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フードリンクレポート


<第69回フードリンクセミナー>
神奈川県受動喫煙防止条例で外食企業の今後はどうかわる!
【講師】
神奈川県 保健福祉部健康増進課 たばこ対策室 室長代理 堀江信夫氏
株式会社ゼットン 稲本健一氏
株式会社ダイヤモンドダイニング 松村厚久氏

2009.8.21
2010年4/1の施行が決まった、神奈川県の受動喫煙防止条例。神奈川県の担当者に、現在神奈川県で飲食店を展開している外食経営者を交えて、条例の具体的内容を聞き、外食側からの質問の場を設けた。同様の条例が他の自治体でも提案されると想定され、神奈川県だけの問題ではなく、全国の外食業界の方々にも広く知っていただきたい。


神奈川県スモークフリー・キャンペーン。

神奈川県受動喫煙防止条例のポイント

 神奈川県では、受動喫煙による健康への悪影響を未然に防止する目的に、「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」を制定した。現在、「スモークフリー」をスローガンに、「吸わない人には、吸わせない。神奈川からなくそう、受動喫煙」をキャッチフレーズに、県民や施設管理者への条例の周知活動に努めている。


堀江信夫氏(神奈川県)が条例のポイントを解説。

 条例のポイントは、
1) 前提は、受動喫煙による健康への悪影響が科学的に証明されていること。

2) 神奈川県は「がんへの挑戦・10か年戦略」を平成16年度に策定し、がん対策に力を入れてきた。たばこ対策は、がん対策の一環である。

3) 県が行った調査によると、県民が受動喫煙にあった施設は「娯楽施設」86%、「飲食店」78%。

4) 県議会での議論、県民・事業者の意見収集、現地調査を経て、2009年23月に条例成立。

5) 議論の過程ですべての公共的施設における全面禁煙から、県民が自らの意思で受動喫煙を避けることができる環境整備の促進に変わった。

6)但し、未成年者については、受動喫煙による健康影響から保護する措置を講ずるとした。

7)学校、病院、公共交通機関、社会福祉施設、官公庁施設など(第1種施設)は、禁煙とすること。また、飲食店、宿泊施設、娯楽施設等(第2種施設)は、禁煙又は分煙を選べる。但し、施設の区分に関係なく「喫煙所」を設置することが出来る。

8)条例の実効性を確保するため、立入検査→指導・勧告→命令という段階を踏んで、罰則として過料を設ける。

9)「特例第2施設」に該当する施設は「努力義務」。「努力義務」とは、禁煙又は分煙に準じた措置をとるように努めなければならない、ということ。

10)「特例第2施設」に当たるのは3つ。
①パチンコ店、マージャン店、キャバレー、ナイトクラブ等の風営法対象施設
②事業の用に供する床面積から調理場を除いた部分の床面積の合計が100平米以下の飲食店。
③事業の用に供する床面積の合計が700平米以下のホテル、旅館等の宿泊施設。

11)知事が認定する以下の公共的施設は禁煙又は分煙の措置が不要。但し、未成年者の立入制限と表示義務が規定されている。
①専ら特定の者のみが利用することができる第2種施設であって、当該特定の者以外の者について受動喫煙が生じるおそれがないもの。
②専らたばこ又は喫煙具の販売を営む店舗であって、当該店舗内において客に喫煙をさせる方法により、これらの商品を販売するもの。

12)個人の規制は、喫煙禁止区域では喫煙しないこと。

13)施設管理者の規制は、
① 第1種施設では、禁煙、第2種施設では、禁煙又は分煙の措置を講ずること。
② 喫煙禁止区域にたばこの煙が流れ出ないようにすること。
③ 喫煙禁止区域に灰皿などの喫煙器具や設備を設置しないこと。
④ 喫煙区域や喫煙所に未成年者を立ち入らせないこと。
⑤ 施設入口に、禁煙・分煙等の表示をすること など。

14)分煙のために必要な措置とは、
①喫煙区域のたばこの煙が、喫煙禁止区域に流れないこと。
②利用客が出入りしない事務所などからも、喫煙禁止区域にたばこの煙が流れ出ないこと。
③喫煙所(喫煙ルーム)を設置した場合も同じ措置をとること

