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フードリンクレポート


沖縄から「紅いも」を原料にした本格芋焼酎のニューウエーブ!

2009.5.28
沖縄のお酒といえば約600年の歴史を誇る泡盛であるが、地元で採れる特産物「紅いも」を使った初の本格焼酎が開発された。「紅いも」とは内色が紫または赤の甘薯(=サツマイモ)で、沖縄土産ではタルトが有名。これを泡盛造りで使う「黒麹」で仕込むことで、ピュアな紅いもの甘い香味と華やかな香りを楽しめるお酒が誕生した。この開発の背景に迫ってみた。


「リトル沖縄」の紅いも焼酎「紅一粋(べにいっすい)」。

日本で最初に甘薯が普及した地、沖縄の紅いも

 甘薯は中南米原産のナス目ヒルガオ科サツマイモ属の植物。同じサツマイモ属には、アサガオがある。日本へは東南アジアから中国を経て、17世紀に当時琉球王国であった沖縄に伝わり、18世紀に入って江戸幕府8代将軍・徳川吉宗が飢饉対策として、栽培を奨励して以来、全国に食材として普及した。

 栄養学的には米と遜色ない炭水化物を有しながら、ビタミンC、食物繊維、ポリフェノールなどが豊富で、体に良く女性受けする食材とも言えよう。

 甘薯といえば鹿児島県が産地として知られ、焼酎ブームの中心にあった本格芋焼酎の本場も鹿児島県が中核となっている。しかし、日本で甘薯に最も早くから親しんだのは、沖縄県民であったことを忘れてはならない。沖縄には前述の通り日本での甘薯普及のルーツがあるからだ。

 そして、沖縄でよく栽培される甘薯が、内色が紫または赤の「紅いも」。色の鮮やかさや甘味が特徴の、「紅いものタルト」や「紅いもチップス」が、観光土産のお菓子として著名だ。

 2001年に放送されたNHK連続テレビ小説「ちゅらさん」以降、日本全国に沖縄の文化が知られるようになり、東京、大阪をはじめ全国に沖縄料理が広がった。それとともに、ゴーヤー、島らっきょうのような地場の食材や地酒の泡盛が郷土料理の沖縄そば、チャンプルー、ラフテーなどが普及し、スーパーの棚にも並ぶようになった。

 紅いもの認知度も、近年これらに劣らぬほどに上がってきている。

 そうした沖縄食文化の市場性の広がりを背景に、「古酒くら」でおなじみの蔵元「ヘリオス酒造」が今一度、創業理念の原点に立ち返り開発に至ったのが、昨年3月に発売された沖縄初の紅いもを使用した本格芋焼酎「紅一粋(べにいっすい)」である。

「紅一粋」


沖縄名産サトウキビから造るラムがルーツの酒造会社

 蔵元のヘリオス酒造 本社・工場は沖縄本島北部、森林資源が豊かなやんばる地方の玄関口である名護市許田にある。古くから名水の都と呼ばれた地で、オリオンビールの名護工場にも近い。


ヘリオス酒造 古酒蔵「一の蔵」の美しい夜明け。

 ヘリオス酒造は1961年の創業。国際品評会モンドセレクション最高金賞受賞の古酒「くら」、「主」を代表とする泡盛、ラム、ビール、ゴーヤーの発泡酒やトロピカルフルーツの代表格、パイナップルやシークヮーサー、グァバのリキュールなど多種の酒類を製造し、さらにワインなどの洋酒を輸入販売する、沖縄では数少ない総合酒類メーカーである。


「古酒くら」。


「ヘリオスラム」。

 また、地ビールや泡盛、県産食材を活かした飲食店事業や、琉球もろみ酢「黒麹醪酢(くろこうじもろみす)」をはじめとする健康食品も手掛けている。横浜、大阪にも支店があるので、沖縄県外でのブランドの浸透度も高い。

