フードリンクレポート
“ホピトラ”、“キラドロ”、トイレ掃除で売上右肩上り。
ホッピービバレッジ株式会社
ド派手なホッピーの営業車。
・健康志向でファンが拡大
ホッピービバレッジは、2003年以降、売上高が年々2割程の伸びを続けている。現在は売上高30億円を超える。地ビールやサワー、コアップガラナなどの商品もあるが、何といっても牽引するのは、ホッピー。
「前のバブル崩壊時も落ち込むことはありませんでした。不況に強い。純粋に好きと言っていただけるお客様が多いんです。ホッピーがメインの飲食店があって、そこでホッピー好きが集まってコミュニケーション。コアなファンに支えられています」と大森氏。
「昔は扱い店が少なかったので、自分の知っている扱い店をちょっと秘密にすることで、ファンは自己満足していました。皆さん、マイホッピー論を持っています。芸能人にもファンが多く、ビールを飲めない時に飲んだホッピーを覚えていて、飲むと初心に帰る、若くて頑張った時にハレの日のご褒美、だったそうです。」
ホッピーハッピー実行部 課長代理 兼 ホッピー未来開発室、大森啓介氏。
例えば、横浜・野毛の「ホッピー仙人」。カウンター8席のみ。カウンターが埋まると、椅子の隙間に立って、お客20〜30人で店内は溢れかえっている。30〜40代の男性客が中心。ドリンクはホッピーのみ。つまみもほとんどない。ホッピーファンの聖地といった店だ。
「ホッピー仙人」で出すのは、“3冷”と言われる、ホッピー、甲類焼酎、ジョッキをよく冷やして氷を使わないのが基本。「仙人こだわりの究極ホッピー」500円。他にも、ホッピーを温めてシナモンパウダーを振りかけた「温っぴー(ぬくっぴー)」500円など創作メニューもある。
同店だけでなく、ファンの飲食店やお客は創作メニューを作って楽しんでいる。カシスをホッピーで割った「カシッピー」や、梅酒を割った「ウメッピー」も誕生し、導入する店も広がっている。
コアなファンに加え、低カロリー・低糖質・プリン体ゼロという点が健康志向のお客をも取り込んでいる。さらには、60年間変わらない瓶がレトロブームにのって、若い女性の間でも火が点いた。
「お客様からレトロっぽいPOPを作るよう言われますが、レトロはブームに過ぎず、ブームは終わると考え、残念ながら作っていません。若いファンが増えているので、若者向けPOPは作っています。また、健康はブームではなく定着しているので、家庭用瓶のラベルに低カロリー・低糖質・プリン体ゼロの表示を加えました。」
・ドロドロ営業とアイデアで、23区を攻める
ホッピービバレッジの前身は、コクカ飲料。1910年創業。東京・赤坂でラムネを製造販売していた。大正末期に高価なビールの代用品として、ノンアルコールビール(ノンビアと呼ばれていた)のブームが起きる。ノンビアの粗悪品が出回る中で、創業者の石渡秀氏は本物にこだわり、長野県でホップ畑を偶然に見付け、麦芽とともに本物のノンビアを作った。それが1948年。
右が発売当時のホッピー(復刻版)。左は現在のリターナブル瓶のホッピー。
本物のホップを使ったノンアルコールビールなので「ホッビー」。そして、発音しにくいので「ホッピー」となった。「ホッピー」の「ホッ」は本物の意味。現在も、ドイツ産のホップと麦芽を使い、ビールと同様の製造工程で作られている。薄めたり、アルコールを抜くというような人工的なことは行っていない。
工場は東京・調布にある。
創業家の3代目が、現副社長の石渡美奈氏。『社長が変われば会社は変わる!』を出版し、全国で講演活動や、ラジオ出演を続けている。自ら「ホッピーミーナ」と称して、会社のPRを一手に引き受けている。
「ホッピーミーナ」こと、副社長の石渡美奈氏。
実はこの講演もホッピー営業のために活用されている。
「“キラドロ”作戦と言います。講演会の時には付近のホッピー扱い店のリストを参加者に配ります。講演を聞くと飲みたくなるでしょう。事前に、『うちの石渡が講演をやりますから、参加者がお店に来るかもしれません』と店を回ります。そして、翌日にもお伺いして、『どうでしたか?』と聞いて回ります」と大森氏。講演というキラキラしたものと、1軒1軒足で回るドロドロした営業活動をセットして、“キラドロ”作戦というユニークな名を付けている。
また、派手なホッピー・トラック“ホピトラ”も都内の繁華街を巡回している。
「オープンする店の近くで、ぐるぐる回って販促をかけています。基本は配送トラックです。朝、卸の配送センターに納品して、次の荷物が決まるのが夕方5〜6時。その間のアイドルタイムを使って都内を巡回しています。運送会社さんからの提案で始めました。現在、“ホピトラ”は40台あります。」
派手なホッピー・トラック“ホピトラ”。
マスコットの、ミスター・ホッピー。
取り扱い飲食店に対し大手酒類メーカーのような大がかりな支援ができない代わりに、トイレ掃除サービスを考えた。
「扱っていただくことになったお店にも、申し訳ないのですが大手酒類メーカーさんのような営業活動ができません。社内では環境整備が企業文化で、トイレも見えるところを単に拭くだけじゃなくて、便器に素手をつっこんで中まで洗っています。我々には当たり前のことなんですが、一般の方が見れば、『えーそこまで!』となります。お店のトイレを見えないところまできれいにします。お店の方からいただくお礼の手紙が励みになります。」
ドロ臭く、1軒1軒飛び込み営業。
小さい企業ならではのアイデアと体を張った作戦で扱い店を増やしている。現在は東京23区での営業活動に限られ、特に本社のある赤坂での扱い店を増やそうとしている。ドロ臭く、“3冷”のホッピーセットの入ったクーラーボックスを担いで、飲食店を1軒1軒飛び込み営業を行っている。
同社は来年が創業100周年。かつての売れない厳しい時代を経験した社員は今いない。今は伸びているが、売れなくなった時への危機感がある。小さくてもキラッと光り潰れない会社を目指し、200年続く企業文化を作ろうとしている。
「興味があれば呼んで下さい。飛んでいきます。クーラーボックスを持って」と大森氏は明るく締めくくってくれた。
【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年3月27日取材