15)禁煙と喫煙の仕切りに開口部分がない場合、仕切りと排気設備が必要。

16)開口部分がある場合は、仕切りと排気設備のほかに、0.2m/秒の空気の流れが必要。

17)施設の区分に関係なく喫煙所(喫煙ルーム)の設置が可能。喫煙所から喫煙禁止区域へたばこの煙が流れ出ないようにすること。

18)「禁煙」「分煙」の表示を施設入口付近の見やすい位置に掲示しなければならない。

19)店内では、「喫煙区域」及び「喫煙所」の表示を、それぞれの区域の入口付近の見やすい位置に掲示しなければならない。

20)実効性を確保するための措置として、立入検査→指導・勧告→命令→罰則と段階を踏んで実施される。県民への情報提供のため、勧告に従わない施設名を公表することができるとしている。

21)過料は、喫煙禁止区域で喫煙した個人は2万円以下(実徴収額は2千円)、必要な義務を果たさない施設管理者は5万円以下(実徴収額は2万円)。但し、飲食店など第2種施設に対する罰則は、2011年4月1日から施行。

22)サポートは、特に小規模事業者に配慮。財政的には、日本政策金融公庫「受動喫煙防止資金」、神奈川県「小規模事業資金」、県の利子補給制度。情報・技術的には、既存の経営相談、相談窓口の開設、現場でアドバイスできる「分煙技術アドバイザー」を無料で希望する施設に派遣し、効果的・効率的な分煙の仕方をアドバイスする。

23)条例は、2010年4月1日施行、飲食店など第2種施設の罰則適用は2011年4月1日から。

24)3年毎に条例の見直し。全面禁煙への移行期間という意味ではない。


100名を超える参加。外食業界の関心は高い。


現状の外食企業の分煙への取り組み

<安田(フードリンク)>
 ゼットンさん、ダイヤモンドダイニングさん、現在、分煙問題にどのように取り組まれていますか? お店の現状を教えて下さい。

<稲本(ゼットン)>
 店によってバラバラです。分煙もあれば、完全禁煙もあれば、コントロールしてない店も。バーはコントロールしていません。カフェは分煙、レストランは完全禁煙。完全禁煙でも喫煙所を設けてあります。需要に合わせています。


稲本健一氏(ゼットン)

<安田>
 条例の対象となる、横浜の店はどうしていますか?

<稲本>
 ほとんどが、100㎡以上。テラスや屋上が吸えて、店内が吸えないというパターンがほとんど。雨の日は問題なので、雨を防げるテラスを作っています。

<松村(ダイヤモンドダイニング)>
 うちの100㎡を超えた店は、全て商業施設に入っているので、施設のルールに従います。商業施設が禁煙を選べば禁煙です。ラゾーナ川崎の店は分煙で喫煙席・禁煙席とエリアによって分けています。あとは禁煙です。


松村厚久氏(ダイヤモンドダイニング)


禁煙区域と喫煙区域の間に壁を作る

<安田>
 今後は、席を禁煙・喫煙で分けているだけではダメなんですよね? 壁を作らないといけない。

<堀江>
 壁と言っても、タバコの煙を防げるような材質のパーティションやパネルでなければいけません。

<安田>
 天井まで仕切りが届いてなければ、0.2m/秒の空気の流れがいるんですよね?

<堀江>
 0.2m/秒の風があればタバコの煙が逆流しない。ただ、開口部分があまりに広いと空気の流れを作るのが難しくなります。

<安田>
 松村さんのラゾーナの店も壁を作らなきゃダメなんですよね。

<松村>
 大丈夫です。作ります。


屋外は条例対象外

<安田>
 稲本さんがおっしゃった屋根があるテラス。屋外のテラスは吸ってもよい?

<堀江>
 条例は、室内またはこれに準ずる環境を対象にしています。テラスは屋外で条例対象外です。


禁煙区域は2分の1以上

<安田>
 分煙の場合、喫煙の部分と禁煙の部分の割合はあるんですか?

<堀江>
 禁煙席の面積の割合が2分の1以上。但し「2分の1以上とするように努めなければならない」と条例では規定しています。お店の物理的な条件によってどこを切るかは様々。必ずしも超えてなくても罰則にはかかりません。

<安田>
 なぜ2分の1?

<堀江>
 世の中の吸う方・吸わない方の割合がそのまま飲食店に適用できるとは思いません。レストランやカフェなど業態によって違います。目安として2分の1以上としました。ただ実際の県民の喫煙率は27%しかありません。

<安田>
 松村さん、居酒屋での喫煙率はどうでしょうか?

