フードリンクレポート
立ち飲みの救世主? ハイボールが復権
横丁を彩る黄色い提灯。
・たこ焼きとハイボールのマリアージュを提案
もともと立ち飲みは、酒屋の店頭で小銭を払って酒を飲むという消費スタイル。江戸時代から昭和初期まで一般的に行われていたが、戦争で一時中断し、戦後再び復活した。高度経済成長とともに廃れかけた立ち飲み文化が、平成の不況と昭和へのノスタルジーで見直されてきた。そこに酒販メーカーの動きが加わり、一挙に加速。看板商品は、昭和に流行したウイスキーのソーダ割り「ハイボール」。サントリーが都市別にコラボ展開や独自のPR活動を行い、売上を大きく伸ばした。
サントリーが新たにコラボ展開しているのが「たこ焼」とハイボールの新提案。「築地銀だこ」を展開するホットランドと手を組み、立ち呑み業態に参入。「築地銀だこハイボール酒場」を新宿・人形町にオープンし、オリジナルの創作たこ焼とおつまみとともに、ハイボールや生ビールを提供する。
「築地銀だこハイボール酒場」人形町店。
ピリ辛のソースをかけたタイ風たこ焼(4個入り 380円)。
レタスで包んで食べる「レタスdeたこ焼」(4個入り 420円)。
ハイボールは7種類。一番人気は定番の「ザ・角ハイボール」(300円)で、1日200杯は出るという。ハイボールを今回メインに取り入れた理由について、株式会社ホットランドの新業態事業室の田中厚室長はこう打ち明ける。「“昔懐かしく新しい”イメージのあるハイボールで、今までたこ焼に親しみがなかった団塊世代の方もご利用いただきたい。『仕事帰りのちょっと一杯をたこ焼で』という提案をすることで新しい客層の掘り起こしがしたいということがあります。」
目の前でアツアツのたこ焼きを調理。
仕事帰りのビジネスマンをターゲット。
メインストリートで、ビジネスマンを取り込み、お土産需要も狙う。今年5月にオープンした歌舞伎町に引き続き、6月に人形町にも出店。年内に首都圏を中心に新業態「築地銀だこハイボール酒場」を15店舗ほどチェーン展開する予定だという。
この史上空前のハイボール市場に新たに参入してきたのが、ビールメーカー。立ち飲み業態の中でも横丁に着目した。
・横丁とタッグを組んで、ブームとなった「ジンジャーハイボール」
吉祥寺駅北口から徒歩1分の場所にある「ハーモニカ横丁」。
昭和の色濃いハーモニカ横丁。
今年の3月頃から、黄色い提灯が商店街に彩りを添えている。ここでは、ショウガの焼酎をソーダで割った「ジンジャーハイボール」が好評を得ている。焼酎ベースの変わり種ハイボールに、ショウガのヘルシーさが受けている。
「トライアングル スムース」を使ったジンジャーハイボール。
「すっきりした飲みやすさ」と食事によく合うところから、同横丁の売り上げにも貢献しているという。
仕掛けたのは、サッポロビールの営業マン。横丁の飲食店オーナーと協議した結果、「期間限定」ということでスタートしたが、思わぬ人気に「ジンジャーハイボール」を冠した黄色い提灯も据え置かれることに。
「『ジンジャーハイボールをみんなで盛り上げよう!』ということではなく、フワーっと盛り上がって広がった感じですね。いろいろな人と、いろいろな要因が重なり、ブームになった感じです」と打ち明けるのは、10年以上にわたって「ハモニカキッチン」を経営し、同横丁内に7店舗を出している手塚一郎氏。
ハモニカキッチン外観。
毎朝、武蔵野の地場野菜を買いつけ、築地から新鮮な畜産物や魚介類を仕入れている。客単価は2000円〜3000円程度。焼き鳥だけでなく、幅広い料理によく合うところがジンジャーハイボールが受ける点。ハイボールに親しみのある団塊世代からも、好評だという。
ジンジャーハイボールに生ショウガの搾り汁と生レモンを入れている。
・各店オリジナルのハイボールを用意、ハシゴも楽しめる
同横丁の飲食店23店のうち15店が扱うジンジャーハイボール。「酒房食堂dish」でもオリジナル・レシピを用意。
酒房食堂dish外観。
ジンジャーハイボール(600円)。
同店のジンジャーハイボールは、辛口のジンジャーエールで割り、生ビールの泡を加えたオリジナル。「やるなら他のお店と違うものを出したいということで、試行錯誤をしてアイデアを出しました」とオーナーシェフの佐藤堅次氏。提供する料理はイタリアンとフレンチの融合スタイル。平均単価はランチ1000円、ディナー4000円。同店に訪れる客の8割は女性。ジンジャーハイボールは飲みやすいと好評。「お客さんとも、ジンジャーハイボールの話題が出ますし、横丁内を何軒かハシゴをする人もいるようです」。
テリーヌみたいな卵焼き(680円)。
オーナーシェフの佐藤堅次氏。
立ち飲みは、ビジネスマンたちの憩いの場。会社と家庭を結ぶエアポケットでもある。そこに生まれたジンジャーハイボールという新たなブーム。酒販はもちろん、横丁の活性化、ひいては外食市場の新たな起爆剤となるかもしれない。