フードリンクレポート
【酒類大手4社の2009年】
発売20年、「一番搾り」リニューアルで扱い全店訪問。
キリンビール株式会社
キリン本社1階の「一番搾り」ディスプレイの前に立つ、濱田禎文氏。
・●3月、「一番搾り」は麦芽100%にリニューアル
1990年に発売された「一番搾り」は20年目を迎え、味覚とパッケージデザインをリニューアルする。3月上旬製造分から順次切り替わる。
新しい「一番搾り」
リニューアルのポイントは、麦芽100%に変わる点。「一番搾り」の特徴である、渋味をおさえたまろやかな味を踏襲し、磨きをかけようと開発していく中で、麦芽100%に行きついたという。麦芽100%でも、もたつかない、重くない すっきりしたビールができた。旨味を増そうとすると通常は渋味も増す。それをキリンの技術で、渋味をおさえて旨味だけ伸ばした。麦芽100%でも味はすっきり。
麦芽100%は、飲みごたえがあるが重いというのが消費者の持つ印象。この先入観を覆す味を作り上げた。同社生ビール扱い大半は「一番搾り」。飲食店のメインドリンクとして、お客に何杯も飲んでもらうためにも、すっきりした味が重要だ。スーパーなど量販店のバイヤーの間でも試飲してもらうと、予想以上に良い反応だと言う。
テレビ広告も、海外で活躍するイチローと、女優の松嶋菜々子を起用し、日本を愛し、日本を楽しむ人の「一番搾り」として訴求する。外食向けには、現在の「一番搾り」扱い全店に、同社営業部隊が説明をして回る予定だ。業務用の主力商品であり、力が入る。
・アルコール0.00%「キリンフリー」、“キリンのプリウス”
ノンアルコールビールと言えども、今まではアルコール分0.5%未満で、僅かながらもアルコールはあったが、「キリンフリー」は完全にアルコールなし、0.00%。同社独自の「アルコールを生成しない新製法」(特許出願中)で開発された。4/8に発売される。これに伴い、アルコール分0.5%の「モルトスカッシュ」は終売となる。
「キリンフリー」
「キリンフリー」は、警察庁科学警察研究所の論文を参考に、運転シミュレーターでの実験を行い、飲んでも運転能力に影響がないことを確認した。いわゆる、「運転できる」ビールテイスト飲料だ。
ロードサイド店舗や、サービスエリアでも道交法上で全く問題なくお勧めできる商品。パッケージもビールと同じように、缶だけでなく小瓶334mlもラインナップ。飲食店でビール同様に注ぎつ注がれつを楽しむことができる。ホステスクラブでアルコールに疲れた女性も雰囲気を壊さずお客に付き合うことができる。
現在のノンアルコールビール市場は頭打ち状態。スポーツをした後の体にいいと飲んでいる方など、ある一定レベルのお客さんに愛されて残っているが、総需要では広がっていない。今回の「キリンフリー」は、酒が飲めない方でもビールタイプの飲料を楽しめるし、酒を飲める方が飲めない状況でも飲むことができる。
「キリンビールとして、全市場に向けた新たなご提案です。課税数量には含まれずシェアには関係しないのですが、戦略商品として位置付けています。弊社の三宅(社長)は“キリンのプリウス”と呼んでいます。トップを獲るという発想だけではなく、お客さんが欲するものを開発していきます」と濱田氏は言う。
「発表段階での評価は非常に良いです。味は、ビールと思うと多少のギャップがありますが、消費者から全く同じものは期待されていません。『意外と、いけるじゃない』でいいと思います。」と濱田氏。
・ギネス、ハイネケン・エクストラコールド、淡麗樽生
不況とともに、「淡麗」の樽生店の取扱店が徐々に増えている。メニュー価格が均一の焼き鳥チェーンでは、700mlジョッキを280円で販売し、昨年は近畿・首都圏で100店を突破。おいしい樽生の店としてキリンが認定する「満点生の店」を全店で取得し、「淡麗」生の杯数も伸びている。ほぼ全店で「淡麗」生を導入している大手居酒屋チェーンでも不況とともに、「淡麗」生が増える傾向にあるという。
家庭で安価な第3のビールが普及するとともに、少し高い発泡酒「淡麗」を外食で飲むことに抵抗がなくなっているようだ。そう考えると、普通のビールを飲むこと自体がステータスになってきたようだ。いかに美味しく飲ませるか、が客単価の取れるビール販売の鍵となってきた。
「淡麗」の味のブラッシュアップも予定しており、不況を追い風に、このジャンルでのキリンの独走が始まりそうだ。
また、専用のディスペンサーを使って、0度の氷温で提供されるビール、「ハイネケン・エクストラコールド」。昨年は東京を中心に約50店の扱い店ができたが、今年はエリアを14都市中心に拡大する。国際的に展開されている提供スタイルであり、既に飲んだことのある外国人の多い空港での取扱いに力を入れている。プレミアムビールとして700〜800円で販売され、売れる利益商材となっている。
「ハイネケン・エクストラコールド」
さらに、6月から「ギネス」の販売権がサッポロから移ってくる。その説明のため、取り扱い店を訪問し始めた。
「取り扱っている方の意識が非常に高いのに驚いています。樽生扱い店では、自分でディスペンサーを洗うのは当たり前、最高の状態で提供するのがプライド、うちのギネスが日本で一番美味いと皆さん思っています」と、濱田氏は驚く。
キリンに変わって、樽生のサイズが30Lと15Lの2種。サッポロ時代の20Lが15Lに小さくなる。樽生や、瓶で提供する「サージャー」を扱う店は全国で約1万8千店。今までのキリンではあまり営業してこなかったバー業態も少なくない。今後はギネスをフックにしてこれまで以上に現場営業活動に拍車が掛かりそうである。
・業務用専門、安価なウーロン茶2L発売
居酒屋では、ビールの次に出るとも言われる、ウーロン茶。安価な商品がひしめいているジャンル。キリンの調査によると、清涼飲料の業務用市場でウーロン茶は約30%の構成比を占めるという。キリングループでは、キリンビバレッジが販売する「極烏」があるが、価格面で対抗できる業務用専門の2Lペット「キリン
烏龍茶」を今年1月に発売した。
「キリン 烏龍茶」
商品の製造・物流・販売はキリンビバレッジが行う。飲食店や酒販店に対してはキリンビールが営業活動を行い、強固な酒類ルートで確実に取扱店を増やそうとしている。
「一番搾り」のリニューアル、「キリンフリー」の新発売、「ギネス」の移入、「キリン 烏龍茶」の新発売がキリンの外食市場でのメイン活動となる。幅広い飲食店での扱いや、馴染みのない業態へのアプローチが成功の鍵となる。同社の営業部隊が足を動かして、機動力を発揮することが必要だ。
キリンは大手料飲チェーンでの取扱いが多い半面、今までは個店へのアプローチが手薄だったが、最近では現場に密着した営業活動が強化されており、この春の新商品発売を機にして、一気にエリア密着活動が加速しそうだ。
「今までのキリンの営業の動きとは違います。今年はもれなく料飲店様を回ります。『一番搾り』のリニューアルを機に、樽生扱い店を全店回ります」と、エリア全体をもれなく抑えていく営業姿勢に転換しようとしている。
【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年2月3日取材