<松村>
 居酒屋の場合は喫煙率5割くらいじゃないでしょうか。

<安田>
 宴会のお客さんはグループの内、何人かは吸われる方がいらっしゃる訳で。そんな状況で分煙しろと言うと、グループがバラバラになるか、また、皆で喫煙の方に入っていただくしかない。

<堀江>
 それはグループで決めていただくしかないでしょう。

<安田>
グループで吸ってもいいよとなれば、喫煙の方にいけばいい。そこにお子さんがいらっしゃったら?

<堀江>
 条例では、未成年者は喫煙区域に立ち入らせてはならないことになっている。それだけはどうしても守っていただきたい。お子様連れでは喫煙席を使えないことをご説明いただきたいと思います。

<安田>
 100㎡以上の大きな居酒屋は、グループでの利用客が多い。グループの中には1人か2人は喫煙者がいると思いますので、ほぼ全席が喫煙席でないと上手くいかない気がします。あまりにもお客様のニーズに合わないのでは。

<堀江>
 本当にそうなんでしょうか。一人でも喫煙者がいたら、喫煙区域を選ぶんでしょうか。

<松村>
 会社の上司が吸っていれば、喫煙席に行くしかないです。


左から、稲本健一氏、松村厚久氏、安田正明(フードリンク)。

飲食店は公共施設か?

<稲本>
 僕はタバコを吸いません。寿司屋で未だにタバコを吸える店はすごく厭なんです。ただ、昔はたばこを吸っている人がいた。元々吸っていて辞めた人が一番タバコを嫌がるイメージがあります。分煙だからややこしくなる。禁煙か喫煙可にすればいい。飲食店は公共施設という話ですが、飲食店は嗜好品でもあるし、お客様が選ぶ権利もあるし、例えば「牛丼で吉野家は好きだけど、松屋は嫌い」というのもあるし、「モスは食べるけどマックは厭だ」とか、選ぶ権利がお客様にある。我々は選ばれる側。公共施設の中に飲食店を当てはめてしまうと、混乱が起きている。積極的に喫煙なのか禁煙なのか、はっきりしてほしい。受動喫煙がいやな人はその店にいかなきゃいいというのが本来の、いちばんそれが日本の中で受動喫煙を防ぐんじゃないでしょうか。分煙と言うゾーンがあるだけで、せっかく神奈川県さんが条例をあいまいにしている。喫煙、禁煙とやった方が結果いい。県民の健康を守ることになるんじゃないでしょうか。

<堀江>
 条例は、もう制定されているので言うことはないのですが、今おっしゃったような議論も当然ありました。もしグループで来て、数人が喫煙する場合に喫煙席を選ぶというような行動パターンのままなら何も変わらない。グループの中で1人でも2人でも禁煙を希望する人がいると思う。でないと、いつまでたっても受動喫煙防止は達成できないし、何も変わらない。それが、県民の調査で、受動喫煙にあった施設は「娯楽施設」86%、「飲食店」78%という調査結果に表われています。であれば、積極的に禁煙環境の整備、禁煙と喫煙を選べるようにしておくのが大事だという結論です。
 議会からの修正で、条例に加えられた部分があります。県が提案した条例第1条の原案では「自らの意思で受動喫煙を防ぐ環境の整備を促進する」でした。県議会は、「禁煙環境の整備及び自らの意思で受動喫煙を防ぐ環境を整備する」の「禁煙環境の整備」という文言を追加する修正を行いました。そうでないと、今、たばこを吸わない方が多い、あるいは吸いたくもないのに煙が流れていってしまう。結果的に、受動喫煙を防ぐ、避けるということはできないのではないか。全部喫煙可能という店はなしで、どの店に行って選ぶことができるようにしましょうというのが結論でした。
 なぜ、特例第2施設(厨房を除いて100㎡以下の店は努力義務)を作ったのかと言えば、小さい店は分煙に対応することが物理的に難しいからです。狭い店は分けると閉塞感があって居心地が悪くなる。空間が小さければ小さいほど負担が大きい。それは特例第2種施設にしましょうということになりました。


分煙ができているかは、店の自主判断

<安田>
 条例に則った分煙ができているという認定はしない?