 創業者の先代、松田正氏は農学の研究者で、将来の食糧危機に備えて五穀に頼らない酒造りを提唱。「お酒はその土地で穫れる作物で造る」という理念のもと、沖縄の基幹作物であるサトウキビを使ってラムを製造した。しかし、当時の沖縄では市場性に乏しく、アメリカ統治下にあったことから、米軍の軍人をターゲットとし、彼らが出入りするバーなどで販路を広げた。

 72年の日本返還に際しては、観光立県・沖縄をアピールして、ラムを使ったハブ酒、黒糖酒(ダークラム)やトロピカルフルーツのリキュールを製造。

 79年に焼酎乙類の製造免許を取得して、泡盛の製造を始めた。沖縄県にある46の泡盛メーカーの中では最後発であったが、ラム、ウィスキーのノウハウを生かし、91年に樽熟成泡盛古酒「くら」を発売。樫樽でゆっくりと熟成させ、これまでの泡盛の色が透明という常識を覆した琥珀色の輝きと、まろやかな味わいでロングセラーとなっている。

 このように沖縄の酒類メーカーの中でもユニークな歴史を持つヘリオス酒造が、この度、新たに取り組んだのが、中国から伝わり沖縄を普及のルーツとする紅いもを使った本格焼酎の開発だった。


紅いもの契約農家との共同作業で泡盛に次ぐ第二の地酒を提唱

「96年にビール製造免許の取得と同時に完成したブルワリーのある、沖縄本島南部の八重瀬町が紅いもの産地であったのがきっかけです。酒類メーカーとして、特産物の紅いもを使ったお酒を造ることは、地域活性に繋がるものではないかと考え、紅いもの専門家である農家と、お酒の専門家である私たちが、一体となって共同研究してきました。沖縄の食材でお酒を造るのは、弊社先代の理念を伝えることにもなります。」と語るのは、ヘリオス酒造 マーケティング本部取締役本部長・松田あすか氏。


松田あすか氏(ヘリオス酒造 マーケティング本部取締役本部長)

 八重瀬町のある島尻地方は、珊瑚由来のミネラル分が豊富な暗赤色の大地「島尻マージ」と呼ばれる土壌が広がる。そこで採れる旧具志頭(ぐしちゃん)村の「ぐしちゃんいも」は、特に鮮やかな色合い、蒸したときのほくほく感、糖度の高さが優れており、食用として人気が高い。

 この「ぐしちゃんいも」の栽培農家と契約して、土作りから丹精込めて作った紅いもを原料にしているのが、「紅一粋」なのである。

「紅一粋」は泡盛で使われる「黒麹」で丁寧に仕込み、紅いもの甘い香味が引き立つ、芳醇な深い味わいに仕上がっているのが、もう一つの特徴だ。

 泡盛の製法はシャム(現在のタイ)から沖縄に約600年前に伝わり、それがさらに九州に伝わって焼酎に変わり日本全国に広がったとされる。そのため、約600年という歴史のなかで伝統を頑なに守り育まれてきた泡盛は、九州が発祥の地として知られる焼酎の源流といわれている。その伝統の製法—黒麹による全麹仕込み、単式蒸留—をそのままに、より熟成を促す銅製蒸留器の導入、北米産のホワトオークを使った樫樽熟成という新たなる挑戦によって誕生した古酒「くら」。経験と技術を培ってきた同社は今、紅いもを知り尽くした農家とタッグを組んで、沖縄の伝統食材を100%使った、“第二の地酒”紅いも焼酎の開発に至った。

「お酒は嗜好品なので、沖縄料理を召し上がるときにも泡盛だけでなく、それぞれのお料理に合ったお酒の選択肢があっても良いのではと思います。泡盛通の方にも、またこれまで焼酎を好んできた方にも、泡盛に次ぐ沖縄の“第二の地酒”として認知されるように、頑張りたいです」と松田マーケティング本部長は意気込んでいる。

