することで、煮沸工程で発生する二酸化炭素CO2排出量を30%削減することができる世界初の新技術を開発した。
「飲食店様もお客様も環境に関心を持つ方が増えています。マイ箸なんかもそうですよね。 スーパードライは環境に貢献しようとしているビールですので、その事実を少しでも訴求したいです。どうせ飲むなら環境対応している商品、どうせ買うなら環境対応している企業と思っていただけるお客様が増えています。鮮度+環境貢献をスーパードライの付加価値としてお伝えしたい」と、田中氏。
まずは、飲食店向けに環境訴求型のポスターを作っている。スーパードライを環境負荷が低い商品として、新たな付加価値を付与しようとしている。
環境訴求型のポスター
・焼酎は品質保証体制を強化し、3月に再出発
アサヒビールは芋焼酎「かのか」「さつま司」などに事故米が使われていたことが判明し、2008年9月に芋焼酎の販売を休止し自主回収を行った。再開にあたり、米麹は流通経路が明確な国産米を100%使用し、芋は全て契約農家から仕入れるなど品質管理体制を強化する。再販売商品には、「米麹は国産米100%使用」のマークを入れ、本年3月より販売を再開する。
業務用の主力は、「さつま司」。
パッケージのマークで「米麹に使用している米は、全て国産米を使用」を明記。「流通経路が明確な国産米のみを使用します。グループ会社及び製造委託先で使用する米原料に関しては、当社或いは当社指定の米穀加工会社から調達する体制にします」と宣言している。
「安全・安心をしっかりお伝えして再度広げていきたい。焼酎事業をやる上では芋焼酎は欠かせない商品です。食を中心とした飲食店ではビールの次に支持されるのが焼酎ですので、『さつま司』を中心に『かのか』をからめて提案していきたい。できれば以前に取り扱いいただいた飲食店様で再度取り扱いいただき、一層の期待に応えていきたい」と田中氏は言う。
他にアサヒビールで人気の商品は、ベルギービール「ヒューガルデン」。昨年9月に小西酒造から移行してきた。飲食店の差別化商品として提案するとともに、バリエーションの多いビールの楽しさを伝えていきたいという。5月から「ギネス」をキリンビールが扱い始めることもあり、ビールのバリエーションが広く認知されそうだ。
ベルギービール「ヒューガルデン」。
ニッカウヰスキー余市モルトは、ワールド・ウイスキー・アワードWWAで2年連続受賞。
「ボルス」のリキュールシリーズも好調で、カクテルの入門編から応用編まで人気が続いている。また、梅酒「濃醇梅酒」はコストダウンでき、ハウス梅酒として人気がある。濃度が高く、ソーダ割りや水割りにしても、しっかり味わえる。
しかし、何と言っても、アサヒビールはスーパードライの会社。それが、今回の不況で、ビール市場でのスーパードライのシェアが、ますます上昇すると思われる。消費者が安心できるブランドを選ぼうとし、定番回帰現象が起きる。スーパードライを中心に既存ブランドを強化していくのが、2009年のアサヒビールの酒類事業戦略だ。
酒類本部営業統括本部業務用統括部 部長の田中誠司氏(右)と、副課長の石蔵利幸氏
アサヒビール株式会社 http://www.asahibeer.co.jp/
【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年1月22日取材