<堀江>
 まずは施設管理者が自分で判断していただきたい。県の方でああしろ、こうしろもありませんし、認定することもありません。まずはチェックシート(「施設管理者のためのガイドライン」9p参照)で判断いただき、それでも分からない点は直接、相談いただくのが基本です。

<安田>
 禁煙が大好きなお客様もいる。そんな方ともめたりするのは想定していますか?店は分煙をしているつもりなんだが、禁煙に非常にシビアなお客様がいらっしゃって、「ちゃんとやってないんじゃないですか」というような事を県にクレームしてくることはありえますよね。

<堀江>
 外食企業の皆さんにお尋ねしたいのですが、実際にそういうクレームを寄せるお客様はいますか?

<松村>
 東京の店なので、そんなにないです。

<稲本>
 テラスでも、風を感じて外の空気を吸いながら美味しいお酒を飲みたい人と、そこでタバコをふかしたい人と混在する。そういうことで席を換えて下さいとか、はあります。あと、商業施設でよくあるんですけど、通路は公共部。店内は吸えるけど、店外は吸えませんという変なことになる場合があります。お客様が納得できない。その場合は施設さんと話して、テラス部分だけの喫煙の許可をいただく場合もあります。

<堀江>
 行政にクレームがくるという話ですが、実は、わずかですが既に来ています。条例が既に施行されたと間違えた方です。じゃ、施行されたらどうなるか。もし、クレームがあるとすれば、努力義務の店(厨房を除いて100㎡以下)を禁煙と間違えて言って来る場合が想定されます。実は、手元に皆さんの飲食店の台帳を用意していて、その場で、努力義務の店か分かるようになっています。それでも、席を分けるなりしていただきたい。
 現実的には私どもの方でおじゃまさせていただくことになるかも知れません。その時は本当にお客様の言い分が正しいのか、たまたま何らかの理由で煙が流れておっしゃっているのか、私どももいっしょに検証します。


100㎡以上の店を県は把握済み

<安田>
 県庁の方では店のリストがあって、100㎡以上なのか、未満なのかを把握しているわけですね。

<堀江>
 保健所からのデータで、対象かどうか直ぐに分かる体制になっています。ただ、面積を書いてないとか、ショッピングセンター全体の面積になっている場合もあります。今お問合せが多いのは、「ウチで貸している店は努力義務の店か?」という家主さん達です。


クレームの場合、県の指導は?

<安田>
 インターネットで「受動喫煙」を検索すると、熱狂的な禁煙派のホームページが沢山あり、ここは行かない方がいいよとかの情報が飛び交っています。逆に、愛煙家の方々のページはほとんどない。そんな方々が一斉に神奈川に来られてチェックされると怖いですね。

<堀江>
 現にそういうグループがあるのは承知しています。本来、正式な手続きを踏んで決められた条例なので、店が守ってないことが分かった以上、県は動かざるを得ません。

<安田>
 県の方が指導に赴かれるわけですよね。その場合、厳密に指導、0.2/秒の風が流れているのかなど、厳密にチェックされる訳ですか?

<堀江>
 あらゆる場合に0.2/秒の風が出てるかどうかは難しい。どういうことで設計したのか、その辺の話を聞くことになると思います。

<安田>
 県で育成を始めた、分煙技術アドバイザーを使うことが、ちゃんとやっているという証になりますか?

<堀江>
 分煙技術アドバイザーは効率的に分煙するためのあくまで提案をする立場です。実際の施工になると、地元の工務店さんなどに頼んでいただく。分煙アドバイザーを使えば大丈夫ということにはなりません。

<安田>
 不明確なので県が指導に行く店が増えるのでは。明確にルールが運営されるのは難しそうですね。

<堀江>
 そうならないためにも、まずはしっかり来年4月1日までに準備をしていただきたい。そうでない店が増えれば増えるほど、皆さまのトラブルが結果的に増えることになります。


禁煙、分煙を必ず表示する

<安田>
 禁煙、分煙のシールは無償ですか?