 「紅一粋」という、そのネーミングは、紅いも一本の原料で仕上げるこだわりと、味わい深くかつピュアな味に仕上げたいという思いが込められた。

 商品ラベルデザインの筆文字は、日本デザイン書道作家協会主催「第13回日本デザイン書道大賞」で入選した。

 昨年出荷した5000本は完売。今年は5万本を目標としている。

 希望小売価格は、アルコール分25度、容量720mlで1470円(税込み)。業務用の一升瓶もある。


沖縄料理に合うお酒として強力プッシュする専門店

「紅一粋」は実際に飲食店でどのように飲まれているのか。銀座8丁目の沖縄料理店「リトル沖縄」を訪ねてみた。


「リトル沖縄」 外観。


「リトル沖縄」 カウンター。


「リトル沖縄」は今年でオープンして13年になり、銀座地区の沖縄料理店では最も早くから営業している店の1つだ。当時は沖縄料理のブームの前であり、沖縄出身の人か、沖縄で働いていた人しかほとんど来ない店だったという。

「チャンプルーって何?泡盛って何?その頃の東京の人はまだそんな感じでした。今はゴーヤーもヘチマも、皆さん周知の上で、ご注文されます」と根波春樹店長は感慨深げだ。


「リトル沖縄」 根波店長(中央)。

 今は沖縄の人より、近所のサラリーマン、OLが顧客の中心で年齢層は30代がコア。男女比は女性のほうがやや多いくらいだという。土日はカップルが多い。席数は45席、客単価は3500円となっている。

 人気の料理は、ゴーヤーチャンプルー、ソーメンチャンプルー、海ぶどう、島らっきょう、沖縄そばなどだ。

 最近の泡盛の飲み方として、ボトルキープをするのは年配の人ばかりで、若い人たちはグラスでいろんな銘柄のお酒を飲み比べていく傾向がある。それもアルコール度数の低いものから高いものへ、何杯か注文するのだそうだ。

「そういう飲み比べのバリエーションの中で、今までなかった沖縄県産紅いもを使った本格焼酎も入れていけば面白い。風味が良くて優しい味わいの飲みやすいお酒なので、女性にも受けが良さそうです」と根波店長。

 女性の場合、20度〜25度のお酒の次に飲むのは、黒糖梅酒になっていたが、「紅一粋」がラインナップに加わることで、選択肢が広がるだろう。

「料理では特に、ラフテーや紅いもチップス、紅いもコロッケと合いそうです。まだあまりどこにも入ってないお酒ですし、差別化になるので積極的に売っていきたい」とのこと。

 これまで「リトル沖縄」では九州の本格芋焼酎は置いてこなかったが、「沖縄産紅いも100%使用」のラベルのインパクトは強いと考えており、集客ツールとしても「紅一粋」に懸ける期待は大きい。


【リトル沖縄】
住所:東京都中央区銀座8-7-10 第一常盤ビル1F
電話番号:03-3572-2930
営業時間:月〜金 17時〜3時(L.O.2時)
       土日祝 16時〜24時(L.O.23時)
定休日:年末年始
客単価:3500円
席数:45席


バーでは本格焼酎の飲み比べアイテムとしての提案も

 バーでの評判はどうだろうか。東京の新橋駅西口にある「ホームバー 壱ノ庫」を訪ねてみた。


「ホームバー 壱ノ庫」 外観。


「ホームバー 壱ノ庫」 カウンター。

 この店は平成8年のオープン。ビルの7階にあって、ペントハウスのような雰囲気があり夜景の眺めもいい。1杯の平均が1000円ほどの気軽なバーで、オーセンティックなバーのような堅苦しさはない。

 店名の「壱ノ庫」の「壱」は一番になりたいとの思い、「庫」はウィスキーの熟成を見守る庫人(くらびと)から取っている。

 客単価は3500円ほどで、30代〜40代の近隣のビジネスマンが主な顧客だ。男女比では8割が男性で、1人で来る人が多いが、団体も結構来るので、平均を取ると2、3人とのことだ。日曜と月曜の祝日のみは、休みになる。