<堀江>
 皆さまの施設に最低1枚分は用意してあります。飲食店の組合の方に配ってくださいとお願いをしています。ただ、組合に入ってらっしゃらない方は、各地域の保健所又はたばこ対策室にいらしていただければ差し上げます。あるいは、県のホームページからダウンロードできるようになっています。県の様式の要素を満たしていれば、お店の意匠に合わせ文言を追加していただいたりするのは自由です。
禁煙の表示(第1種施設または第2種施設において禁煙を選択した場合)(PDFファイル:139KB)
分煙の表示(第2種施設において分煙を選択した場合)(PDFファイル:98KB)
喫煙区域の表示(PDF:155KB)
喫煙所の表示(PDFファイル:155KB)


表示について説明する堀江氏。

<安田>
 ステッカーを張っていると、お客様からはちゃんとやってるな、と見える訳ですね。

<堀江>
 この条例で表示は大事だと思っています。禁煙なのか分煙なのかを表示する。もう一つはこの条例で、店に貼るだけでなく、チラシやホームページでもお客様に分からせる努力をしていただきたい。お客様が店を選ぶ際の参考になります。

<安田>
 貼ってないと罰則になる?

<堀江>
 特例(厨房を除いて100㎡以下)以外は、貼ってないと罰則、過料の対象になります。ただ、いきなり過料ではなく、県の職員が指導に伺った時、指導に従って貼っていただければ問題ありません。


なぜ認定しない?

<安田>
 自主的に判断するものなので、店側はちゃんとやっていると思っても、お客様から「できてないんじゃないですか?」というクレームになる恐れもある。

<堀江>
 実際に、そういうクレームが出てくるかもしれないですね。

<安田>
 店側の人とトラブルになる可能性もある。県が認定してくれれば、店は逃げられるが、店側の自主的な判断となると、100%店の責任ですよということになっちゃう。お店側は逃げられない。

<堀江>
 条例の周知期間は通常半年ですが、これは1年かけています。さらに、健康増進法が施行されてから6年も経っています。お店というパブリックスペースを提供して営業していることから、皆さんには、きちんとした取り組みをいただきたいと思います。

<安田>
 なぜ、認定を避けるんですか? 消防は丸適マークがありますよね。

<堀江>
 一つは分煙を推奨したわけではないからです。お店によって色んな規制がある中で、どちらがお店にとってよいのかの判断です。

<稲本>
 全体的な世の中の流れは禁煙。オーストラリアで店をやっていて、オーストラリアで禁煙が徐々に広がっていく過程をみました。スタッフだけでなく、店舗の前でタバコを吸っているお客さんが逆に多くなったりして、外で吸う人も増えた。神奈川でも居酒屋の前はみんな外でタバコを吸っているという状態になったりすると思うんです。酔っているので、まあいいかとタバコをポい捨てし、火災が発生することもあるでしょう。シドニーではそれで火災が発生したという事例がいくつかある。そんな危険も同時にはらんでいる。
 横浜って汽笛とバーでカクテル飲みながら、ジャズを聞きながら、タバコがあったらいいかなというのがあるじゃないですか? 横浜以外の人にはそんなイメージがある。そんな風情的なもの、文化的なものも加味していかなきゃ。お役所仕事になり過ぎてしまう。サーファーは意外にスモーカーが多い。湘南のあの人たちの感覚ももう少し拾ってあげないと、いけない部分があるんじゃないかと僕個人は思います。

<堀江>
 日本の喫煙に関する規制の特徴は、路上など屋外の禁煙が先行したことが挙げられます。歩きタバコ自体を禁止しています。神奈川の市町村は33ありますが、内24で既に条例ができている。すると、外でも吸えない、中でも吸えないとなってしまいます。ここが条例作りの時に悩んだ点です。そのため、県の条例では、喫煙所設置を認めることとした。吸えるところを屋内に残したわけです。タバコは吸うな、タバコはいけないという条例ではないからです。タバコを止めたい人は支援しますが。あくまでルールを作ってそこで吸えば、吸う人も安心して吸える。吸わない人も安心して店を決められるわけです。
 今おっしゃった、店舗前の喫煙への対処は難しい問題である。現にコンビニ前の喫煙について県民からご意見をいただいたりしている。
 条例では、飲食店は、第2種施設として禁煙か分煙を選択していただく。ただし、小規模飲食店は特例第2種施設として努力義務となる。バーはほとんどが特例第2種施設となります。そういうところでは、何らかの形で自主的に努力義務としてやっていただく。例えば、できるだけ席を分けるとか、時間帯で分けるとか、あるいは店内の状況を見ながら「喫煙をご遠慮ください」とお客様に呼びかけるだけでも努力義務を果たしたことになります。


結婚式場も飲食店

<稲本>
 結婚式場はある意味会員制じゃないですか。子供がいることも多いですよね。その場合は?

<堀江>
 専門の結婚式場は、飲食店として取り扱います。そういうところには、ほとんどの場合お子さんがいらっしゃいます。その場合は、禁煙にしていただかないといけない。吸いたい方は喫煙所へという形になる。


財政的な支援は?

<会場からの質問>
 条例の施行にあたり、県として補助金を出すべきじゃないですか? これまでの経緯で補助金を検討したのですか? 既存の融資制度をお使い下さいというお話があったわけですが、借金をして設備投資をしても、認定されないという懸念が残る訳です。財政的な支援が本当にしっかりしたものなのか? 禁煙を強要している条例になりかねないんじゃないかと危惧しています。

<堀江>
 健康増進法が施行されて6年が経ちます。この間、自主的に禁煙にしたり、分煙している方もあり、その方たちに対して不公平となります。ということで補助金は適切ではないと判断しました。しかし、小規模事業者を対象にした融資制度のほか、利子補給制度により支援する体制を整えています。また、日本政策金融公庫の「受動喫煙防止資金(健康・福祉増進貸付)」についても、利子補給の対象としていますので、ご利用ください。利子補給は、融資利率の2分の1以内となっております。融資制度及び利子補給制度の詳細は、県のたばこ対策のHPをご覧下さい。


店舗での工事費用は?

<会場からの質問>
 店舗で分煙を実施する際に、どれぐらいの費用がかかりますか? 

<堀江>
 一概に言えません。お店にテラス席があればそちらでお吸いいただくとか、敷地が広いようであれば建物の外で吸っていただく。あるいは、次の選択肢としては喫煙所を設ける。分煙よりは比較的安いのです。最後に分煙となります。例えば、完全に仕切るのではなく、エアカーテンを導入するなどの工夫をするとか、店舗が複数フロアに分かれているのであれば、上の方を喫煙区域にして下を喫煙禁止区域にすれば費用は要りません。いろんなやり方があります。


他の自治体での条例化は?

<会場からの質問>
 神奈川県外でこの条例について、どのように考えられていますか?

<堀江>
 県外からはお問合せはいただいていますが、具体的にどの県でいつ条例化されるという話は聞いていません。ただ、国がどのように動くか。3年毎に見直しとしたのは、たばこをめぐる環境は動きが早く、3年毎にどのように変わっていくか、予想がつかないからです。通常、法律や条例の見直しは、5年毎ですが、この条例は3年としています。それは、今から5年前のことを想定してもらえれば分かります。タバコに関してはものすごく変わりました。国の方も、今年の3月5日の厚労省の研究会の報告書では、公共的な空間を有する施設を全面禁煙とすべきとする方針が出て、全国の都道府県に通知する予定です。これを受けて各都道府県で、受動喫煙防止への取組みが進むことが想定されます。

<稲本>
 愛知県、静岡県などで話が出ているようです。ウチは名古屋にシガ—バーを中心の店が3、4件。100㎡以上の店もある。東京・新橋のスモーキングカフェのように、自分の健康は自分で守るべき。あまり規制しすぎると、何か違うな。タバコはそんなに危険なものじゃないでしょう。CO2削減と言いながら、高速道路を安くして、車がぼんぼん走って何だかわからない政策が多い。そんなことの二の舞にならなきゃいい。神奈川県さんは是非リードして欲しい。


海の家は?

<会場からの質問>
 鎌倉の海水浴場組合の方がこの条例を気にされています。湘南の海の家もこの条例の適用範囲になるのか? 海の家は屋外でもあるが、昔の海の家とちがって100㎡を超えるようなちゃんとした飲食店が沢山できている。扱いをどうされるのか?

<堀江>
 この条例で海水浴場を対象にするのは全く誤解です。この条例で対象となるのは、屋内の環境だけです。屋内ということは、海の家が対象になる可能性があります。今の海の家は立派な飲食店になっているので、屋内とみなされるような構造を持つ場合は対象となりえます。
 また、海水浴場での喫煙を規制しようとしているのは、受動喫煙防止が目的というより、ごみの問題や、危険防止が目的です。ビーチクリーンを行うとタバコのゴミが何分の一を占めていたとか、裸でいる場所での歩きタバコは大変危険だということへの対策です。今検討しているのは、海水浴場の砂浜を区切って、そのシーズンに限って一定の間隔で喫煙区域を設けてそれ以外は吸わないようにしましょう、ルール作りについて市町村と検討を始めたという段階です。


未成年の従業員は?