「初めての人はバーというと緊張する人が多いですが、肩肘張らずに楽しんでいってほしいです。早い時間はビール、9時以降と遅くなってくるとウィスキーがよく出ます。女性はシェイクしないビルドタイプのジントニックのようなカクテルが人気です」と福井政文マネージャー。

 料理は自家製の燻製が名物で、豚バラのベーコン、ロースハム、鴨、チーズといったメニューがある。

 極めてスタンダードなドリンクの出数が多い店だが、本格焼酎を好む人も多く、常時10銘柄ほどを置いている。

「本格焼酎を飲む人は、固定客の方がほとんどです。ずっと同じものを飲む人は少なくて飲み比べられますから、新しいアイテムとしてお勧めしています」。

 やはりせっかくバーに来たからには、いろんな銘柄を飲んでみたいといった心理が働くのだろう。少し前に本格焼酎に詳しいスタッフがいて、麹の種類、甘口か辛口かなどでいろんなタイプを、芋を中心に揃えた。

「紅一粋」は紅いも、黒麹を使った異色の商品なので、売り込みやすいとのことだ。ちなみに焼酎は1杯900円(税別)である。

「本格焼酎が本当に好きな人は、ロックで召し上がる傾向が強いです。スッキリしていて飲み心地は爽やかだと評判は上々です」と福井マネージャーの感触は良好だ。


【ホームバー 壱ノ庫】
住所:東京都港区新橋2-11-1 メナー新橋7F
電話番号:03-3595-3556
営業時間:18時〜2時
定休日:日、月曜の祝日
客単価:3500円
席数:29席


居酒屋でも定番になる!!

 居酒屋での反応はどうだろう。3店舗目は『南洋食堂 パラダヰス 〜パラダイス〜 新橋』を取材した。


「パラダヰス」 外観

 昨年3月オープンしたパラダイス(株式会社 zans 代表取締役水谷大輔)は、‘元気’‘楽しさ’をコンセプトにした沖縄創作料理居酒屋だ。それを具現化するように、入口から地下に進むとそこはまさに南国。 

 客層は、近隣のサラリーマンをはじめ女性客が多いのも特徴だ。

 料理は、沖縄料理ではスタンダードな海ぶどう(480円)をはじめラフテー(880円)などを中心に沖縄食材に様々なジャンルからよいところを取り入れた創作料理が中心だ。


「パラダヰス」 料理。


「パラダヰス」 海ぶどう。

 ドリンクも豊富で、現在50種類以上ある泡盛も来月から100種類に増える予定。特出すべきはパラダイスオリジナルカクテル「パラダイスサワー(600円)」で、スタッフが厳選ブレンドした泡盛をベースにシークワーサー・カルピスをソーダで割った。


「パラダイスサワー(600円)」。

 そんな中で、「沖縄産紅芋を使用した‘紅一粋’は店内の雰囲気とも合い、女性が求めるさっぱり感やラベルのかわいさからチョイスしました。今後の売れ筋商品になるのは間違いないと思います」とスタッフの外松知子さんは、笑顔で答えてくれた。

 焼酎ブームが一段落した今、商品にはよりいっそう個性化が求められるようになった。そういった酒のトレンドの観点からも、沖縄特産の紅いもを100%使い、泡盛に使う黒麹で仕込んだ「紅一粋」は時流にマッチしたものである。

 女性にも受けるマイルドな喉越しでほのかに甘い飲み口からも、沖縄料理店はもちろん、焼酎に力を入れているバー、さらには一般の居酒屋でも広く受け入れられる可能性が高い。

 紅いも焼酎が沖縄第二の地酒に育つか、今後も注目していきたい。


【南洋食堂 パラダヰス 〜パラダイス〜 新橋】
住所:東京都港区新橋4−26−4 グランシャリオビルB1F
電話番号:03-5408-5878
営業時間:月〜木・祝 11:30〜14:30/17:00〜24:00
       金・土祝前 17:00〜翌5:00
定休日:日祝
客単価:3500円
席数:50席


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2009年5月18日執筆


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