<会場からの質問>
 分煙して喫煙スペースを確立した時に、未成年の従業員を勤務させる時はどうしたらいい?

<堀江>
 未成年者は利用者に限ります。業務として入る場合は対象外です。仕入れ業者さんも対象外。あくまでもお店の利用者を保護の対象としています。


だれが過料を徴収する?

<会場からの質問>
 条例に違反すると罰則が設けられる。だれが注意してだれが徴収するんですか?

<堀江>
 罰則は過料といいます。罰金と同じく金銭罰ですが、罰金と過料というのは大きな違いがあります。罰金は警察が徴収。また、罰金は前科になりますが、過料はなりません。過料を取る場合は行政の職員が徴収に行きます。

<質問者>
 そうすると現行犯じゃない。その方いないのでその場で取れない。

<堀江>
 個人が喫煙禁止区域で吸った場合、通報を受けて県の職員が駆け付けたとしても、その時には喫煙は終わっているので、通常は過料を取るようなことにはならないと思います。もしあるとすれば、反復して喫煙禁止区域で喫煙をしているような悪質な場合を想定しています。そこで、県の職員が注意しても止めない場合に過料を徴収します。

<質問者>
 それでは中途半端で終わってしまう気がするんですね。飲食業は今、雑多な雰囲気を作らないとお客様を集められない。きっちり分煙をやることはいいことですが、そういうお店を作ってもお客様が来ない。
 条例をきっちりとらえて、「あの人吸ってるよ、お金とるんじゃないの?」とお客様から言われると、店の人間が今度は注意しなきゃいけなくなる。店の人間が注意すると、お客様はお酒も入り気が大きくなっているので、怒りだしてしまう。からまれるとやばい。こういう考えも条例を作る際に出たと思います。その当たりのいきさつを教えて下さい。

<堀江>
 例えば、JR東日本では毎日平均して1人の駅員さんが乗客とのトラブルで怪我をするそうです。それほど、お客さんへの対応は難しいと承知しています。条例では、タバコを吸っている方を見かけたら「喫煙を止めて下さい。外で吸って下さい」と注意する施設管理者の義務があります。条例制定の過程で、どうやって注意するのかという議論がありましたが、この義務については、罰則は外すこととしました。注意しなくても罰則の対象とはなりません。


条例は今後も無くならない?

<会場からの質問>
 新しい知事になって新たな公約をすれば、この条例が無くなってしまうんですか? 問題は借り入れをしちゃって、借り入れだけが残ってしまう。

<堀江>
 当然、改正というのはあります。この条例は松沢知事が2期目のマニフェストに掲げたもので、知事が変われば、条例が変わる可能性はあります。ただ、知事が言いだしても議会の議決がないと改廃はできません。議会は、分煙・禁煙の表示を広めようと言う方針です。また、厚労省で全面禁煙にしようという方向を打ち出しているので、後戻りの可能性は低いと考えています。3年後、消費者の方も変わって、事業者も自主的にやって、うるさくいうこともないだろうという状況になれば条例はいらなくなるかもしれません。しかし、分煙・禁煙は、お客さん同志で話し合って解決できないので、行政が介入することとしたものです。ですから、3年後に条例が規制を緩和する方向に変わっているということはないでしょう。


店の売上は下がる?

<会場からの質問>
 タバコ税収もある中で、このような制度を作るなら、国からタバコ税で得た税収の地方配分を辞退する予定はありますか?

<堀江>
 たばこの税に関する仕組みは、国の法律で決まっており、地方自治体で勝手に決めることはできません。

<会場からの質問>
 神奈川県下のタバコ農家やタバコ屋が潰れると考えられますが、どう考えますか?

<堀江>
 神奈川県では、25年前にタバコ栽培農家はなくなっています。喫煙率が下がって1人あたりの消費量が減っています。この条例はタバコを吸うなという条例ではありませんし、これによってタバコ消費への目に見えるような影響があるとは思っていません。たばこ店がこの条例で潰れることはないと考えます。
 また、バーも潰れると言われますが、そのほとんどは100㎡以下。会員しか来ない店なら知事の適用除外認定施設となっていただけばいい。廃業しなければならないほどの影響はないと思います。
 飲食店の売り上げが減るという話がありますが、海外を調べても、影響があったという国、無かったという国の両方あります。香港では一時は落ちたが客層が変わって上向いたと聞いています。アイルランドでは、確かに落ちた。しかし、たまたまその時に飲酒運転の規制が厳しくなった影響が大きいという説もあり、複合的な要因が重なったのではないか。この条例によって飲食店の売上にそんなに影響がないというのが我々の見解です。


排気の替わりに空気清浄機は?

<会場からの質問>
 分煙の場合、排気設備を新たに設けて、タバコの煙は外に排気となっていますが、ビルで新たに排気ダクトを設けるのが難しい場合、空気清浄機を使ってタバコの煙をきれいにして、店内に還流する形をとることは問題ないですか?

<堀江>
 空気清浄機だけでは、分煙基準を満たすことはできません。タバコの煙の成分は目に見える粒子状成分と、発がん物質を含むガス状成分を含んでいます。空気清浄機ではこのガス状成分は除けません。地下街の飲食店は確かに分煙にするのが難しい場合があります。ビルの躯体をいじると1千万円単位の費用がかかるとされています。対応が難しいことは承知しています。


エアーカーテンは仕切りになる?

<読者からの事前質問>
 分煙基準にある「仕切り」について質問させて欲しい。煙が漏れないようにする為に、「仕切る」事が要件にされているが、エアカーテンをつければ「仕切り」とみなされるのか?

<堀江>
 エアカーテンは、開口面積を狭める方法としては有効ですが、仕切りとみなすことはきません。


0.2m/秒の風速を測ってくれる?

<読者からの事前質問>
 オペレーション上、ドアの設置が困難。専門家に聞くと、セルフチェックにて計算上はOKであっても、空調機や隙間風などの影響で、実際には0.2m/秒の風速が確保できない場合が多いと聞いた。この場合は、県が判定してくれるのか?

<堀江>
 開口部分がある場合は、空調機、隙間風などの影響も考慮のうえ、実際の風速を0.2m/秒以上確保する必要があります。県が判定、認定等を行う予定はありませんが、風速計により測定を行うことは可能です。


表示は自由なデザインでよい?

<読者からの事前質問>
 現在、分煙の表示をしている。県指定の、はっきり申し上げて無粋なデザインのものに貼り替えなければならないのか? ステッカーは条件を満たしていれば、自由なデザインでもいいのか?

<堀江>
 条例施行前の既存の表示について、条例で定めている様式に準じたものであれば、当分の間は、貼り続けること可能であり、直ちに貼り替える必要はありません。条例施行後は、様式で定めた表示を掲示していただくことになります。ただし、規定のサイズ(A6)より大きくすることは可能であり、また、様式の要素(マーク、文言)を含んでいれば、施設の意匠に合わせて、デザインを工夫したり、文言を追加することは可能です。


分煙ルームでフィルターを通してきれいな空気を戻すのは?

<読者からの事前質問>
 焼肉屋がわかりやすいイメージですが、排気ダクトを外に出すのは、非常に設備的に難しいのですが、(ガラスで仕切った分煙ルームで)フィルター(空気清浄機を含む)を通した綺麗な空気を室内(喫煙室及び禁煙室)に戻すことは条例として問題ないのですか?

<堀江>
 喫煙区域に空気清浄機を設置することは可能ですが、空気清浄機だけでは、タバコの煙に含まれる有害なガス状成分を除去できませんので、空気清浄機だけは不十分で、必ず、排気設備が必要となります。
 焼肉店のようにもともと排気風量が大きい店舗では、喫煙区域と喫煙禁止区域の境界に仕切りを設置しなくても、喫煙禁止区域にたばこの煙が漏れない可能性があります。
 その場合は、分煙基準と同等以上の効果があるかどうか、厚生労働省の分煙効果判定基準に基づき、デジタル粉じん計により、喫煙禁止区域の粉じん濃度が喫煙によって増加しないことを確認していただくことになります。
 分煙効果判定基準に関する詳細は、厚生労働省のHPをご覧ください。



【開催】 横浜マリンタワーにて、2009年7月30日開催


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